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第40話「旅立ち」

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いよいよ、『王都出発の日』が来た……
リオネルが生まれてから18年間、住み慣れた王都オルドルを遂に離れるのだ。

生まれ故郷を離れる、そう思うと寂しくもあり、感慨深いが……
記憶をたぐれば、良い思い出よりも、辛い思い出の方が圧倒的に多い。
幼い頃から、優秀な兄達と散々比べられ、おとしめられて来たからである。

亡き母が生きていた頃はまだ良かった。
母の愛に癒されれば、辛さ、ストレスはだいぶ我慢する事が出来た。
父、兄ふたりの罵詈雑言にも、ひとかけらくらい肉親の愛情は残っていたと思う。

住み慣れた故郷『王都』を離れる不安は確かにある。

知らない土地を独りで旅するなんて……昔の超怖がりなリオネルなら、考えられない。
不安にかられ大声で悲鳴をあげるか、びびって歩けなくなるくらい、身体がガチガチに強張こわばるかもしれなかった。

だが、今のリオネルは……昔の彼とは全く違う。
広大な未知の世界へ足を踏み入れ、新たな発見をする人生の旅が始まる!
というわくわくするくらい、期待の方が大きかった。

表向きは修行の旅に出る……
でも実質はガラクタ扱いの追放、勘当。
結果、リオネルは姓をロートレックと変えさせられ、
「ぼっち」の冒険者となった。

だが……めげず、くじけず、あきらめず、コツコツと地道に努力して、実力をつけた。

リオネルの眠っていた才能が開花したのは……
習得した『フリーズ』が実は特異スキルだった事。
更に『エヴォリューシオ』、そして『見よう見まね』ふたつのチートスキル習得が大きな転機だった。

『エヴォリューシオ』は『術者の有する身体、魔法の各能力、スキル、特技を成長、変貌させ、名称を変える事もあるチートスキルである』と古文書に書いてあった。
更に『新たなスキルを術者に与える』『イレギュラーで、レアなギフトスキルが贈られる』とも。

古文書の記載の通り、リオネルは数多のスキルを習得し、また進化させたのだ。

『見よう見まね』は『術者が対象者の有する能力を視認、もしくは体感した場合、最大100%の割合で対象者の能力を獲得する事が出来る』と、こちらも古文書にあった。

この『見よう見まね』よる動物の能力の習得も大きかった。
心身ともに能力が大幅にビルドアップ。
身体を動かし、戦う事が苦にならなくなった。
限界まで鍛え上げたくもなった。

こうなるとやる気が全開。
貪欲となる。
習得した各スキルを駆使。
ギルドで様々な知識を得たり、実践を積んだ。

更に『エヴォリューシオ』の効果による、チートスキル『ボーダーレス』の習得。
類まれな全属性魔法使用者オールラウンダーへの進化を目指す。

もはやリオネルは大きく成長し、全くの別人へと変貌した。

否! 終わってはいない!
いまだに進行形である。

そう!
大器晩成、隠されていた底知れぬリオネルの能力がやっと覚醒。
大が付く進化中なのだ!!

さてさて!
宿を出れば……まだ行き交う人々はまばらである。
ようやく起き出した感のある王都の街中を、リオネルはゆっくりと歩く。

天気は快晴。
頭上には雲ひとつない青空が広がっている。
風は強くもなく弱くもなく、さわやかに吹いていた。
絶好の『出発びより』だ。

たった今、別れたばかりのアンセルムの笑顔が浮かんで来る。
「アンセルムさん、行ってきます!」
「おう、リオ。行って来い! またなっ!」
極めてシンプル。
だが、「必ず再会を果たす」という強い思いがお互いに満ちていた。

そして……
昨夜、送別会を開いてくれたナタリー達、ギルド女子職員軍団。

生まれて初めての経験となった。
美しい女子達と、素敵な店で美味しい料理を食べ、美味しいお酒を飲んだのだから。
熱いエールまで送られ、元気に励まして貰った。
……一生忘れられない、素晴らしい思い出となった。

リオネルは改めて記憶をたぐった。

肉親からは罵倒され、勘当、実家から追放された。
名前も無理やり変えられ、天涯孤独の身となった。
遂に、初恋は叶わなかった。
そんな思い出のある生まれ故郷から、自分は追い立てられ、出て行く……

「だが、俺は充分幸せだ」と、リオネルは思う。

「人生は出会いと別れの連続だ!」と、誰かが言っていた。
「人はひとりでは生きていけない」と聞いた事もある。

リオネルは両方の言葉を、既に実感していた。
更に、
「人生は別れと出会いの連続だ!」
「いろいろな人達と支え合い、俺は生きて行く」
とも考える。

改めて思う。
自分は全くの世間知らずだったと。
今まで、とんでもなく狭い世界で生きていたと。

しかし実家を勘当、追放され、冒険者になったら……
生きる世界が一気に広がり……今まで縁がなかった多くの人達と邂逅した。
これからも、たくさんの人達と出会うだろう。

自分はどんな人達と出会い、どのように別れるのだろう。

楽しかったり、辛かったり、驚いたり、感動したり……
いろいろな思いが心を交錯するに違いない。
その思いが「充実した人生を送っているんだ!」という実感につながるはずだ。

またも初恋の相手ナタリーの事を思い出す。

未練たらしくて自分が嫌になる。
だが、仕方がない。
「本当に好きだったのだ」と感じる。

「初恋の相手は、一生忘れられないもんだ」と、
ゴブリン渓谷で共闘し、親しくなった冒険者は言っていた。

「貴方は弟にしか思えない」と、思い切り振られてしまったが……
やはりナタリーは優しくて美しい、素敵な女子だ。

初恋の人には絶対、幸せになって欲しいとリオネルは願う。
もしも再会する事があれば、素敵な『姉』として接する事になるだろう。

そして……
この世界のどこかで待ってくれているはず?の、
愛し愛される素敵な『想い人』にも出会いたい、巡り合いたいとも思う。

そもそも、自分の人生は、自分の為に生きるものだ。

でも……他人の為にも生きたい。

自分の為だけでなく、他人の為……
愛する『想い人』の為に生きる事が、己の新たな愛と優しさを見出す。
誰にも負けない強さにつながる、とも思うから。

自分は、己の人生という『ドラマの主役』である。
しかし、他人の人生という『ドラマの脇役』でもあるのだ。

素敵な人生を送る為には、『素敵な主役』でありたい。
だが、他人の人生においても、必要だと言われる『素敵な脇役』でありたい。
リオネルは、強く強くそう思う。

そして、自分が生きた確かなあかしをこの世界に残したい!
そう切に願う。

生きた確かな証……
それは人によって、それぞれ全く違うものだ。

自分が生きた証とは一体、何になるのか?
まだ全く分からない。

自問自答しながら導き出す、または出会った人が教えてくれるかもしれない。
この旅は……自分という人間を見極める、発見する旅となる。
そんな気がする。

つらつらと、とめどなく、いろいろな事を考えながら歩いていると……
やがて王都の正門が見えて来た。

リオネルが原野へ出かける際、毎回といって良いほど会う、
もはや顔馴染みとなった、筋骨隆々、たくましい門番が大きく手を振っていた。

少し前、門番と立ち話をした際、「いずれ王都を出る」と伝えてあった。

かっちりと旅支度をしたリオネルを見て……
門番は「その日が今日だ」とすぐに分かったのであろう。

「おう、リオネル、おはようさん!」

「おはようございます!」

「ふっ、気をつけてな! また会おうぜ!」

「はい! 行って来ます!」

アンセルムと同じく、門番と短いやりとりをし……
いつものように、冒険者ギルドの所属登録証を見せ、正門を出た。

よし! 行こう! 最初の目的地は冒険者の街、ワレバットだ。

気合を入れたリオネルは無言で頷くと、力強く一歩を踏み出したのである。
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