上 下
156 / 169

2-35 フルドには見せたくない…

しおりを挟む


 フードが取れる瞬間に咄嗟に男は顔を隠した。

 そんなことをしなくても誰かわかっているのにな…。仕方ない…こちらから声をかけるとしよう。

「貴殿は…私の知り合いにそっくりなのだが…もしかしてラウリ?俺だ、同じクラスだったヴァンだ。覚えているか?」

 ここにフルドがいたら笑われそうな芝居だと我ながら思うぐらい下手な演技だと思う。だがラウリは動揺しているからか反応がない。

 もう少しこれを続けるしかないのか…。

「何百年ぶりだ?ラウリの一族はこんなにも長命だったとは知らなかったぞ」

 長命という言葉に反応して身体がピクリと動いた。たぶん長命になったのも黒い水晶が関係しているんだろう。

「…い、いや、人違いだ。私は用事があるのでこれで失礼する」

 フードを深く被り直して私の目の前から素早く立ち去ろうとする。

 そんなことはさせるか。

 ラウリの腕を掴む。

「なぜそんな嘘をつくんだ?魔力でお前だとわかると学生時代から言っていたのを忘れたのか…」

 学生時代、私は人の魔力を感知する能力に長けていたので友人の人探しを手伝わされていた。同じ学校の者なら知らない奴はいないと言うくらいだった。

「…あっ、すまん。思い出したよ!そうだ学生時代にいたな。いやいや~すっかり忘れっぽくなってしまってな~。歳のせいかな~」

 ラウリもわざとらしい演技で私に対応してくる。お互いに腹の中は真っ黒な大人になってしまったようだな。

「全く…忘れるなんて酷い奴だな。お詫びにどこかでお茶でもしながら昔の話をしないか?」

 そこでラウリに何があったのかを知りたい。

「…申し訳ないが予定があるから無理だ」

 暫く考える素振りを見せたが結局断られた。

「そうか…。いろいろと聞きたいことがあったのだが…仕方ないな」

 ラウリはホッとしたような様子を見せる。

「だがなラウリ…お前…なぜお前が魔王に関わっているのかだけは教えてほしいんだ」

「なっ!なぜそれを知っている!?」

 言った後で口を塞いでも遅い。ラウリの顔に大量の汗…たぶん冷や汗が吹き出している。

 魔王というワードが心理的攻撃としては効いたということかな。

「お前は昔から魔力探知が苦手だったよな。ここ数日私はずっと側にいたんだけど気がつかなかったよな…」

「え?そんなに前から側に居たのか…」

 ラウリが呆然とした表情で私を見つめる。

「ああ。教皇と呼ばれるようになったラウリの側にずっと居た」

「そんな…」

 ラウリは教会での出来事から見られていたことに気がついたのだろう。膝から崩れ落ちて地面に倒れこんだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...