上 下
65 / 689

第65話「やはり似ている」

しおりを挟む
午後半ば……太陽が西の地平線へ向かいつつあった時、
オークの巣窟そうくつと化した洞窟どうくつを後にし……
リオネルとクレマンは、帰還の為、アルエット村へ向かっていた。

否!
ただ向かっていただけではない。

何と何と!
リオネルがクレマンをおんぶし、脇道から王国街道へ出て、アルエット村へ向かって高速で駆けているのだ。

何故、そうなったか?
経緯はこうだ。
……クレマンを丘の上の『秘密基地』から降ろしたのは、連れて行った時と同じ手順である。

特異スキル『フォースドターミネィション』レベル補正プラス15―『強制終了』を行使、気を失ったクレマンを左手に装着した『収納の腕輪』へ『搬入』。
安全を確保した上で、『秘密基地』から一気に降下。

更に攻撃魔法で倒し、散乱したオークの死骸を全て腕輪へ『搬入』
激戦の痕跡を消した。

死骸回収の終了後にクレマンを『搬出』
特異スキル『リブート』――レベル補正プラス15『再起動』で、復活させたのである。

ここでリオネルから驚くべきというか、奇妙な提案が為された。

意識が戻ったばかりで「ぽけーっ」としたクレマンへ……
リオネルは告げたのである。

「さあ、アルエット村へ帰還しましょう。俺におぶさってください」

いきなり提案され、クレマンは「ぽかん」とした。

「は? おぶさるとは?」

「言葉通りです。俺が村長をおんぶします。その方が早く村へ帰れます。だまされたと思って! さあどうぞ!」

「ええっと、おんぶなぞ、恥ずかしいですよ。良い年をして、ウチのアンナと……小さな子供と同レベルでは?」

クレマンは思い出す。
リオネルがアルエット村へ初めて来た時。
助けた娘のエレーヌ、孫のアンナと一緒だった。
その時、アンナはリオネルに甘え、しっかりと背におぶさっていた。

しかしリオネルは思い切り……スルーした。

「お疲れだと思いますし、あっという間に帰れますから」

などと強引に押し切られてしまったのだ。
更に、しっかりつかまり、舌を噛むから絶対にしゃべらないようにと厳命された。

そして実際にリオネルの背に乗ってみれば……とんでもなかった。
全速力で疾走する馬……とまではいかないが、それに近い。

たたたたたたたたたたた!!!

「!!!!!!!!!」

……実は、最後の最後までリオネルは迷った。
ただ無事に、且つ早く連れ帰るだけならば、収納の腕輪へ入って貰ったまま、
全力でアルエット村まで走り切れば、それで済む。

……それをしなかったのは……リオネルのほんの少しの『わがまま』だ……

リオネルは亡き祖父の思い出が殆どない。
このような機会は滅多にないと思ったのだ。

一緒に戦い、分かりあえた『祖父』のような年齢のクレマンを、
自分の背におぶって走りたかった……のである。

……と、いうわけで洞窟へ至る獣道に近い脇道をあっという間に駆け抜け……
石畳が敷かれた街道へ出ると、気合が入ったリオネルの駆ける速度は更に上がった。

だが、「さすがに早すぎる」と思ったらしい。
クレマンは年配だ。
過激なショックを与えるのは宜しくない。

リオネルは、クレマンに「快適に乗って貰えるよう」速度を「ぐっ」と落とした。
それでも結局、洞窟から村までの約15㎞の距離を時速30㎞、たった30分弱で駆け抜けてしまったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

夕日に照らされたアルエット村へ到着し、正門前で、
リオネルとクレマンは声を張り上げる。

「ただいま、戻りましたあ!!」
「う、うむっ! い、今、も、戻ったぞぉ!!」

門番は……昨日と同じ、ドニ少年だった。

「村長! あ、お前もかよ! も、戻って来たのか?」

リオネルとクレマンの様子を見て……
やぐらの物見台に陣取ったドニは驚いて目を丸くした。
無理もない。
クレマンがリオネルにおぶさっていたからだ。

昨日エレーヌに叱責されたせいで、ドニはリオネルを敵視しているらしい。
物見台から、大声で叫ぶ。

「おい、お前、村長に何があった! 言え! 白状しろぉ!」

しかしここで、リオネルにおぶさったままのクレマンが怒鳴る。

「ごら! ドニ!! ワシはピンピンしとる! それよりいつまで待たせるのだ!! 早く門を開けよ!! ぶっとばすぞ!!」

ぶっとばすぞ?
この言い方……リオネルは、どこかで聞いた事がある。

そう、クレマンは愛娘エレーヌにそっくりの言い方をしたのである。
否、エレーヌが父クレマンにとても良く似ているという事、
やはり血がつながった『似た者父娘』という事だ。

少し経って、村の正門が開いた。

すると正門の向こう側には、大勢の村民が集まって来ていた。
村長クレマンが怒鳴ったのを聞き、心配して見に来たのである。

当然その中には、エレーヌとアンナの母娘も居た。

歓びの波動が伝わって来る!

ふたりは泣いていた。
つまり『嬉し泣き』なのである。

リオネルに背負われたクレマンの元気な声を聞いて……
『ふたりの無事な姿』を見て、大いに安堵したのだ。

……リオネルは嬉しかった。
『クレマンを無事に連れ帰った事』を改めて実感した。
そして『自分の無事』をも喜んでくれる人達が居る事を。

クレマンも、愛娘と愛孫が涙ぐむ姿を見て、感極まったらしい。

「エレーヌぅ! アンナぁ! す、すまなかったあ!」

大声で叫び、素直に詫びるクレマンに、今までの呪縛じゅばくが解けたかのように!
エレーヌとアンナは速足で駆け寄って来る。

「お父さ~ん!」
「おじいちゃ~ん!」

愛する者を亡くし、辛く悲しい思いをして王都より帰ってから……母娘はクレマンを『村長』と事務的に呼んでいた。

エレーヌからは久々に、アンナからは初めて『肉親』として呼ばれ、
感極まったクレマンは、目を潤ませ、再び愛娘と愛孫を呼ぶ。

「エレーヌぅ! アンナぁ!」 

リオネルとクレマンの前に立った母娘の言葉は好対照だった。

「もう! お父さんは、いっつも心配かけて! しょ~がないんだから!」
「あはは、おじいちゃん、リオにいちゃんに『おんぶ』されてる! アンナと一緒だあ!」

「おうおうおう! ふ、ふたりとも! す、すまなかったあ!」

泣き笑いで叱るエレーヌ。
泣き笑いで喜ぶアンナ。
泣き笑いでこたえるクレマン。

3人はやはり似ている。
そして心が離れているようでいて……そうではなかった。

『心の絆』は……か細くても、しっかり、つながっていた。
切れたり壊れたり、してはいなかった!

そんな3人を見て……
リオネルは心の底から安堵すると同時に、
肉親と決別した自分と比べ、とても羨ましいと思ったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...