姫は王子を溺愛したい

縁 遊

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39. 王子の親友もハッピーエンドらしい

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「ええー!!嘘!あの二人とうとう付き合いだしたの~!」

 女性のような男性のような、どちらかわからないような叫び声が室内に響いた。

「五月蝿い!拓斗(たくと)大声出すなら帰って」

 机にかぶりつくような姿勢で漫画を描いている柚菜が激おこです。

「久しぶりに会えたのに帰れなんて…酷い、酷いわ柚菜ちゃん」

 この女性のような話し方をしているのが柚菜の彼氏?の本名、宇留島 拓斗(うるしま たくと)。見た目は身長170センチの柔らかそうな猫っ毛の可愛い系の男の子です。

「こっちはもう少しで出来上がるという修羅場なの!拓斗は黙ってご飯の準備する!」

 目が据わっている柚菜に睨まれる拓斗。

「やだ…キュンとしちゃう。亭主関白の旦那様みたいよ。でも、後で王子ちゃん達の話を聞かせてね」

 柚菜は机に向いたまま右手の親指だけを立てて拓斗に見せた。オッケーということみたいだ。

「じゃあ、張り切ってご飯作るわ」

 拓斗はフリフリの水色のエプロンを鞄から出して着けてキッチンに向かった。

 いつも仕事が終わりそうなったら拓斗のご飯を食べる!と言って連絡してくるのが二人のルーティンになっている。

 1時間後、編集者が原稿を持って帰って行った。

「お、終わった…。お腹すいた…」

 柚菜は髪もボサボサで化粧もしていない、なんなら目の下にメイクしたようなクマができているくらいの酷い状態でリビングにやって来た。

「酷すぎない?顔のマッサージでもしようか?」

 出来立ての美味しそうな料理をテーブルに並べながら拓斗が柚菜の事を気にしています。恋人というよりも母親みたいな感じです。

「顔は後で!先に食べる!!」

 すでに手には箸を持って食べるスタンバイはできているようだ。

「わかった。じゃあ、食べましょう」

 拓斗も料理を運び終わり席についた。

「「いただきます」」

 その身体のどこにそんなに入るのかというくらいの量を次々と食べていく柚菜。それを嬉しそうに拓斗が眺めている。

「それで王子ちゃんは姫様と上手くいってるの?」

 用意したご飯が半分なくなった頃合いに拓斗が柚菜に問いかけた。

「うん。十代みたいなもどかしい感じの恋愛してる」

 まだ食べる手は止まりそうにない。

「そうなのね。あの二人の恋愛なんて想像しただけでニヤニヤしちゃうわね~」

 拓斗はすでに食べ終わり、食後のコーヒーを飲みながら話をしているみたいだ。

「見た目二人とも美男子だからね」

 前も言いましたが柚菜は腐男子フィルターで物事を見がちなので独特な言い回しがあっても拓斗は何も言いません。

「あら、でも王子ちゃんは恋する乙女何だから女性らしい感じになってるんじゃないかしら?だって婚約発表の時なんか美女に化けてたじゃない」

 確かにそうだけど…。

「王子は自分に自信がないからね。女子力コンプレックスっていうのかな?まあ、姫野と付き合うことによって改善されれば嬉しいよね」

 柚菜は、テーブルの上に用意されていた置ききれないほどの料理の全てを食べ終わり満足そうに手を合わせた。

 それに合わせるように拓斗がコーヒーをいれている。

 部屋にはコーヒーの良い薫りが充満してきた。

「だけど姫様がやっと重い腰を上げられてよかったわね~」

 淹れたてのコーヒーを柚菜の前に置いて、拓斗がまた席に着いた。なぜか拓斗の淹れたコーヒーだけは美味しく飲める柚菜の為に毎回心を込めていれているらしい。

「姫野…重すぎるんだよ…。当の王子は全然気がついていなかったみたいだけど何年片思いしてたんだって話だよ。私が出会った頃にはもうすでに王子ラブだったからね」

 その話を聞きながらうっとりしている拓斗。

「うらやましいわ~。幼馴染みラブよね~。ずっと一途に思っていた二人が付き合うことになるなんて漫画や小説の中だけの話だと思ってたもの」

「確かにね。でも、それを言うなら私達もかなりレアな部類にいれられてるみたいだよ。編集者さんから私達の事を漫画に描かないかと言われたもん」

「ええ!!嘘!漫画になるの!?やだ!可愛く描いてよね」

 まだ描くとは言ってないのに浮かれた様子の拓斗を見て引いている柚菜。本当になぜこうなったのか…。柚菜自身も不思議で仕方ない。

 二人の出会いは柚菜が高校生の頃に遡る。その頃すでに薄い本の世界では有名だった柚菜は夏休みを利用して販売会をしたのだがその時に柚菜のファンとして訪れたのが拓斗だった。

 だが、初対面の二人の印象は最悪でまさかその後に付き合うことになるなんて二人とも思ってあなかった。

 なのに付き合ってからもう8年が経過した。

 今までの事が走馬灯のように思い出せる。

 柚菜は大きく深呼吸を一つしてポケットに手をいれて何かを取り出しテーブルに置いた。

 バン!

「な、何!?」

 驚いた拓斗がテーブルの上を見ると小さなピンク色の箱があった。それを柚菜が拓斗の方に押している。目で合図をしているところを見ると…中を見ろと言っているみたいだ。

「中を見て良いの?」

 拓斗は箱を手に取り開けた。

「…え?これって…」

「嫁に来てよ」

 男らしいともとれる言葉でプロポーズしたのは柚菜です。

「…行く!すぐに嫁に行くわ~」

 大泣きする拓斗の頭を優しく撫でる柚菜。

 こちらもどうやらハッピーエンドになりそうです。







 

 

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