112 / 680
第112話「下見以上」
しおりを挟む
約1時間後、リオネルは洞窟から戻って来た。
その間、ゴブリンは外で待つモーリス達3人の前に現れていない……
「ただいま、もっどりましたあ!」
「おお、リオ君。お疲れさん。見たところ、怪我はないようだな。無事で何よりだ」
「ええ、ノープロブレムですよ。すこぶる元気ですし、全然大丈夫です」
「ふむ……結構、時間がかかったな」
「はあ、だいぶ奥まで行きましたから」
「おお、だいぶ奥。そうか。で、状況は?」
「はい、実は最奥まで行きましたが、結構な数のゴブリンが洞窟の中で死んでいました。魔導発煙筒の白煙に苦しみ、衰弱して死んだようです」
「おお、そうか! それは朗報だ。ならば私達が討伐する数もだいぶ減っただろう?」
「はい。なので俺も残っていたゴブリンを相当数倒しました。残りの数を考えたら、予定変更で行けると思います」
「何? 残っていたゴブリンを相当数倒した? 予定変更? どういう事だい?」
「はい、洞窟内に居る残りの個体数を考えると、この陣地から遠距離魔法攻撃は不要です。俺も魔導発煙筒をセットしませんでしたし。いきなり全員突入で構わないと思います」
「おお、そうか。いきなり、ぜんいん、とつ、にゅうか?」
「ええ、いきなり、ぜんいん、とつ、にゅうです」
リオネルはモーリスへ、そう言葉を戻し、ミリアンとカミーユへ向き直る。
「ミリアン、カミーユ」
「は、はい!」
「はいっす!」
「いよいよ、洞窟探索だぞ」
「どきどきします!」
「緊張するっす!」
「臆する事はないさ。今、モーリスさんへ伝えた話をふたりも聞いていただろう? 俺は洞窟の最奥まで行って来た。まだ多少生き残りは居るけれど、残党のゴブリンを相当数倒したし、洞窟内の状況もほぼ把握している」
リオネルが言うと、ミリアンとカミーユは首を傾げる。
「リオさん、それ、さっき聞いて思ったけど、凄くおかしいです」
「そうそう、姉さんの言う通り、とってもおかしいっすよ」
「おかしい? ほう、どうしてだ?」
「だって! ラスボスが居るかもしれない最奥まで行ったんでしょ?」
「そうっすよ! リオさんの実力なら、最奥に居るラスボスでも倒せるはずっす! それでこの依頼は終わり……じゃないっすか? 何故倒さないっすか?」
ミリアンとカミーユの当然すぎる疑問。
対して、リオネルは微笑む。
「ああ、ラスボスね。そういえば確かに居たよ、上位種が。そいつは倒した」
「はあ? ラスボスは倒したって、リオさん、何それ? 意味が解りません!」
そう、リオネルは洞窟の最奥まで行き、ノーマルタイプの残党の殆どと、
ラスボスの上位種『ゴブリンシャーマン』を倒した。
だが、洞窟内には敢えてノーマルタイプのゴブリン数体を残して来たのだ。
リオネルが、ラスボスを含めたゴブリンの残党を全て倒せば……
3人は洞窟内へ行く必要はなくなる。
なのに何故、倒さなかった?
ミリアンとカミーユからすれば、
『リオネルの下見』は、全く意味のない行為に映るだろう。
傍らで、モーリスも、リオネルの行動を疑問視するかと思いきや、
何故か、柔らかく微笑んでいた。
リオネルの『意図』を察したらしい。
しかしカミーユは、首を傾げる。
「ラスボスを倒してザコは残したって、全くわけわかんねぇっすよ……ああっ! わ、分かったあ! 分かったぞぉ!」
訝しげな表情のカミーユであったが、突然「はた」と手を叩いた。
「うんうん」と頷く。
弟の反応に驚いたのはミリアンである。
「な、何が分かったのよ、カミーユ」
「姉さん」
「な、何よ」
「リオさんは、俺達の為に、下見以上の事をしてくれたっす」
「え? 私達の為に、下見以上をしてくれた?」
「そうっすよ。ゴブリンの相当数を倒しながら、最奥まで行ってくれて、リオさんが洞窟の勝手が完全に分かったのに加え、上位種のラスボスまで倒し、残りはザコのノーマルタイプが僅か……」
「そ、そうなるわよね」
「それって、姉さん、洞窟バトルデビューの俺達にとって、えらく安全な状態っすよね」
「ん、うん……確かに……100%安全ではないけれど、私達は、相当安全よね」
「そうっす、姉さん。100%安全ではない。だから俺達はけして油断はせず、結構注意して、洞窟の探索をするんじゃないっすか?」
「あ、ああっ! そうかあ! 敵が残っているから、私達は油断せず警戒するし、緊張はするけれど、必要以上に怯えないくらいの状態にしてくれたんだ! リオさんが!」
「ピンポーン! そうっすよ。依頼が9割方完了して、洞窟探索初体験の俺と姉さんは、精神的に余裕を持てるし、危険な場所も、リオさんが事前に全部チェックしてくれたから注意しながら歩けるっすよ」
「それ……私達が怪我をしないように、だよね?」
「そうっす! 傍から見れば甘やかしっすけど、これで万全な修行が出来るっす!」
「あはは、確かに相当な甘やかしだ。私達、特別扱いされてるよねぇ」
「そうっす! でもリオさんのお陰で、2度目以降も洞窟探索に対する恐怖やネガティブさがなく、前向きにトライ出来るっす! やっぱりリオさんは俺達姉弟の事を、いつも真剣に考えてくれているっす。いや、考えているだけじゃないっす。しっかり行動もしてくれるっすよ!」
リオネルの優しさ、思いやりに触れ、幸薄かった孤児の姉と弟は感無量である。
「リ、リオさん、ありがとう! 大好きだよ!」
と、ミリアンが頬を少し赤くして言えば、カミーユも晴れやかな笑顔で、
「ありがとうございまっす! 俺もリオさんが大好きっす!」
と、元気良く言い放った。
ここで、モーリスが『すまし顔』で割って入る。
「うんうん! 良かったな。今回は私とリオ君で、未熟なお前達の為、事前にそう決めておいたのだ。私の発案だぞ!」
そんなモーリス対し、ミリアンとカミーユは憤慨する。
「あ~! せっかくの名シーンが台無しぃ! いっつも美味しいところだけ、持って行こうとする師匠は最低!」
「姉さんの言う通りっす! ぐうたらな師匠は何にもしていないじゃないっすか! 本当は何もやってないし、知らなかったんじゃないっすかあ!」
「こらあ! お前ら、何だその突っ込みはあ! 弟子の癖に生意気だぞぉ!」
という、『いつものやりとり』があった後……
ひと休みして、4人は全員、洞窟内へ突入した。
そして、リオネルの注意とアドバイスを受け、師匠のモーリスが見守る中……
ミリアンとカミーユは程よい緊張感を持ち、姉弟で協力し合いながら、
残党のゴブリンども十数体を倒して進んで行き、洞窟の最奥まで到達。
出入り口までの帰還も無事に終え、最高の洞窟バトルデビューを飾ったのである。
その間、ゴブリンは外で待つモーリス達3人の前に現れていない……
「ただいま、もっどりましたあ!」
「おお、リオ君。お疲れさん。見たところ、怪我はないようだな。無事で何よりだ」
「ええ、ノープロブレムですよ。すこぶる元気ですし、全然大丈夫です」
「ふむ……結構、時間がかかったな」
「はあ、だいぶ奥まで行きましたから」
「おお、だいぶ奥。そうか。で、状況は?」
「はい、実は最奥まで行きましたが、結構な数のゴブリンが洞窟の中で死んでいました。魔導発煙筒の白煙に苦しみ、衰弱して死んだようです」
「おお、そうか! それは朗報だ。ならば私達が討伐する数もだいぶ減っただろう?」
「はい。なので俺も残っていたゴブリンを相当数倒しました。残りの数を考えたら、予定変更で行けると思います」
「何? 残っていたゴブリンを相当数倒した? 予定変更? どういう事だい?」
「はい、洞窟内に居る残りの個体数を考えると、この陣地から遠距離魔法攻撃は不要です。俺も魔導発煙筒をセットしませんでしたし。いきなり全員突入で構わないと思います」
「おお、そうか。いきなり、ぜんいん、とつ、にゅうか?」
「ええ、いきなり、ぜんいん、とつ、にゅうです」
リオネルはモーリスへ、そう言葉を戻し、ミリアンとカミーユへ向き直る。
「ミリアン、カミーユ」
「は、はい!」
「はいっす!」
「いよいよ、洞窟探索だぞ」
「どきどきします!」
「緊張するっす!」
「臆する事はないさ。今、モーリスさんへ伝えた話をふたりも聞いていただろう? 俺は洞窟の最奥まで行って来た。まだ多少生き残りは居るけれど、残党のゴブリンを相当数倒したし、洞窟内の状況もほぼ把握している」
リオネルが言うと、ミリアンとカミーユは首を傾げる。
「リオさん、それ、さっき聞いて思ったけど、凄くおかしいです」
「そうそう、姉さんの言う通り、とってもおかしいっすよ」
「おかしい? ほう、どうしてだ?」
「だって! ラスボスが居るかもしれない最奥まで行ったんでしょ?」
「そうっすよ! リオさんの実力なら、最奥に居るラスボスでも倒せるはずっす! それでこの依頼は終わり……じゃないっすか? 何故倒さないっすか?」
ミリアンとカミーユの当然すぎる疑問。
対して、リオネルは微笑む。
「ああ、ラスボスね。そういえば確かに居たよ、上位種が。そいつは倒した」
「はあ? ラスボスは倒したって、リオさん、何それ? 意味が解りません!」
そう、リオネルは洞窟の最奥まで行き、ノーマルタイプの残党の殆どと、
ラスボスの上位種『ゴブリンシャーマン』を倒した。
だが、洞窟内には敢えてノーマルタイプのゴブリン数体を残して来たのだ。
リオネルが、ラスボスを含めたゴブリンの残党を全て倒せば……
3人は洞窟内へ行く必要はなくなる。
なのに何故、倒さなかった?
ミリアンとカミーユからすれば、
『リオネルの下見』は、全く意味のない行為に映るだろう。
傍らで、モーリスも、リオネルの行動を疑問視するかと思いきや、
何故か、柔らかく微笑んでいた。
リオネルの『意図』を察したらしい。
しかしカミーユは、首を傾げる。
「ラスボスを倒してザコは残したって、全くわけわかんねぇっすよ……ああっ! わ、分かったあ! 分かったぞぉ!」
訝しげな表情のカミーユであったが、突然「はた」と手を叩いた。
「うんうん」と頷く。
弟の反応に驚いたのはミリアンである。
「な、何が分かったのよ、カミーユ」
「姉さん」
「な、何よ」
「リオさんは、俺達の為に、下見以上の事をしてくれたっす」
「え? 私達の為に、下見以上をしてくれた?」
「そうっすよ。ゴブリンの相当数を倒しながら、最奥まで行ってくれて、リオさんが洞窟の勝手が完全に分かったのに加え、上位種のラスボスまで倒し、残りはザコのノーマルタイプが僅か……」
「そ、そうなるわよね」
「それって、姉さん、洞窟バトルデビューの俺達にとって、えらく安全な状態っすよね」
「ん、うん……確かに……100%安全ではないけれど、私達は、相当安全よね」
「そうっす、姉さん。100%安全ではない。だから俺達はけして油断はせず、結構注意して、洞窟の探索をするんじゃないっすか?」
「あ、ああっ! そうかあ! 敵が残っているから、私達は油断せず警戒するし、緊張はするけれど、必要以上に怯えないくらいの状態にしてくれたんだ! リオさんが!」
「ピンポーン! そうっすよ。依頼が9割方完了して、洞窟探索初体験の俺と姉さんは、精神的に余裕を持てるし、危険な場所も、リオさんが事前に全部チェックしてくれたから注意しながら歩けるっすよ」
「それ……私達が怪我をしないように、だよね?」
「そうっす! 傍から見れば甘やかしっすけど、これで万全な修行が出来るっす!」
「あはは、確かに相当な甘やかしだ。私達、特別扱いされてるよねぇ」
「そうっす! でもリオさんのお陰で、2度目以降も洞窟探索に対する恐怖やネガティブさがなく、前向きにトライ出来るっす! やっぱりリオさんは俺達姉弟の事を、いつも真剣に考えてくれているっす。いや、考えているだけじゃないっす。しっかり行動もしてくれるっすよ!」
リオネルの優しさ、思いやりに触れ、幸薄かった孤児の姉と弟は感無量である。
「リ、リオさん、ありがとう! 大好きだよ!」
と、ミリアンが頬を少し赤くして言えば、カミーユも晴れやかな笑顔で、
「ありがとうございまっす! 俺もリオさんが大好きっす!」
と、元気良く言い放った。
ここで、モーリスが『すまし顔』で割って入る。
「うんうん! 良かったな。今回は私とリオ君で、未熟なお前達の為、事前にそう決めておいたのだ。私の発案だぞ!」
そんなモーリス対し、ミリアンとカミーユは憤慨する。
「あ~! せっかくの名シーンが台無しぃ! いっつも美味しいところだけ、持って行こうとする師匠は最低!」
「姉さんの言う通りっす! ぐうたらな師匠は何にもしていないじゃないっすか! 本当は何もやってないし、知らなかったんじゃないっすかあ!」
「こらあ! お前ら、何だその突っ込みはあ! 弟子の癖に生意気だぞぉ!」
という、『いつものやりとり』があった後……
ひと休みして、4人は全員、洞窟内へ突入した。
そして、リオネルの注意とアドバイスを受け、師匠のモーリスが見守る中……
ミリアンとカミーユは程よい緊張感を持ち、姉弟で協力し合いながら、
残党のゴブリンども十数体を倒して進んで行き、洞窟の最奥まで到達。
出入り口までの帰還も無事に終え、最高の洞窟バトルデビューを飾ったのである。
0
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説
地下アイドルの変わった罰ゲーム
氷室ゆうり
恋愛
さてさて、今回は入れ替わりモノを作ってみましたので投稿します。若干アイドルの子がかわいそうな気もしますが、別にバットエンドって程でもないので、そこはご安心ください。
周りの面々もなかなかいいひとみたいですし。ああ、r18なのでご注意を。
それでは!
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
【R-18】何度だって君の所に行くよ【BL完結済】
今野ひなた
BL
美大四年生の黒川肇は親友の緑谷時乃が相手の淫夢に悩まされていた。ある日、時乃と居酒屋で飲んでいると彼から「過去に戻れる」と言う時計を譲られるが、彼はその直後、時乃は自殺してしまう。遺書には「ずっと好きだった」と時乃の本心が書かれていた。ショックで精神を病んでしまった肇は「時乃が自殺する直前に戻りたい」と半信半疑で時計に願う。そうして気が付けば、大学一年の時まで時間が戻っていた。時乃には自殺してほしくない、でも自分は相応しくない。肇は他に良い人がいると紹介し、交際寸前まで持ち込ませるが、ひょんなことから時乃と関係を持ってしまい…!?
公募落ち供養なので完結保障(全十五話)です。しょっぱなからエロ(エロシーンは★マークがついています)
小説家になろうさんでも公開中。
人生の『皮』る服(少女たちの皮を操って身体も心も支配する話)
ドライパイン
大衆娯楽
んごんご様主催「DARK SKINSUIT合同」にて寄稿させて頂きました作品です。
挿絵もございますため、よろしければPixiv版でもご一読いただけますと幸いです。
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
幼なじみに毎晩寝込みを襲われています
西 美月
BL
恭介の特技は『一度寝ると全然起きない』こと、
『どこでも眠れる』こと。
幼なじみとルームシェアを始めて1ヶ月。
ある日目覚めるとお尻の穴が痛くて──!?
♡♡小柄美系攻×平凡受♡♡
▷三人称表記です
▷過激表現ご注意下さい
お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる