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69. 誰の頑張り?

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『え!本当に!!』

『間違いない。俺が調べたんだからな。』

 暫く姿を見せなかった翡翠がやっと姿を見せたと思ったら嬉しいお土産を持ってきてくた。

『この学園に沢山の龍が集まって来ている。それに知らない間に龍がついている奴も増えているぞ。』

 思わず俺の顔がにやけてしまう。

『そうか…。へへっ。』

『気持ち悪い奴だな。何を笑っているんだ?』

 翡翠がにやけている俺を見て引き気味だ。

『だってさ嬉しくない?この世界に龍が戻ってきてくれているんだよね。それって夢や希望を持つ人が増えたって事にも繋がるよね。』

 そうでないと龍は生きていけないからね。

『そうだな。』

 翡翠と気まずい雰囲気になって怒っているんだなと俺は思っていたけど…いろいろ調べてくれていたんだな。翡翠って良い龍じゃん。

『お、お前…照れる様な事を…。』

 翡翠が身体をくねらせてもじもじしている。

『あ!俺の考えを読んだな!恥ずかしいから勝手に読まないでよ。』

『無理な話だな。』

 何も言わなくても言いたいことが分かるって便利なのかどうなのか…。

『まあ、人間はいろいろと悩んだり考えたりするからな。口から言葉にするまでに時間がいるかもしれないな…。思っていることと反対の事を言う時もあるしな。』

 龍は悩まないのか?とふと疑問に思う。

『人間みたいになることはないな。』

 また読まれた。

『そうなんだね。』

 いろいろと龍とは違うんだな。当たり前だけどさ…。

『それより委員長の件はどうなったんだ?』

『それ!それだよ!佐藤くんが委員長と知り合いだったんだよ。だから佐藤くんに協力してもらうことになったんだ。』

『ほお。で…どうなんだ?』

 せっかちだな。いきなり結果を聞くの?

『結果から言えばもうすぐだと思う。龍が委員長の側をうろうろしているからね。』

 俺は少し威張った感じで胸をつき出すように答えた。どう?俺は頑張っただろう?

『そうか。』

 ん…それだけ?

『そんなに誉めてほしいのか?』

『いや…。だってさ…。』

 誉められるとやる気が出るよね。

 委員長に夢を持ってもらうの大変だったんだよ。

 クールというか冷めているというか…。情熱がないというのか。委員長は何事も淡々とこなす感じなんだよな。

 そんな委員長はどうやら佐藤くんに弱いらしく俺に対する態度とは全然違うんだよ。佐藤くんの言うことにはすごい反応したんだよな。



「佐藤くんは本当に凄いね!」

「そうか~?」

 いつもクールな委員長の目がキラキラしてるよ。別人だよ。誰だよこの人?

 いつもの様に食堂で食事をしている佐藤くん。いつもと違うのは委員長が一緒のテーブルに座っていることだ。もちろん俺もいるよ。

 佐藤くんは次々とテーブルの上に乗せられていた食事を胃袋に納めていっている。それを委員長が目を輝かせて見ている。その光景を俺が見ている…。

 人から見れば変な感じなんだろうな。

「僕は好き嫌いが多くて…。佐藤くんの様に何でも美味しそうに食べるのを見ているとうらやましいよ。」

「そうなのか?じゃあ、好き嫌いを無くせば良いじゃないのか?」

 佐藤くんはナポリタンを食べながら委員長にアドバイスをした。口の回りがケチャップですごいことになっているよ。

「…出きるかな。」

「俺が協力してやるよ。毎日一緒にご飯を食べようぜ。その時に少しずつ嫌いな物を食べる練習しよう。」

 ナイスアイデア!委員長は黙っているけど嫌そうな感じはしない。

「委員長は何が嫌いなの?」

 俺が聞いてみたら委員長は目線を俺に向けただけで何も言わない。本当に態度違いすぎだよ!

「言ってみろよ。八岐くんがメモしてくれるからさ。」

 見かねた佐藤くんがアシストしてくれた。

「…ピーマン、なす、トマト、人参、ブロッコリー、ごぼう、ほうれん草、小松菜、レタス…。」

 次々と出てくる野菜達。

「ま、待って。書けないからちょっと待って!」

 まだまだありそうな雰囲気だ。野菜がほとんどダメなのか?

 それからも委員長の口から出るわ出るわ嫌いな野菜。書くのに一苦労したよ。

「本当に多いんだな…。」

 珍しく佐藤くん食べる手が止まってるよ。

「…だよね。自分でも直したいと思っていたんだ。」

 委員長の表情が変わった。

 …初めて委員長の笑顔を見たよ。照れ笑い?なのかな。

 その日から委員長の好き嫌いを無くす特訓が始まった。

 基本的にランチとディナーは一緒に食べた。

 その時に委員長の嫌いな野菜が入ったメニューを注文して食べてもらう。無理なら佐藤くんが食べてたけどね。食事は無駄にしないよ。

 最初は一口で終わっていた委員長も慣れてきたのかだんだんと食べられる様になってきたんだ。

 すると…。

『コイツは成長しようとしているのだな…。』

 来たよ!龍が来た!

『そうです。ぜひ見守ってあげてもらえませんか?』

 俺は龍に委員長を売り込んだ。

『様子を見よう。』

 龍はそれから委員長の近くに姿を表すようになった。


 …て言うことがあったんだよ。頑張っただろう?

 翡翠を見ると視線が冷たい。なぜ?

『それは佐藤が頑張ったのでは?』

 そうかもだけど~!少しは誉められたい!!



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