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8. 例の領地にやって来ました
しおりを挟む俺は父さんに頼み込み王妃様の実家の領地まで連れてきてもらった。名目は問題解決の為の調査らしい。
あの時俺が父さんから聞かされた話はこうだ。
「王妃様の実家の領地にある川の水がどぶ水の様になり、土地も荒れて農作物が育たなくなってしまったらしい。元々は緑豊かで農作物が豊作だったらしいのだが…ここ数年で激変したんだそうだ。その時に占い師に見てもらったら龍の仕業だと言われたそうだ。」
俺はまず龍の仕業と言った占い師に腹が立ったが、それを信じて退治しようと言い始めた王妃様達には怒りを感じたよ。
多分あの時に白龍が教えてくれた情報から考えると、全領主から今の当主に代替わりしてから少しずつ土地が荒れていったんだろう。それが顕著に目に見て分かるようになったのがここ数年というだけのことだと思われる。
何で人間は見えないものに罪を擦り付けようとするのかな?普段は信じない癖に勝手な時だけ信じるんだから本当に勝手だよな。
…俺も人間だけどね。
「着いたよ。ここが例の川だ…。」
馬車から降りると…。
「うっ…、凄い臭いですね。」
降りた途端に悪臭が鼻をつく。川と言われたからそうなのかと分かるが言われなければ大きなドブにしか見えない。
俺は辺りを見回した。
「どうだ?龍様は居るのか。」
父さんが心配そうに聞いてくる。
本来なら大きな川は龍達の休憩場所になるので何体かはいるんだけど…。
「やはり居ませんよ。こんなに汚いと駄目ですね。龍は綺麗な水を好みますから。」
それに…父さんには言わないけどここは僕には黒い靄(もや)みたいなのがかかっているように見える。これは何の気配なんだろうか?
「次は農地だな。急ごう。」
「はい。」
俺達は、また馬車に乗り込み農地に向かった。到着するまでこんどは馬車の窓からそとを眺めていた。さっきまでは父さんに龍の話をするのに夢中になりすぎて外を見ていなかったんだよね。へへっ…。
「お父様、あれは何でしょうか?」
窓の外を見ていると見慣れない建物が川の近くに建っていた。
「どれだ?あれは…何だろうな。以前と言っても5年くらい前になるが、その時にはあんな建物は無かった。」
川縁に建っている大きな建物から川に向かって大量の何かが流されているのが見える。
俺は前世の記憶がフラッシュバックしてきた。ニュースで見た工場の汚染水を川に流し込み訴訟になっていたものだ。
「もしかして…。」
川の汚染の原因は龍のせいではなく、あの建物からの排水のせいではないのか?
「どうした?あの建物が気になるのか。」
「お父様、あの建物について調べて頂けますか?」
「あの建物だな分かった。すぐに調べさせよう。」
父さんは魔法の通信機で部下の人に連絡をとりすぐに調べて知らせるようにと言ってくれた。
調べてからでないとハッキリしないがおそらく川の汚染の原因は解決するだろう。そんな予感がする。問題は農地か…。
「お父様、ここ土地の特産は何だったのでしょうか?」
前領主の時はワサビを育てていたみたいなんだけど、おそらく今の水の汚れた川から考えると何年も前からワサビは育てられなかったはずだ。
ワサビは綺麗な水でしか育てられないからな。
俺も事前に調べた時は驚いたよ。この世界にもワサビがあるんだ!ってね。どうやら前世と同じで辛いみたいなんだけど、色がちがうんだよね。前世ではワサビ=緑だったけど、この世界のワサビは何と、赤いんだ。
実は今日は実物が見られるかもしれないと少し楽しみにしていたんだけど…たぶん無理だな。
まあ、今日は無理だとしてもいつか口にしてみたいとは思っている。でも俺…まだ8歳だからな辛さに耐性無いだろうな。
「以前はここら辺一体はワサビの産地だったんだが…。最近は市場にも出回っていないな。他に特産物を作っているという噂も耳にしないよ。」
…ということはここの領民達はどうやって暮らしているんだ?
「ここには人は住んでいないのですか?」
そうじゃないとおかしいよね。
「いや、王妃様の実家だからそれはないと思うが…」
父さんも何かに気がついた様子だ。そうなんだよね、さっきから人をみかけていないし、民家も見ていない。
かなりの広範囲を、馬車で走っているのにだ。
「お父様、どうやらまだ調べて頂かないといけないことができましたね」
「そうだな…。これは国の一大スキャンダルになりそうな臭いがしてきたね」
父さんの笑顔…目が笑っていません。怒りを堪えているみたいですね。ただでさえブラック企業並の働きをしているのに、また仕事を増やして申し訳なく思いますが、これは父さんの試練でもあるみたいなので頑張って下さい!
父さんについている白龍が嬉しそうに光っています。これは魂が成長するという前触れだったと思います。見習いなんで断定はできないけど…。
「着いたよ。この辺一体が…農地…?」
父さん…最後がハテナになっていますよ。気持ちは分かります。だって…。
「ここが…」
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