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54. 新しい龍

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「八岐…どこを見ているんだ。早く前に出てきてこの問題を解いてみろ。」

 担任の織田先生が大きな声を出して俺を呼んでいるんだけど、俺は集中できない。なぜなら…。

『怒られておるぞ。早く前に来んか。』

『いや、アイツはお前の姿に圧倒されているんだろう。仕方ないな…自己紹介でもしたら良いんじゃないか?』

 織田先生についている朱色の龍とその龍と大きさは変わらない若しくは少し大きい白い色の龍が早口で話している。しかも黒板の前で…。

 見えている俺にしたら威圧感がハンパなくて前に出にくいんだよ~!そこどいて~!

『あの…すいませんが、自己紹介は後にしてそこを退いてもらえたら助かります。』

二匹の龍は顔を見合わせてから俺の方を見た。

『『分かった。』』

 大きな体を揺らしながら黒板の前から教室の後ろに移動した。迫力あるな~。

「八岐!何で天井を見つめているんだ!早く前に来い。」

「あ、はい!すいません…。」

 ハハハハハッ…。クラスメイトの笑い声が教室に響く。

 恥ずかしい…。

 いったいあの龍は何をしに来たんだ?

 朝目覚めたらすでに俺の部屋にいたので朝から自分でも驚く程の大声を出してしまい先生に叱られた。いや、でも驚くよね?目の前にいきなり大きな龍がいて自分の事を覗き込んでいたらさ…。

 驚かない奴がいたら会わせてほしいくらいだよ。

今日は朝からずっとその龍が俺についているんだよね。質問しても曖昧に答えるだけでハッキリしないんだよな~。

 だけど今の様子を見たところだと織田先生についている朱色の龍と知り合いみたいだな。放課後に聞いてみようかな。だけど…それまでこの授業参観状態が続くのか…はぁ~、考えただけで疲れるな。

『お主はストレスが溜まっているのか?溜め息をつきすぎだな。』

 いや、誰のせいだと思っているのかな?貴方が原因なんだけど!

 言いたいところだけど織田先生の龍と仲が良いとなると伝説の龍の知り合いかもしれないから嫌われないようにしないといけないよね。友達と知り合いは多い方が今の俺には良いからね。

 人間に限らず龍もね。

 とりあえず俺は龍に向かって笑顔を見せた。

『すいません、少し疲れているんです。放課後にゆっくりお話をさせてください。』

『分かった。では、それまで友人と話をして待つとするかな。』

 白い龍は織田先生の朱色の龍と共に教室を出て行った。

 良かった~。これで落ち着いて授業が受けられるよ。

 それからは気になる龍がいなかったおかげか先生に怒られる事もなく無事にすべての授業を終える事ができた。

「やっと終わった~!今日はどうする?このまま寮に帰るのか?」

 佐藤くんが体を伸ばしながら俺と大谷くんに聞いてくる。佐藤くんは食堂に行くつもりなんだろうな…。

「今日はこれから新聞部のミーティングがあるから行かないといけないんだ。終わるのは遅くなるから夕食も今日は一緒に食べられないと思う。」

 大谷くんは部活か…。忙しいんだな。そう言えばジャンケン大会の時の記事が話題になっていたからな。

「残念だな。じゃあ、今日はトッピングなしの大盛ラーメンか…。」

 佐藤くんは大谷くんのジャンケン大会の景品を当てにしていたんだね。おやつにラーメン…相変わらずの大食いだな。

「僕も今日は用事があるんだ。寮に早く帰ってしないといけないことがあって…。佐藤くん、ごめんね。」

「八岐くんもか…残念だけど今日は一人で食事か。分かった、また明日な!」

 俺達は教室で別れた。

 急いで寮の自分の部屋に戻り龍にコンタクトをとってみた。深呼吸をして目を閉じて、さっきの龍の姿をイメージしながら頭の中で会話する。

『聞こえますか?今ならお話ができるのですが、どこにいますか?』

 これで大丈夫かなと思いながらゆっくりと目を開けるとすでに目の前に龍の姿があった。

『うわぁ!は、早いですね…。』

 この龍は驚かすのが好きなのかな?まだ心臓がバクバクしているよ。

『すまんすまん。そんなに驚くとは思わなかったんだ。許せ。』

 豪快な笑い声が響く…しかも二匹の…。

『織田先生についてなくて良いのですか?朱色の龍さん』

 そう、俺の狭い寮の部屋に大きな龍が二匹…ぎゅうぎゅうの満員電車状態みたいになっている。

『すまん、このままでは圧迫感があるか?小さくなれるぞ!』

 ボン!という音と共に二匹の姿が翡翠と同じくらいの小さな龍の姿になった。…なんでもありなんだな。

『…えっと、所でそちらの白い龍さんは僕に何の用があって来られているのですか?』

 二匹はまた顔を見合っていた。

『いや、用という用もないな。こいつはお前の顔を見に来ただけだ。』

『は?』

 わざわざ俺を見に来ただけ?何の為に?

『目的は?』

 また二匹が見つめあっている。

『別にないな。強いていうならばお前に興味があるらしい。』

『僕に興味が…?』

 なんだろうな…俺って実は男に人気が出るタイプなのか…?

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