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33. 星と名乗っています
しおりを挟む「星(せい)!こっちの掃除もお願いね」
「はい!」
あれから3日が過ぎた。ここでは星蘭と名乗らず、星と名乗っている。もし青晶に話をされたとしてもバレないように考えた。茉央は女官に虐められないかと心配してくれていたが、ここの人達は青晶のお姉さんの人柄のせいかみんな良い人達だ。
ここでは主に掃除をさせてもらっている。洗濯よりは水を扱うことが少ないので冬場は助かる。まあ、ずっとここには居られないけどね。
「星ちゃん…ちょっと」
青晶のお姉さんが周りを警戒しながら私を手招きしている。
近づくと手を握られた。
「これ後で食べなさいね」
手を開けると紙に包まれた飴があった。
「こんな高価な物をいただいて良いのですか?」
「良いのよ、私のだから誰にあげようと私の勝手よ」
「ありがとうございます」
相変わらず優しい人だ。もうすぐここから離れるのが辛く感じるくらいに私はここに馴染んでしまっている。
本来の目的を忘れてはいけないわね。私は情報を得るためにここに来たのだから…。
「蘭宝(らんほう)様~!どちらに行かれたのですか!」
「いけない、探されているわ…。じゃあ、またね」
蘭宝様…初めてお名前を知ることができた。いつもあの方とかしか言われなかったからお名前を知ることが出来なかったのよね。
今日は朝から女官達が忙しそうにしているし、私にも掃除を念入りにするようにと言いにきていたことを考えると何かあるんだろうな。
「星!掃除終わったらこっちに来て手伝って」
「はい」
最近親しくしてくれている明(めい)さんに呼ばれた。
「明さん今日は忙しそうですね」
「当たり前よ…。ここだけの話しよ、今日は皇帝がお渡りに来られるのよ」
お渡り?…ああ、夜にこちらに来られるのか。その為に綺麗にしていたのか!
蘭宝様は皇帝のお気に入りというのを忘れていたわ。
それで準備をしないといけないから忙しそうだったのね。
…これってチャンスなんじゃないかしら。皇帝に会えるかもしれないということよね。
でも…今のこの格好では駄目ね。
実は茉央からここで目をつけられないために変装をさせられているんです。今度は男装ではありません。洗濯場にいた時はわざと顔を汚していましたが、ここで働く時に顔は綺麗に洗って来るようにと指導されたので茉央が私の顔に化粧をするようになりました。
眉毛を太く描き、ソバカスを鼻から頬にかけて描きさらにはメガネまでさせられています。
髪も三つ編みをして原型がほとんど分からない感じの仕上がりになっているんです。
どうにかして皇帝に会いたい…どうすれば会えるかな…。
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