上 下
72 / 680

第72話「合わせ技の爆炎」

しおりを挟む
洞窟最奥、オークカーネルからやや離れた場所……

淡い光を放って浮かんでいた魔導光球が、

ぱああああああっっ!! 

と、いきなりまばゆく輝いた。

『オークの弱点! 第一弾! 明るい光を嫌うお前らへ、まずは視界が消えるくらいの、まばゆい閃光せんこうだ! 喰らえっ!』

リオネルは呼び出した魔導光球へ、オークカーネルに気付かれないよう魔力を送り、照度を一気に上げたのだ。
これぞ、魔導照明弾!!

ぎええええええっ!!!!!

『ヤ、ヤメロォォッ!! マ、マ、マブシイッッ!!?? ナ、ナ、ナニモ!! ミ、ミエナイッ!!』

リオネルへ突進しようとしたオークカーネルは、悲鳴を上げ立ち止まり、
まばゆい光を防ごうと、目を腕でおおった。

片や、リオネルは既に目を閉じていて、全くの『ノーダメージ』である。

リオネルは先ほど頭の中へ叩き込んだ洞窟の地形を思い出し、
岩を触りながらの手探りと、動物能力の気配察知、当然バージョンアップした魔力感知をフル稼働。
距離を測りながら、目を閉じたまま、素早くオークカーネルへ接近した!

数分で、両者の距離はほんの10mほどとなる。

目をつぶったままのリオネルは、収納の腕輪から、
冒険者ギルドで購入した、陶器製の『魔導投擲弾まどうとうてきだん』を取り出した。
この『魔導投擲弾』を、気配と魔力感知を頼りにし、オークカーネルめがけ、放り投げるのだ。

ひとつ! ふたつ! みっつ! よっつ! いつつ!

リオネルが購入した『魔導投擲弾』の陶器は、卵の殻くらいの硬度しかない。
何かに当たれば、『すぐに割れる仕様』である。

がちゃん! がちゃん! がちゃん! がちゃん! がちゃん!

5発全てが見事に命中!!
オークカーネルに当たると、粉々に砕け散った。

この『魔導投擲弾』の中には、何かの『薬剤』が入っているらしい。
独特の香りが洞窟内に「ぷ~ん!」と漂う。

こういった投擲武器は、普通ならよけられてしまうだろう。
しかし、『魔導照明弾』の影響で、オークカーネルは、
まだまともに視力を回復していない、そう、いまだに目を押さえていたのだ。

戸惑うオークカーネルをよそに、リオネルは心に刻まれた記憶を頼りに、
ゆっくりと後方へ撤退。
元のポジションへ戻ると、魔法発動の準備、体内魔力を上げて行く。
同時に、魔導光球の照度を徐々に下げて行く……

照明弾の効果がほぼ消え、淡い明かりとなった頃合いを測り、リオネルは目を開けた。

『次! オークの弱点第二弾も、お前らが大嫌いな火だあ! おらおらおらあ!』 

この場所ならば、洞窟外の森と違い、火災、延焼の心配が皆無だ。
オークカーネルとサシの状態では、第三者が居て、誤射を恐れる心配も不要なのだ。

リオネルは、習得したばかりの火の攻撃魔法『火弾』を、出力MAXの魔力で放った。

ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!!
ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!!
ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!!

オークカーネルへ放たれた『炎弾』は、またまた全て命中!!

何と!
オークカーネルの全身が激しく燃え盛る。

これは不可思議な事であった。
元々オークの表皮は防具に使う程頑丈で、簡単に火も点かないからだ。

その為、リオネルは一計を案じた。

先ほど投げ、命中した『魔導投擲弾』の中には、
発火を著しく促進させる様々な素材を調合した『特別な魔法薬』が入っていたのである。

ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっ!!!!

ぎぃええあああああああああああああっっっっ!!!

『ははは、熱いかあ? 良く燃えるぜえ! だが攻撃は終わりじゃないぞ! 次は合わせ技の第三弾だあ!』

そう!
リオネルは使い慣れた風の魔法を『追い風』として送る。

『行け! 奴の足元から思い切り吹き上げよ、風壁!!』

リオネルの放つ『風壁』が変則的にオークカーネルの足元より発生、上部へ吹き上げる。

オークカーネルの全身で激しく燃えている炎は、足元からの強風にあおられ、
更に激しく燃え広がる。

この合わせ技、まるで変則的な『爆炎』である!!

ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっ!!!!

ぎぃええあああああああああああああっっっっ!!!

『ヒイイイッッッ!! アチチチチ! アツイ!! アツイッ!! カ、カラダガ、モエルゥゥ!!』

『おらおらおらあ!! 更に炎弾数十連発だあ!! 一気に行っけ~~!!』

ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!!
ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!!
ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!! ごおっっ!!

『更に更に! 風壁もおみまいしてやる! 風力アップぅ!! 奴の足元から、あおって!! あおって!! あおりまくって!! 一気に燃やしちまえ!!』

ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっ!!!!

暴風に煽られ、燃え盛るオークカーネルの巨体は一気に炎上、否!
超の付く大、大炎上だあ!!

ぎぃええああああああああああっっっっ!!!

『タ、タ、タスケテクレェェ!!! モ、モ、モエチマウ!! イ、イヤダアッ!?シ、シンジマウヨォォォ!!!』

『ふん! 悪党の鳴き声は聞こえんなあ! 大人しく地獄へ堕ちろぉ!!』

ぎぃええああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!

火と風の絶妙なコンビネーション。
おぞましい断末魔の絶叫とともに、オークカーネルは、
巨大なたいまつの如く、「ごうごう!」と燃え盛る!

5分も経たないうち、オークカーネルはあっという間に燃え尽き、
完全に『消し炭』と化していた!!

と、その時。

チャララララ、パッパー!!!

リオネルの心の中で、あの独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、内なる声が淡々と告げて来る。

リオネル・ロートレックは、オーク115体を倒しました。
上位種『オークカーネル』1体を倒しました。

既定値を満たしたので、『レベル14』に到達しました。

チートスキル『エヴォリューシオ』の効果により、
身体能力、五感が全般的に大幅アップしました。

体内魔力が大幅に増量しました。
魔力回復力が大幅にアップしました。
魔法攻撃力が大幅にアップしました。
物理攻撃力が大幅にアップしました。
対魔法防御力が大幅にアップしました。
対物理防御力が大幅にアップしました。

チートスキル『エヴォリューシオ』の効果により、
習得済みの風属性の攻撃魔法『炎弾』、防御魔法『風壁』から派生し、
火属性防御魔法『火壁』を習得しました。

「よし、やったあ! 『14』にレベルアップだ! それと! もろもろのスペックが大幅上昇だぞ! うんうんっ!」

「それに『派生』って、一体何だろ!? 『炎弾』と『風壁』が組み合わさって、『火壁』へ進化って事か?」

「でも『火壁』の習得も凄く嬉しいぜ。足止めの方法が増えた! ……だけど、念の為、近付くのは少しだけ待とう」

リオネルは、相変わらず、超の付くほど慎重である。
更に10分ほど待機してから、「何も起こらない事」を確認した上で……
オークカーネルが燃え尽きた『現場』へ移動した。

じっくりと『現場』を確認する。

「お~! 派手に燃えたな……」

「どこかで聞いた言葉だけど、大が付く炎上って奴だな、コレ……でもこの攻撃は、すっげぇ使えるぞ! 改良の余地もありそうだ!」

「習得した火壁とともに、他の魔物や、不死者アンデッドにも効果があるぞ、きっと! いろいろ攻撃のバリエーションを考えよう!」

リオネルが改めて見ても、オークカーネルは完全に残骸ざんがい……
『単なる塵』と化している。

念の為、リオネルは葬送魔法『|鎮魂歌《レクイエム)』を行使、邪悪な念が残らぬよう処理をした。

これで……アルエット村におけるオークの討伐は完全に終了である。

後は、再び照明魔法を発動。
呼び出した魔導光球を、出入り口に施した『帰還マーキング』へ目指して誘導し、
その明かりを追い、洞窟を脱出するだけだ。

「合わせ技の爆炎で、何とか勝ったあ! 俺ってさ……ホントに転んでも、ただは起きぬ、だな…………いや、紙一重でマジやばかったんだ!」

「そうだ! ホント勝って兜の緒を締めよだ! 単に運が良かったんだ、俺は! もしも念話習得がなければ! そしてチートスキル『エヴォリューシオ』の効果で、特異スキル『念話ハイレベル』への進化がなければ! 間違いなく格上のアイツにやられていた。禍を転じて福と為す……だな」

いつもの癖で自問自答し、思わず苦笑したリオネル。
……浮かんでいた魔導光球へ、出入り口へ向かうよう命じたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地下アイドルの変わった罰ゲーム

氷室ゆうり
恋愛
さてさて、今回は入れ替わりモノを作ってみましたので投稿します。若干アイドルの子がかわいそうな気もしますが、別にバットエンドって程でもないので、そこはご安心ください。 周りの面々もなかなかいいひとみたいですし。ああ、r18なのでご注意を。 それでは!

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

【R-18】何度だって君の所に行くよ【BL完結済】

今野ひなた
BL
美大四年生の黒川肇は親友の緑谷時乃が相手の淫夢に悩まされていた。ある日、時乃と居酒屋で飲んでいると彼から「過去に戻れる」と言う時計を譲られるが、彼はその直後、時乃は自殺してしまう。遺書には「ずっと好きだった」と時乃の本心が書かれていた。ショックで精神を病んでしまった肇は「時乃が自殺する直前に戻りたい」と半信半疑で時計に願う。そうして気が付けば、大学一年の時まで時間が戻っていた。時乃には自殺してほしくない、でも自分は相応しくない。肇は他に良い人がいると紹介し、交際寸前まで持ち込ませるが、ひょんなことから時乃と関係を持ってしまい…!? 公募落ち供養なので完結保障(全十五話)です。しょっぱなからエロ(エロシーンは★マークがついています) 小説家になろうさんでも公開中。

人生の『皮』る服(少女たちの皮を操って身体も心も支配する話)

ドライパイン
大衆娯楽
んごんご様主催「DARK SKINSUIT合同」にて寄稿させて頂きました作品です。 挿絵もございますため、よろしければPixiv版でもご一読いただけますと幸いです。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

幼なじみに毎晩寝込みを襲われています

西 美月
BL
恭介の特技は『一度寝ると全然起きない』こと、 『どこでも眠れる』こと。 幼なじみとルームシェアを始めて1ヶ月。 ある日目覚めるとお尻の穴が痛くて──!? ♡♡小柄美系攻×平凡受♡♡ ▷三人称表記です ▷過激表現ご注意下さい

忍びの青年は苛烈な性拷問に喘ぎ鳴く

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

処理中です...