姫は王子を溺愛したい

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2. 再会した王子と姫

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「久しぶりですね王子さん」

 愛想が良い爽やかな笑顔でイケメンに挨拶をされる。あれ?この人は私の知っている姫野で間違いないよね。えっ!人が変わってる!?

 久しぶりに会った姫野の第一印象がこれだった。

 昔の記憶から数段格上げされたイケメンにしあがっている。昔は可愛いお姫様の様な男の子だったのに…。

 今目の前にいるのは細身ながらしっかりとした筋肉がついた男らしいイケメン…。変わらないのは二重の大きな瞳だけ。いや、雑誌とかでは確かに見てたけど実物は色気も凄くないですか?

 私の知っている姫野は可愛いが無愛想で無口な男の子だった…はずだ。

 それに小学生から中学生までの子供時代の9年間の記憶には笑顔で話しかけられた記憶なんて無いんだけど…。

 私はあまりの驚きにフリーズしてしまっていた。

「何ボーッとしてんだ。早く採寸しろ」

 隣にいた杉ノ原先輩に小声でお叱りを受けて小突かれたことで慌ててしまった。

「す、すいません。お久しぶりですね姫野さん。こちらで採寸しますので靴下を脱いで機械の上に足を乗せて下さい」

 姫野はまた爽やかな笑顔を浮かべて私の言葉に頷いた。

 今日は我社にバレー靴を作りに来ているのだ。

 プロになってからずっと姫野の担当をしていた人が定年でお辞めになり、今年から私が担当することになった…みたい。

 決まった後で聞かされるというのはどうなのか?

 本来なら先輩方のどなたが担当するのだが姫野が私を指名したらしいのだ。

 まだ職人歴の浅い私にはかなりのプレッシャーでしかないよ。

 本当になんで姫野が私を指名したのか謎だわ。


「これで大丈夫かな?」

 色々と考えている間に姫野が靴下を脱いで採寸の機械の上に足を置いていた。

「はい。そのまま動かさないで下さいね」

 私は機械のスイッチを押した。

 前の担当の人は職人歴40年以上のベテラン社員で機械を使うことなくご自分でメジャーを使い足の採寸をしていたみたいだが、最近ではこの機械を使う事がほとんどだ。

 一見するとスポーツジムにでもありそうな見た目なのだが裸足で透明な板の上に乗るだけで足型や体重のかけ方などがわかるという便利な機械なのだ。解りやすく言えば大きなコピー機みたいな感じです。

 ピー!大きな電子音が鳴り機械が止まった。

「ありがとうございます。もう機械から降りて頂いても大丈夫です」

 姫野がゆっくりと機械から降りる。イケメンは足の指まで綺麗なんだな~と思わず見てしまう。

 これってセクハラ?

 いかんいかん、仕事だよね。集中しないと!

「次はこちらで声をかけるまで動かないで下さいね。3D画像を撮ります」

 足の甲等の計測もこの機械がやってくれるので本当に便利な世の中だなと思うよ。職人気質の先輩社員の中にはまだ受け入れない人もいるみたいだけどね。

 しかし…姫野の足は本当に綺麗だわ。指までスラッとしていて形が綺麗。神様が頭から足の先まで手を抜かずに造形したのかと思うと不公平だなと思ってしまう。

 なぜ私の造形…特に胸の辺りの肉付きに手を抜かれてのか教えていただきたいところだ。もう少しそこの肉付きが良ければ男性に間違えられることもなかったと思うんだよね。

 食べてもお腹にしかお肉がつかないし…。

「光が消えたけど、もう動いても大丈夫かな?」

「え…あっ、はい。もう終了なので靴下を履いて下さい。あとはデザインの事についてお聞きしますのでお部屋を移ってお話をさせて頂きたいと思います」

 …仕事に集中しにくいな。なんでかな?

「おい、王子。先に部屋に案内しておくからデータを持って後で来い」

 杉ノ原先輩がまた私に小声で指示をくれ、姫野と共に部屋を出ていった。

 面倒くさがりな所もあるが、なんだかんだ言っても良い先輩なんだよね。姫野とは違うタイプの涼やかな顔の体育会系のイケメンだから社内でも結構人気もあるみたいだしね。

 まあ、恋愛関係は私には関係のない話だけどね。

 高校生の時なんてバレンタインデーに女性から大量のチョコレートをもらっていたけど、男性から告白なんてされたこともないし、バレーひと筋だったから誰かを好きになることもなかった。正直言って自分が誰かを好きになるとか誰かに好きになってもらうとか想像もつかない。

 更に好きになった人と付き合うなんて奇跡でもない限り無理ではないかと思えるんだよね。

 年齢は重ねたが、モデルさん達のような雰囲気もなければ色気も皆無だし。姫野は大人の男っぽい感じに成長してるのに…神様…不公平すぎませんか?

「はぁ~」

 なんだろう、姫野と再会したからか今日はネガティブ思考が酷い。仕事にも集中できてない。

 気合いを入れないと!

 バレーの選手になりたいという夢は叶わなかったけど裏方として選手達を応援したいと思ってこの仕事についたんだから。

 そうだよ、姫野を驚かせるくらいに凄い靴を作ってみせよう!

 私は気合いを入れなおして姫野が待つ部屋に向かった。

 

 

 




 
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