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24. 王子は気付き始めた
しおりを挟むやっと頼まれていた姫野の靴が完成した。
自分で言うのも何だけどなかなかのできだと思うんだよね。
靴のラインとか色の配色、それに中に最新式のスポンジも入れたし姫野の足の負担を軽減できると思うんだけど…姫野が気に入ってくれるかな。そこが一番なんだよね。
いつもお客様に足入れ(試し履き)をしていただくまでが緊張するんだよね。自分では上手く出来たと思っていても足入れをしてもらうと、しっくりこないと言われてやり直しだったりするから気を抜けない。
足型の通りに靴の型をとるんだけど、これが凄い難しい。立体的な形を平面の紙に写して型紙を作るんです。最初は何回も失敗しました。
今でも完璧とは言えないけど…。
この仕事って本当に奥が深いんです。
姫野の足はスラッと細くて足の甲が薄い形をしているから既存品だと疲れるんだろうと思い、甲の部分と土踏まずの部分を意識して作ってみたんです。
こだわったので、姫野に早く履いてもらって感想が聞きたい!
職人魂がうずきます。(まだ新米ですが…)
「王子、何をそんなにソワソワしてんだ?」
出ました、いつもの杉ノ原先輩です。先輩は何だかんだと言いつつも気にかけてくれるから本当に良い先輩だと思います。
でも、今日は先輩の様子がいつもと違うような…。
「先輩こそどうしたんですか?何か顔が疲れてますよ」
目の下には隈が出来ていて、髪の毛もボサボサです。いつもは髪の毛をきっちりと固めているのに…どうしたんだろう。
「お前にわかるくらい今日の俺は酷いのか…」
額に手を当てて天を仰いでいる先輩。しかし、さっきの言い方微妙にけなしてませんか?
「ん?何か引っ掛かる言い方ですね」
「気にするな。なに…彼女と別れたんだ。俺的にはそんなにショックを受けていないつもりだったんだが…」
「え!あの大学生時代から付き合っていた辛抱強い彼女さんにとうとう愛想をつかれて別れちゃったんですか!?」
先輩の彼女話しは、この部署の人には有名な話なんです。
大学生時代に彼女さんに一目惚れした先輩が猛アタックして付き合ってもらってそれから何度かプロポーズしたけどダメで…でも付き合ってはいたという不思議なお二人だったのですが…。
「お前のその言い方にも引っ掛かるものがあるぞ」
先輩が私の頭に手をあてて髪の毛をくしゃくしゃにしてきました。
「もう!先輩やめてくださいよ」
でも、何度もプロポーズしたくらいの彼女さんに振られたなら凄いショックだろうな…。先輩、大丈夫かな。
「先輩、いつもは私が励まされてますから今日は私が話を聞きますよ。帰りに飲みに行きますか?」
いつもなら私が先輩に「飲みに行くか?」と聞かれて話を聞いてもらってスッキリさせてもらっているから、今日はそのお返しです。
「…お前がそんな気を遣える様になったのか。成長したんだな」
まるで私の親の様に泣き真似をしながら話す先輩を見ていたらバカらしくなってきました。
「先輩、いったい誰目線ですか!?もう!せっかく私が珍しく誘ったのに…もう絶対に誘いませんからね!」
先輩から顔を背けてパソコンの画面に目をやった。
「悪かった。謝るから期限を直せよ。王子様、今日は一緒に飲みに行って話を聞いてください」
今度は片手を自分の胸にあてながらお辞儀をしている。まだバカにされているとしか思えない様な態度だと思うんだけど…。でも、先輩って素直じゃないから恥ずかしい時は少しふざけるんだよね。これも最近分かってきたことだ。
きっと今も恥ずかしさを隠すための態度なのかもな。
「仕方ないですね。今日は聞いてあげます。今度からは素直に喜んでくださいよ」
「ハハッ…。了解」
自分の頭を恥ずかしそうに掻きながら先輩は自分の席に戻って行った。
それにしても先輩も濃い週末だったとは…。
人を好きになるって上手く行かないことの方が多いのかな。今まで恋愛は自分に関係ないと思っていたし、誰かを好きになったこともなかったから考えたことがなかったけどお互いが好きになって恋人になるなんて奇跡に近いのかな…。
先輩も最初は両思いでは無かったわけだし…。
好き…か。
どんな感じなのかな。
漫画とかドラマとかを見ていると、相手の事を考えるとドキドキしたり、眠れなかったりするみたいだけど…ドキドキか。
姫野にたまにドキドキするのは恋のドキドキとはたぶん違うよね?
でも、ドキドキってどう区別するんだろう。
だって姫野みたいにイケメンな人に優しくされたり触れられたりすると誰でもドキドキするよね。私だけではないはず…。
あれ?でも杉ノ原先輩もイケメンだと思うけどドキドキしないな…。
なんでだろう?
イケメンにもドキドキする人としない人の分類があるとか?
いや、でもこれは先輩に失礼だよね。
あれ…?
本当になんで私…姫野にはドキドキしてるんだろう。
あれ…?
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