上 下
106 / 689

第106話「人間、いつからでもリスタート出来る」

しおりを挟む
約1時間後……
リオネルとカミーユは、モーリスとミリアンの待つ『陣地』へ戻って来た。

カミーユはひどく上機嫌であった。
何故ならリオネルに貰った小型盾が殊のほか、相性が良く、気持ちが乗って、
大きな戦果を上げたのである。

「俺、さっき姉さんが出した討伐記録をぶち破ったぜ。姉さんは38体だろ? 俺はゴブリンを41体やっつけたんだ」

「ええっ!? 何それぇ! でもでも、ぶち破ったって、私よりたった3体ぽっち、多いだけじゃない!」

「たった3体ぽっちでも、姉さんをしっかり超えたんだ。それにコレ見てくれよ! リオさんから、この盾を貰ったんだ」

カミーユは、ミリアンに対し、誇らしげに左腕に装着した小型盾を見せつけた。

「ええっ!? それリオさんが愛用していた盾じゃない!?」

「うんっ! その上、戦う度に、リオさんから、いろいろアドバイスして貰ってさ。全てがズバリ上手く行ったんだ!」

「何それぇ! ずるい~~っっ!!」

「でさ、必死に戦って、気が付いたら、あいつらを41体も倒してたんだ! やったあ! 生まれて初めて姉さんに勝ったぜぇ!」

「うう~~っっ! すっごく! く、悔しいっ!」

という負けず嫌いなやりとりをカミーユとミリアンがしている陣地内の、
少し離れた場所で……
リオネルとモーリスは、また違う話をしていた。
話の内容は、先ほどリオネルが『懸念した事』である。

「モーリスさん、申し訳ない。本人が希望したとはいえ、俺はカミーユへ小型盾を使うよう渡し、使用に関してアドバイスをしてしまいました。破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの拳士として、盾を使うのは、問題がありませんか?」

対して、モーリスは笑顔を見せる。

「いやいや、全く問題はないよ」

モーラリは全く怒っていなかった。
リオネルに気を遣うとか、無理をしていない事は、放つ魔力の波動で分かる。

「そ、そうですか?」

「ああ、カミーユは修行の真っただ中で、冒険者デビュー前だろう。今のこの時期はトライアルアンドエラーだからな。まあ、ミリアンも一緒だが」

モーリスが発した『トライアルアンドエラー』
……アンセルムが教えてくれた大切な言葉である。

そして、リオネルがいつも心がける信条のひとつだ。
モーリスはこの言葉をどのように考えているのであろうか……

リオネルは思わず懐かしくなり、モーリスに聞き返す。

「トライアルアンドエラー……ですか?」

「ああ、トライアルアンドエラー。様々な問題に直面した時、パッと良案が考え付かない場合、思いつく方法を次々に試みて失敗を重ねて行く。その内、解決するに至るだろう?」

「で、ですねっ!」

「個人的な意見だが……我々冒険者の合言葉だと思う。いや! 人生自体が永遠に、トライアルアンドエラー……かもしれんな。……なんちゃって。ははははは」

「モーリスさん」

「ん? どうした、リオ君」

「あの……俺も……とてもお世話になった人から『トライアルアンドエラー』、そう言われました。挑戦をためらうな。失敗を恐れるな。時にはもがくのもありだ。但し、命を大事にしろって」

「うむ、その通り。私も全く同意見さ。だから、カミーユもミリアンも、試行錯誤しながら、ふたりにとって、一番ベストな戦い方を模索して行けば良いと思うんだよ」

モーリスはそう言うと、まだ言い争いをしているカミーユとミリアンを見た。

「リオ君は気付いただろう、カミーユは双子の弟だからこそ、姉ミリアンに対する大きなコンプレックスがある。自分は全てにおいて姉に劣る、いつも勝てない……魔法が使えない事もカミーユのネガティブさに一層、拍車をかけておる」

「え、ええ……カミーユ自身から直接言われました」

「うむ。でもな、何かにつけて、かばってくれた大好きな姉ミリアンを守りたい、姉の強きナイトとして、絶対に護るという心の誓いもカミーユは立てているのだ」

「……………」

「ミリアンを絶対に護る。その為には、魔法を使う姉よりも遥かに強い弟でなくてはならない。高すぎる目標のプレッシャーとも、カミーユは戦っているのさ」

「……………」

「ははは、リオ君は自身が強いだけでなく、良き師匠、いや兄貴分だな。ミリアンもカミーユも私が手ほどきした時よりもやる気になっている」

「……………」

「リオ君、ふたりの面倒を見てくれて、本当にありがとう。感謝している。いや、私もだ……君からは、いろいろと教えられる」

「……………」

「人生とは……一生、学んで行く行為の連続なんだな、うむ」

「……………」

「そう言うと、相変わらず司祭の頃の説教癖が抜けないと、ミリアンとカミーユから散々突っ込まれるがな。はははは」

モーリスが自嘲気味に笑うと、無言で、じっと話を聞いていたリオネルも微笑む。

「いえ、俺はそういう説教なら、大歓迎ですよ。凄く勉強になりますから」

「ははは、そうか?」

「はい! 俺もモーリスさんの知識と技を学ばさせてください。自分に無いものを、もっと身につけ、強くなりたいと思います」

「おお、リオ君は強いのに『どん欲』だな。まあ君ほどの才能と実力なら、更に上を目指す気持ちは分かるよ」

「でも……俺、今まで、全然ダメでした」

「ほう、そうだったのかい?」

「はい、3歳から15年間学んで来ましたが、魔法が上達しませんでした。レベルも上がりませんでした」

「ふむ……」

「何故俺はダメなんだ? という自問自答の毎日でした。でも分かったんです。やはり自分自身の努力が足りなかった。勇気も覇気もなく、一歩踏み出して戦う事を避け続けていた『甘ったれ』だったんです。勉強の為の勉強をしていたのに過ぎなかった。修行も『義務感』でやって来たからだと思うんです」

「ふうむ、そうか」

「はいっ! でも、今は全然違います。俺はお世話になった人々の役に立ちたい! だから自分を高めたい! 昨日よりも今日はわずか一歩でも前に踏み出し、少しでも限界を目指したい。たった一度きりの人生を思う存分に楽しみたい! 出来る限り満足して死にたい! 人生を全うしたいんです!」

「ははははは、リオ君と話していると私も元気が出る。とても前向きになれるよ」

「ありがとうございます。……俺は今まで本当に狭い世界で生きていました。でも!冒険者になって、全く違う世界へ飛び込み、視野がガラリと変わり、いろいろな人と出会い、人生をやり直す決意が生まれました」

「ふむ……」

「18歳にもなって、気付くのは遅すぎる、ダサすぎるぞと、馬鹿にして大笑いする奴も居ましたけれど……そんな事を言う奴が間違っている! 人間、いつ、どこからでもリスタート出来るって思いましたし、実感もしました」

「だな! 私なんか36歳で司祭をやめ、冒険者に転身して10年が経ったが……今の人生に満足している。46歳と、人生の半ばまで来たが、まだ将来への夢も希望もある。リオ君の言う通り、人間、思い立ったら、いつ、どこからでもリスタート出来ると思うよ」

「ああ! 分かります! そうですよね!」

リオネルとモーリスの話が盛り上がっていた、その時。

「リオさあん!! カミーユばっかり、ずるいよ~~っっ!! 私にも指導してよぉぉ!!」

「リオさん、俺も俺もっ!! もっともっと、強くなるっすぅ!」

ミリアンとカミーユが前向きな波動を全身にまとい、乱入して来たのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...