上 下
51 / 680

第51話「ママは悪くない!」

しおりを挟む
「ライ麦パン、美味しい!」
「ママ! ウサギもおいし~!」
「黒パンとチーズ、合いますね!」

エレーヌ、アンナと摂った夕食は、リオネルにとって、とても楽しいものであった。
温かい!
家族のぬくもりを感じる。

そういえば……自分が旅立って宿の主アンセルムはどうしているかと思う。
アンセルムも、失った家族のぬくもりを教えてくれた。

話はどんどん盛り上がり、心の距離が縮まり……
リオネルは『プロフ』を根掘り葉掘り聞かれた。

だが、エレーヌとアンナに悪意がなくとも……
強制的に捨てるよう命じられた本名を、そして勘当、実家を追放された経緯を全て話す事など出来ない。

考えた末、リオネルは、

「今年、魔法学校を卒業したが、身に着けた自分の能力に全然納得が行かないと考えた。実力をつける為、自ら志願し、騎士のように修行の旅に出た。生活の糧を得るのも兼ね、冒険者となり腕を磨いている」

と言葉を戻した。

とどのつまり、ナタリーが主催してくれた、冒険者ギルド女子職員有志一同による送別会時と『同じ答え』となったのである。

エレーヌが更に尋ねて来た。

「リオネルさんは魔法使いって言ってたわね」

「はい、風の魔法使いです」 

「リオネルさんは冒険者ギルドに所属しているの?」

「ええ、所属しています」

「じゃあ! 所属登録証って、持ってる? 良かったら見せてくれるかしら」
「アンナも見たい~!」

所属登録証の名義は本名ではない。
父から強制された名前、リオネル・ロートレックと記載されている。

所属登録証は、ギルドを始め、街へ入退出の際等、あちこちで見せるものだ。
エレーヌとアンナに見せても問題はないだろう。

「はあ、こんなんでっす」

リオネルは、ベルトに付けた小物入れから、所属登録証を取り出した。
エレーヌへ渡す。

「ありがとう! ええっと、どれどれ……」
「アンナも見るぅ!」

所属登録証を凝視するエレーヌとアンナ。
一瞬の沈黙……そして!

「え~~っっ!?」
「わお! ママ、ど~したのっ!」

「アンナあ! 凄いのよ、リオネルさんって!」
「え? 凄い?」

「パパより強いかも……」
「えええ!? パ、パパよりも?」

……エレーヌは、リオネルのランクを確認し、驚いているようだが、
リオネルにはいまいち、状況がつかめない。

とりあえず静観するしかないと思い、見守っていたら、
エレーヌは再度尋ねて来る。

「えっと! リオネルさんはランクB、つまり上級冒険者、ランカーって事?」

「ええ、まあそうっす。ついこの前、ランクBになったばかりですけど」

「す、凄いっ! リオネルさんって、何歳?」

「……18歳ですけど」

「18歳って、びっくりよ! わ、わたし、ランカーって、何人か会ったけど、一番若くても20代後半、ほとんどが30代後半以上の方だったわ!」

「ですか」

「ですかって……はあ~、リオネルさんって、何かあっさりというか、淡々としてるっていうか」

エレーヌの言う通り、確かにリオネルはランカーとなった。
少しずつ自信もついて来た。

しかし……
リオネル自身は、コンプレックスの塊だ。
当然、彼にコンプレックスを持たせる最大の原因は、偉大な宮廷魔法使いの父と、
王国エリート官僚である兄達である。

3人に比べれば、冒険者ギルドで『ランカー』と称えられても、リオネルは満足など出来ない。

俺はゴミではない! 汚物ではない! 恥さらしではない!

そう言い返す為には!
もっと! もっと! もっと! 
遥かに上の実力をつけねばならない!

「いや、俺まだまだなんで、もっともっと上を目指して、頑張るしかないですから」

「……でも、リオネルさんがランカーなら、オークを簡単に倒すのも納得だわ」

こうして……
エレーヌの、リオネルを見る目が……
命の恩人への感謝に加え、尊敬の念も強くこもるものとなったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ママ、さっきから興奮して、どうしたの?」

「アンナ、村へ来る時にも話したでしょ? リオネルお兄ちゃんはね、パパと同じお仕事をしているのよ! それも凄く強いのよ!」

「うわお! それでリオネルお兄ちゃんは、やっぱりパパより強いの?」

「ええ、強いかもしれないわ! さっきアンナも見たカードにBって書いてあったでしょ? パパはCだったから! 冒険者ギルドでは強い順番が決まってるのよ!」

「パパより強いって、すっご~い! ねぇ、ママ!」

「なあに?」

「きっと死んだパパが、凄く強いリオネルお兄ちゃんへ、ママとアンナを助けてくれるようお願いしたんだよ!」

「うん! きっと、そうねっ!!」

「ママ!! 王都までお参りに行ったかいがあったね!!」

「ええ!!」

目の前交わされた母娘の会話で、リオネルには事情が分かって来た。
エレーヌの夫、アンナの父は冒険者であり、2年前に亡くなっているとは聞いた。
そしてランクCであり、ランクBのランカーには届かなかったらしい。

今回エレーヌとアンナが王都の聖堂へお参りに行ったのは、故人の冥福を祈る為……
偶然リオネルがふたりを助け、故人が守ってくれたとしみじみしている……

でも、亡くなったエレーヌの夫が、リオネルを襲撃現場に向かわせてくれたと考えて……母娘ふたりの気持ちが癒されるのならば、それも良しと思う……

ここで何気なく、

「でも村長のクレマンさんって、冒険者がお嫌いのようですね?」

と、リオネルが尋ねると……

「……それって、実は私が原因なんです」

エレーヌが渋い表情で言った。
するとアンナが、

「ママは悪くない! おじいちゃんが悪いんだ!」

むっとした表情で、きっぱりと言い放ったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地下アイドルの変わった罰ゲーム

氷室ゆうり
恋愛
さてさて、今回は入れ替わりモノを作ってみましたので投稿します。若干アイドルの子がかわいそうな気もしますが、別にバットエンドって程でもないので、そこはご安心ください。 周りの面々もなかなかいいひとみたいですし。ああ、r18なのでご注意を。 それでは!

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

【R-18】何度だって君の所に行くよ【BL完結済】

今野ひなた
BL
美大四年生の黒川肇は親友の緑谷時乃が相手の淫夢に悩まされていた。ある日、時乃と居酒屋で飲んでいると彼から「過去に戻れる」と言う時計を譲られるが、彼はその直後、時乃は自殺してしまう。遺書には「ずっと好きだった」と時乃の本心が書かれていた。ショックで精神を病んでしまった肇は「時乃が自殺する直前に戻りたい」と半信半疑で時計に願う。そうして気が付けば、大学一年の時まで時間が戻っていた。時乃には自殺してほしくない、でも自分は相応しくない。肇は他に良い人がいると紹介し、交際寸前まで持ち込ませるが、ひょんなことから時乃と関係を持ってしまい…!? 公募落ち供養なので完結保障(全十五話)です。しょっぱなからエロ(エロシーンは★マークがついています) 小説家になろうさんでも公開中。

人生の『皮』る服(少女たちの皮を操って身体も心も支配する話)

ドライパイン
大衆娯楽
んごんご様主催「DARK SKINSUIT合同」にて寄稿させて頂きました作品です。 挿絵もございますため、よろしければPixiv版でもご一読いただけますと幸いです。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

幼なじみに毎晩寝込みを襲われています

西 美月
BL
恭介の特技は『一度寝ると全然起きない』こと、 『どこでも眠れる』こと。 幼なじみとルームシェアを始めて1ヶ月。 ある日目覚めるとお尻の穴が痛くて──!? ♡♡小柄美系攻×平凡受♡♡ ▷三人称表記です ▷過激表現ご注意下さい

忍びの青年は苛烈な性拷問に喘ぎ鳴く

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

処理中です...