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52. 母さんの怒り 〈父視点〉
しおりを挟む「いや~、まさかこんな事になるなんて思ってなかったよ~。」
私は今、自分が書いた本にサインを求められている。それを妻が冷めた目で見ているが…どうしてだ?
「ありがとうございました。大事にしますね。」
サインを書いた本を大事そうに胸に抱きしめて女性は去って行った。
「知花ちゃん…何でそんな冷めた目で見るの?」
妻の冷たすぎる視線に堪えられず聞いてみた。
「分からないのですか?」
自分で考えてみたが思い当たらない。知花ちゃんに嫌われる様な事をしていないと思うんだけどな。
あれかな、知花ちゃんが食べたがっていたケーキを黙って私だけ食べたのがバレてしまったとか?
それとも、知花ちゃんが大事にしていた本にうっかりして紅茶をかけてしまったことがバレてしまったとか?
考えてみればわりとあったな…。どれだろうか。
「はぁ~、本当に分かっていないのね。貴方、竜に本を出すことを話したの?」
そう言えば…まだ話していなかった!
話すつもりだったんだけどいろいろと忙しくて忘れていたよ。
「思い出したみたいね。本人に了解もなく勝手に本なんか出して…。竜ちゃんに怒られるわよ!」
「いや…わざとではないよ。竜だって分かってくれると思うんだけど。」
竜は怒らない…よな。
「まったく…。あの本を読んだら貴方も龍のことに詳しいみたいに人は思うわよ。実際は竜ちゃんに聞いた事しか知らないくせに。」
「え…そんなつもりでは書いていないんだけどな…。」
知花ちゃんがこんなに怒るとは思っていなかった。
「一刻も早く竜に手紙を書きなさい!さもないと…。」
「さもないと…何?」
どうするつもりだ。
「しばらく実家に帰ります。」
「えええ!!!」
それは困る!私は知花ちゃんが側にいてくれないと仕事をする気にならないし、姿を見ないと不安になってしまうよ~!
「嫌だ!それは絶対に嫌だ!!」
「それなら今すぐ書きなさい。」
知花ちゃんがどこからか便箋とペンを出してきた。え?ここはカフェなんだけど…。ここで書くのかい?
「何を驚いているの?書くの書かないの?!」
「書く!書きます!!」
私は追いたてられるように返事をした。
ペンを握ったものの何て書こうかな。実は本を出してベストセラーになったんだ。とか?
「貴方…まさか自分が書いた本がベストセラーになった…とか書こうとしていないわよね?」
知花ちゃん何で分かったの?流石付き合いが長いだけあるよね。
「はぁ~、答えなくても良いわ。今の顔だけで理解できたから。貴方が手紙に書くのは自慢ではなくて謝罪よ!」
テーブルの上をバンッと大きな音が鳴るくらいに手で叩き私の事を睨んでいる。
「反省しています。すぐに竜に謝罪します。」
私はこの後知花ちゃんに監視されながら謝罪の手紙を書きました。
知花ちゃん…これで実家に帰らないよね?
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