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6. 王子は記者に囲まれる
しおりを挟むいくらなんでも早すぎる。それが私の今の気持ちです。何が早いかって?それは…。
「ちょっと、王子さんこの雑誌に書いてあることは本当なの?」
会社のベテラン受付嬢が会社のロッカー室で珍しく私に声をかけてきた。
「え?何がですか」
知っているけど惚けてみた。これで話したくないと察してほしい。
…がダメだった。
「何がですか?じゃないわよ。姫野選手と熱愛スクープされてたじゃない。そのことよ!」
そういえばこの人が姫野の熱狂的なファンだったのを忘れた。
「ああ、食事に行ったのは本当ですよ」
そう、あの一度の食事で写真を撮られたのだ。仕事が早すぎます。
しかし、一度の食事で熱愛だと書かれるなんて姫野も大変だなと感じたよ。このままだと本当に好きな人ができたとしてもこっそり付き合うなんてできないんじゃないのかな。人気者は大変だな。
「もう、どうして私を誘ってくれなかったの!」
いや~、そう言われてもそんなにあなたと私は仲が良いわけでもないのに誘えませんよね。とは言えないから。
「すいません。急に誘われたので…」
恋人ですって言ったらこれより言われるよね。そう考えると安易に引き受けるんじゃなかったと今更ながら後悔する。
「もう!今度は誘ってよ」
ベテラン受付嬢はプリプリと怒りながらロッカー室を出ていった。
「はぁ~」
実は朝から姫野から連絡がきていて今日の雑誌に記事が載ることは知っていた。だけどこんな感じになるなんて思ってなかったな。私の考えが甘かったのか…。
ロッカー室を出て仕事部屋に行くと杉ノ原先輩に手招きされて呼ばれた。
「おはようございます。何ですか?」
「担当変更するか?」
「へ?」
「姫野選手だよ」
杉ノ原先輩もあの記事を見たんだな。
「気を遣っていただきありがとうございます。ですが、自分に担当を続けさせて下さい」
私は先輩に頭を下げた。
「王子がやりたいならそれで良いよ。変わりたくなったらいつでも俺に言ってこい」
「はい。ありがとうございます」
本当は面倒見が良い先輩なのかな?
普段はのらりくらりしていて掴み所のない先輩という印象なんだよ。だけど仕事はきっちりとしているし職人としての腕も実は凄いんだよ。
私にとっては本当にいまだによくわからない人なんだよね。
朝のひと悶着があったものの、その後は普段通りに仕事ができた。
…ので油断していたのかもしれない。
仕事を終えて会社の玄関まで来たら大変な事になっていた。
「おい!来たぞ!!」
「王子さん!姫野選手とのことを聞かせてくださいよ!!」
「お付き合いはいつ頃からだったんですか!」
沢山の記者さん達が会社の入り口に来ていたのだ。
幼い頃から取材されていたので慣れていると言えば慣れている方だとは思うけど、熱愛報道の対応は経験0だからな…。
対応しないと明日も来そうだし、会社に迷惑をかけるわけにもいかないよね。
私は気合いを入れて会社の玄関を出た。
「お騒がせして申し訳ありません。詳しいことは明後日にキチンとお話しさせて頂きますのでそれでお許し下さい。また、会社に迷惑がかかりますのでこちらに来るのはご遠慮していただきたいと思います。よろしくお願いいたします」
私は沢山の記者さん達の前で頭を深々と下げた。
「明後日とはいつですか?その時は姫野選手も一緒ですか?」
一人の女性記者がまだ突っ込んで聞いてきた。
「詳しい日時は姫野の方から連絡があると思います。皆さんにお話しをする際は二人一緒でさせていただきます。これでよろしいですか?」
私は質問してきた女性記者に笑顔で返答した。女性記者は何故か顔を赤らめて頷いている。
「では、お疲れさまでした。失礼します」
私はもう一度頭を下げてから、記者さん達の間を通り帰宅した。
全ては姫野に言われた通りにしたのだから文句は言われないだろう。
しかし、姫野の予想が当たるとは思わなかったな。ここまでの大事になるとは…。
キチンと姫野のマスコミ対策の話を聞いておいて良かったよ。
恋人役をするだけに記者会見とか…ありえないわ。
そう、実は今朝、姫野から婚約会見をすると言われて驚いたなんてもんじゃなかった。
だって恋人役するだけで婚約者になる?
おおごと過ぎるよね!
姫野は私にひたすら謝っていたけどね。
婚約となるとお前にも傷がつくことになる。だから婚約破棄を発表する時は一方的に俺が悪いと言うから許してくれ!って言ってたな。
今後、私は誰かと恋愛する予定もないし気にしなくても良いよって言ったのに。あの時も複雑な表情をしてたな。
まあ、何にせよ一度引き受けたんだからちゃんと恋人役はまっとうする。
問題は婚約会見の衣装と私のお兄ちゃん達だよね…。
衣装は姫野が手配するとか言ってたけど、お兄ちゃん達には何て言おうかな…。
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