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第99話「想定外のアドバイス」

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カミーユが、双子の姉ミリアンを危険にさらしたくない理由……が分かった。

ふたりは捨て子であり、孤児院でふたりきりで助け合い、励まし合って生きて来た。
カミーユにとってミリアンは唯一無二の存在であり、失うどころか、かすり傷ひとつ負わせたくない。

大好きな姉を、自分が盾になっても必ず守る!
ぼろぼろになっても守り抜く。
そんな覚悟を持っていたのだ。

親しくなって打ち明け話を聞いていたリオネルは、カミーユが姉をかばう気持ち、
ミリアンが弟を思いやる気持ちが、ひどく羨ましかった。
肉親では、亡き母以外、自分を慈しんでくれた者は居なかったのだ。

しかし、リオネルは思い直した。
やはり自分は、カミーユより恵まれていると。

優しかった母は幼い頃になくなってしまったが……
父が居た、兄もふたり居た。
今や決別してはしまったが……

そんな父でも兄でも、罵倒され、蔑まれた毎日でもあったが、ちゃんと家庭があり、家族が居るという環境に身を置いていたのであるから……

そう思うと、たったふたりきりで必死に生きて来た、
ミリアンとカミーユ姉弟がいじらしくなる。

念の為、リオネルは『現在の状況と作戦』をもう一度繰り返して説明した。
更に丁寧に、詳しく。
モーリス、ミリアン、カミーユも熱心に聞き、「分かった、理解した」と言ってくれた。

これで準備万端だ。

「さあ! カミーユ、行こう」

「は、は、はいっす!」

ふたりでゴブリンに立ち向かうと告げてから、カミーユは先ほどから噛みっぱなしだ。
冒険者且つシーフ志望でありながら、だいぶ怖がりな性格らしい。
まだ相当、緊張しているようである。

昨日、農地ではしっかり戦えたし、リオネルが説明した作戦はしっかりと聞いていたから、……ここはまず落ち着かせ、冷静にさせる事が肝要だろう。

「カミーユ」

「は、はいっす」

「落ち着くんだ、冷静になれ。昨日はちゃんと戦えていたじゃないか」

「は、はいっす……リオさんが居るとはいえ、今度は俺ひとり、もしかしたら一度に数体のゴブリンを相手に戦うので……少し、びびってるかもしれないっす」

「リラックス、リラックス。ヤバくなったら、遠慮なく逃げろ、撤退しろ。俺がフォローし、お前を必ず守るから」

「で、ですよね? 大丈夫っすよね?」

「ああ、大丈夫だ。それにまだ怯える事はないぞ。俺達が作戦を開始して、土壁に穴を開けない限り、ゴブリンは土壁の外へ出られず、攻めては来ないからな」

「は、はいっす!」

「その事実をしっかり認識し、気持ちを鎮め、落ち着くんだ」

「はいっすう!」

「いいか、カミーユ。大事な事だからもう一度言うぞ。俺は必ずお前を守る。そして俺達が作戦を開始して、土壁に穴を開けない限り、ゴブリンは土壁の外へ出られず、攻めては来ないんだ。今の話を絶対に忘れるな。良く憶えておいてくれ」

「はいっす!」

「本当に大丈夫か? 憶えたか?」

「は、はいっす! だ、だ、大丈夫っす! リオさんの話は、作戦も今の話も、しっかりと憶えたっす!」

「OKだ。慌てるな、冷静になれよ、カミーユ。歩きながら大きく深呼吸をしてみようぜ。俺もやるから」

「はいっす!」

す~は~、す~は~。
す~は~、す~は~。

す~は~、す~は~。
す~は~、す~は~。

「落ち着いたか?」

「は、はいっす」

「じゃあ、ここで確認だ。念の為、これから行う作戦をカミーユから説明してくれ」

「え!?」

リオネルの話が予想外!
という感じであった。
カミーユは、完全に「虚を衝かれた」という趣きである。

リオネルは、カミーユへ問いかける。

「おいおい、どうした? 慌てて?」

「…………」
 
「今回行う作戦の段取りは最初、モーリスさんに説明しているから、お前も聞いているよな?」

「…………」

「出撃直前にも、改めて全員へ詳しく説明した。だから、分かるよな?」

「え、ええっと……あのぉ……」

「おいおい、大丈夫か? ゆっくりで構わないから思い出してみてくれ」

「う、うう、た、確か……」

カミーユは、頭の中が真っ白になってしまったらしい。
先に二度行ったリオネルの作戦説明を記憶にとどめていなかった。

そして、戦いに赴く際、ひどく怯えた。
ミリアンに叱咤され、何とか出撃出来たという経緯がある。

さすがにリオネルは落胆した。

しかし、かつて自分もいろいろな事が中々上手く行かなかった。
おどおどしているカミーユは、まるで昔の自分。
深いシンパシーを感じてしまう。

ここは、カミーユへ助け舟を出そう。 

「じゃあ、確認内容を変えよう。たった今、俺が告げた話だけでもしてくれ。俺がお前を必ず守るし、怯える事はないと言ったよな? その後の話を言ってくれるか?」

「はいっす……ええっと……う~んと」

あれだけ念を押したのに、憶えたと言い切ったのに……
カミーユはたった数分前の説明も憶えていない。

緊張からだろうと、リオネルは思い、

「仕方がない、ヒントをやろう」

「ヒントっすか?」

「カミーユ、洞窟を見てくれ。今はどうなってる?」

リオネルの言葉を聞き、カミーユは洞窟を見た。
相変わらず土壁でおおわれ、ゴブリンは出現していない……

「出入り口が……モーリス師匠の土壁でふさがれていまっす」

「そうだな。だったら、どういう状況だ? 教えてくれるかな?」

「ええっと……」

カミーユはふさがれた洞窟を見て、考え込んでしまった。

「おいおい、カミーユ。もう一度、大きく深呼吸をしてみようぜ。俺もやるから」

「はいっす!」

す~は~、す~は~。
す~は~、す~は~。

す~は~、す~は~。
す~は~、す~は~。

「落ち着いたか?」

「はいっす」

「俺達が作戦を開始して土壁に穴を開けない限り、ゴブリンは土壁の外へ出られず、攻めては来ない。俺はそう言ったはずだ。それも二度もだぞ」

「は、はいっす。そ、そうでした」

「う~ん。単独のソロプレーヤーならいざ知らず、クランに所属して、冒険者をやるのなら、リーダーや仲間の話をしっかり聞かないのは致命的だぞ」

「は、はいっす」

10分ほど待っていたが、カミーユの緊張は解けない。
ゴブリンを怖れてなのか、身体もぶるぶる震えていた。

「おいおい大丈夫か?」

「だ、だ、大丈夫っす」

「カミーユ。申し訳ないが、お前のその様子じゃ、戦えないし、無理に戦えば大けがどころか、命も危うい」

「そ、そうっすか」

「おいおい、そうっすか……じゃ、ないだろう? じゃあ敢えて厳しい事を言うぞ」

緊張がどうしても解けないカミーユを見て、リオネルは決めた。
昔の自分を見るようであり、心配でたまらないのだ。

「き、厳しい事っすか?」

「ああ、このままでは、カミーユが冒険者になるのはキツイと思う」

「え?」

「改めてモーリスさんと相談して、ミリアンとふたりで、地道に平和で静かに暮らして行く未来をお勧めするよ」

「そ、それは……」

このままでは、カミーユが冒険者になるのはキツイ……

いつも優しいリオネルが、そんな厳しい事を言うとは……
全くの想定外だったのであろう。

カミーユは大いに驚き、戻す言葉が見つからず、口ごもってしまったのである。
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