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第81話「宿はノープロブレム」

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元・創世神教会の司祭、武闘僧モンクのモーリス、
彼の弟子、駆け出し魔法使いミリアン、シーフ希望のカミーユと、
ひょんな事で知り合ったリオネルは……

当初の目的地、冒険者の街ワレバットまで、一緒に旅をする事となった。

やはり正式なクランメンバーにはならないという前提で……
モーリスと簡単な『取り決め』だけをした。

『取り決め』の有効期間はワレバットへ到着する日まで。
内容は、リオネルが了解するという条件の下で共闘。
依頼が発生する以外、報酬はとりあえず金品はなし。

報酬の代わりに、日々の食事付き、モーリスからの知識、魔法、そして格闘の教授と馬車に乗せて貰う事となったのである。
それ以外は「随時相談して」決める事とした。

という事で、今リオネルは自ら申し入れをして、御者を買って出て、
モーリスの馬車の御者席に座り、馬を御している。

馬車はそう大きくない。
リオネルの右側にはミリアン、左側にはカミーユが座っていて、
結構な『きつさ』である。

ぱかぽこぱかぽこ……
がらがらがらがら……

馬のひずめの音……
馬車の車輪が回る音……
ふたつの音が交錯し、旅の気分が盛り上がり、話も弾む。

盾となり戦って貰い、会話を重ねた事で……
既に3人はリオネルに対して気安くなっており……
モーリスは、リオネルの事を「リオ君」
ミリアンとカミーユも「リオさん」と呼ぶようになっていた。

対して、リオネルはモーリスを『さん付け』で呼んだが、
ミリアンとカミーユからは、年下なので「呼び捨て」でと頼まれていた。

さてさて!
4人の話題は「これからどうするのか」という予定の内容になる。

リオネルがアルエット村を出て約20㎞進んだ地点で、モーリス達と出会った。
この地点からワレバットまでは約100㎞余り……
ちなみに、次のキャナール村までは約10㎞である。

キャナール村から、更に次のイロンデル村までは、約20㎞も離れていた。
空地でしばし話し込んでしまったので、現在の時刻は午後3時近い。

モーリスの馬車の速度は、時速10㎞と少しで早くはない……
日が暮れるまでに、到着は可能だが無理は禁物。
今夜の宿の手配を考えたら、「キャナール村で宿を取ろう」と、
全員の意見が一致する。

ここでリオネルは、モーリスからひとつだけ聞かれた。
先を急ぐ旅なのかと?

実際アルエット村では、半月以上過ごしている。

リオネルが「急ぎません」と答えると、
「じゃあ、ゆったりのんびり行こう」
と言われた。

……確認の為、御者役のリオネルが声をかける。

「では、キャナール村へ向かいますね」

対して、モーリスは肯定。
感慨深く言う。

「おう、まあ今日はゆっくりしようや。ゴブリンの襲撃とか、いろいろあったからなあ」

と、すかさずミリアンが突っ込む。

「いろいろあったって……ゴブリンはリオさんが全部倒して、モーリスさんはな~んもやってないから!」

更にカミーユも、

「うん! 今回はリオさんが全部やっつけた! モーリスさんはただ見てただけぇ!」

「うっせぇ! うっせえわあ! ミリアン、カミーユ! お前らだって何もしてね~し、びびって、見てただけだろうが」

「いいええ! 私達は弟子ですからあ、師匠の許しなしに勝手な事は出来まっせん!」
「そうだ、そうだ! 姉さんの言う通りだ! 勝手な事すると、しょっちゅう怒るくせにぃ!」

「あんだとぉ! ごらあ!」

そんな3人の会話を聞き、思わずリオネルは笑う。
ひとり旅は気楽で自由。
しかし気安い道連れが居る旅も、同じくらい楽しい。

不毛な会話に飽きたのか、ミリアンが言う。
彼女は先ほどからずっと、リオネルの手綱さばきを見ていた。

「リオさん、御者、上手いわねぇ」

カミーユも、うんうんと頷く。

「うん! リオさんは本当に馬の扱いが上手いよ。俺、乗馬はそこそこやれるけど、御者は下手なんだ」

そんなふたりの言葉を聞き、

「お前ら、いつまでも師匠に御者やらせるな! リオ君を見習って、早く習得しろ!」

モーリスは、常日頃から御者をしているらしい。
再び、教育的指導を発していたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

王国街道から村道へ入るのは、アルエット村と同じである。
キャナール村入り口……という標識が出ていたので、リオネルは村道へ入る。

村道の道幅は約5mと、そこそこは広いが、当然ながら石畳などは敷いていない。
土がむきだしの道で、アルエット村と、これまたほぼ同じだ。

リオネルは馬車を走らせながら、モーリスへ声をかける。

「モーリスさん」

「何だい、リオ君」

「モーリスさんは旅慣れているようですが、キャナール村へは行かれた事がありますか?」

「ああ、だいぶ昔だが、行った事はある」

「ではお聞きしますが、キャナール村は宿屋って、ありますか?」

「いや、ないな。長い間行っていないから確約は出来ないが、なかったはずだ」

ここでリオネルは、自分の『懸念』を伝えてみる。

「じゃあ、宿泊する場所って、結構、苦労するんじゃないですか?」

リオネルは、『アルエット村へ到着したばかりの時』を思い出していたのだ。

最終的には村民全員と仲良くなったが……
救出したエレーヌとアンナが居なければ、泊まらせて貰えるような雰囲気は皆無であった。

後で、さりげなくエレーヌへ聞いたら……
地方の村は『よそ者』に対して、とりわけ警戒心が強い傾向があると言われたのだ。

しかし、モーリスはあっさり否定した。

「ああ、心配ない」

そして、リオネルが「どうしてですか?」と尋ねる前に、
ミリアンとカミーユが追随する。

「その心配は大丈夫! 創世神教会つながりでモーリスさんが居るから! 相手とのやりとりは、任せておけばOKよ」
「ああ、確かに! 元司祭の師匠が居るからノープロブレム。まあそれくらいしか取り柄がないっていうか、役に立たないんけどさ」
「あ、それ、言えてるぅ!」

フォローなのか、違うのか、姉弟の言葉を聞いたモーリスの声が大きくなる。

「ごら! ミリアン! カミーユ! お前達はまた師匠をおとしめおって! 許さんぞ!」

つい声が大きくなるモーリス。
彼の声に反応し、馬がいななく。

ぶひひひひん!

「モーリスさん、馬が驚きますから、声を小さめに」

「スマン、リオ君、わ~ったよ」

リオネルからたしなめられたモーリスは、「ふっ」と苦笑したのである。
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