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29. 王子は思い出した
しおりを挟むミステリーデートの目的地に到着した途端に昔の記憶がよみがえってきました。
あれは中学生最後の試合が終わった時…。
全国大会まで勝ち進んだのに一回戦で負けてしまいチームメイトと泣きながら反省会をして、その後に思っていたよりも早く部活を引退することになったから何をしたいかという話になったんです。
「海行きたい!」
「キャンプしたい!」
「水族館に行きたい!」
この時に私が言ったのは「水族館に行きたい!」でした。
「イルカショーを見た後、クラゲをボーと眺めていたいな~」
これもその時に確かに言っていた記憶がありますが…あの時に姫野がいた?
同じ会場にいたのは知っていたけど、近くにいないとあの時の会話を聞けないよね。
だけど…どう考えても目の前にあるこの水族館はイルカショーもしていて、大きなクラゲの水槽があることで有名な水族館なんです。
やっぱりあの時、近くに姫野がいたとしか考えられない。
「来たことあるのか?」
少し不安そうな顔をして私の顔を覗き込む姫野。
「えっ、ない。来たことないよ」
私の返事を聞いて不安そうな顔が笑顔に変わる。
「良かった。ここの水族館のクラゲの水槽が凄い綺麗らしい」
…やっぱりあの時の会話を聞いていたんだ。
「クラゲ見たかったから嬉しいよ。連れてきてくれてありがとう」
視線が合っていたはずの姫野の顔が横を向いてしまった。何か向こうにあるのかな?
向こう側を見てみたけど何も無いよ。急にどうしたんだろう?
「姫野、どうしたの?」
「な、何でもない。チケットは買ってあるから行こう」
チケットまで用意してくれてたんだ。前から準備していたのがよくわかる。…嬉しい。
姫野の背中を追いかける。
「今からだとイルカショーがすぐに始まる時間だから先にそっちの会場に行こう」
「わかった」
チケットを係の人に渡しながら段取りを相談。この感じは昔と変わりがないな。
「急ぐぞ」
「了解」
急ぎ足で行こうとしたら…そうだ!今日は靴がいつもと違うんだった。
前回よりも低いが3センチくらいのヒールのある履き慣れない靴だったから上手くいかずよろけてしまった。
「危ない…」
姫野が咄嗟に私の体を支えてくれた。今は私が姫野に抱きついている感じになってしまっている。
「大丈夫か?少し遅れても見れるだろうからゆっくり行こうか」
「うん。ありがとう…」
ゆっくり姫野から離れていると、姫野が私の右側に立ち自分の左腕の肘を出してきた。
「え…何…?」
「靴、慣れてなくて歩きにくいんだろ?腕貸すよ」
あ~、自分の腕を持っていいよってことか。
「え!いいよ!」
一瞬考えたが、その時点で恥ずかしくなってしまった。私には無理だよ!
「遠慮するな。こけて恥ずかしい思いをするより良いと思うぞ」
…そう言われると何も言い返せないよ。
「ありがとう…」
恥ずかしいけど気合いをいれて姫野の腕を右手で掴んだ。
これって、どこからどう見ても付き合ってる二人に見えるよね。
急にドキドキ感が増してきたんですけど…。
姫野に聞こえてないよね。
うわぁ~!!!
大勢の人達の感嘆の声が聞こえてきた。
イルカショーのステージが近いみたいだ。
暗い所から急に明るくなったと思ったら、ちょうどイルカが吊るしてあるボールに向かって高く飛んでいるところだった。
「「うわぁ…」」
姫野もイルカを見ていたようで二人の声が重なった。同じように声を出した事に可笑しくなって二人で顔を見合わせて笑った。
「うわぁって二人して語彙力ないな」
「本当だね。あ、あそこ二人座れるみたいだよ」
指差した方向、一番下の席がやけに空いていた。他はわりと座っているのに何であそこだけポッカリと空いた穴みたいになっているんだろう?と少し思ったが早く座ってイルカショーを見たかったので深く考えなかった。
イルカ達は本当に賢くてタイミングを合わせてジャンプしたり、ボールを蹴りあったりと、とても器用で見とれてしまう。
「うわぁ、本当に凄いね」
「お前また、うわぁって…」
姫野に笑われたけど仕方ないよ、だって出るんだもん。
「まあ、楽しんでくれているみたいだから良いけどな…」
「それは間違いなく楽しんでいます」
そんな話をしていると急にイルカがスピードを増して泳ぎ出した。
…と思ったら。
大量の水が私達の方に波のようにやってきます。
「嘘だろ!?」
「…プッ。水も滴る良い男だね。ハハッ…」
そう、二人ともイルカ達に思い切り水をかけられてしまいました。
なるほど…ここは水がかかるゾーンだったから人がいなかったんだね。
「お前も人の事を笑えないぞ…。待ってろ、売店でタオル買ってくる」
イルカショーもさっきの水掛けで終了だったみたいで人が会場から移動していっています。
「ねえ、あれってバレーの姫野選手じゃない?」
「嘘!どこ?私、ファンなんだけど」
売店に向かう姫野の後ろを追うように女性達が歩いて行くのが見えた。
「姫野…大丈夫かな」
見えなくなった姫野を心配して去って行った方向を見ていたら、反対側から声をかけられた。
「王子さんですよね?」
誰?
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