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11. 理解できます
しおりを挟む「おはようございます。今日も宜しくお願いします。」
元気な挨拶をしているのは先日から異世界転生案内所で働くことになった久志さんです。
「今日も元気ですね。こちらこそ宜しくお願いします。」
数日事務作業のレクチャーをしただけで久志さんはここでの作業を覚えて下さったので非常に助かっています。仕事ができる方だったんですね。
「あの~、すいません…。」
おや、本日のお客様がもういらっしゃったみたいですね。
「「ようこそ!異世界転生案内所へ。」」
2人の声が揃いましたね。
「ささ、こちらの椅子にお座り下さい。」
素早い動きで久志さんがお客様をカウンターへと案内しています。
お客様は落ち着かない様子でキョロキョロと周りを見ていますね。
因みに本日のお客様は茶髪の背の高い男性です。モデルさんみたいにスタイルが良い人ですよ。
「あれ?もしかして…俳優の田上 誠哉(たがみ せいや)さんじゃないですか?」
急に久志さんが騒ぎ始めました。どうやら有名な俳優さんだったみたいですね。
「え…そうですけど。」
気まずい様な顔をしていらっしゃいますね。
「私、大ファンなんです!あのドラマが大好きで途中で見られなくなったのが残念だったんですよ。あれ…ここにいらっしゃるということは…。え?」
久志さんがなにやら1人パニックになっているみたいです。やっと気がついたみたいですが、ここは魂だけになった人が来る所ですからね。そろそろお仕事をさせてもらわないといけませんね。
「久志さん、ここは良いから奥でお仕事をお願いします。田上様、従業員が騒がしくて申し訳ありませんでした。」
私は田上様に頭を下げながら手で久志さんに奥に行く様に指示をした。
「…すいません。」
久志さんも反省しなから奥に行ったみたいですね。
「慣れてますから大丈夫です。」
さすが有名人と言うべきなのでしょうか。久志さんの様に騒がれるのは日常茶飯事だったのでしょうか。
「改めまして、ようこそ、異世界転生案内所へ。」
「はあ…。あの…まだ自分がなぜここにいるのかが理解できていないんだけど…。」
落ち着きすぎていてそんな感じには見えませんでしたが、実は久志さんと同じでプチパニックだったのですね。
「そうですか…。では説明させていただきますね。ここは先程から言っているように異世界転生案内所といって異世界に転生される方達のご希望を聞いて新たな世界に転生していただく案内をさせてもらう所です。」
田上様は最後まで私の話を頷きながら聞いて下さっています。
「…ということは、俺は死んだということですか?転生するということはそういう事ですよね…?」
田上様は少し顔を青くされて下を向いてしまいました。
「真実を申し上げるなら…その通りです。田上様は撮影中の事故でお亡くなりになられた様ですね。」
送られてきた田上様の調査書には映画の撮影で車を使用していたら、その車が暴走し…田上様はその車にひかれて亡くなったようです。
「そんな…。話題の復帰作品だったのに…。何で…なんで…。」
顔を手で覆っていらっしゃいますが涙しているのが分かります。確かに…田上様のここ最近の人生はついてないとしか言いようがない感じだったみたいですからね。数年前に原因不明の病気に罹患しそれを克服するのに大変な苦労と忍耐が必要だったみたいです。
やっと病気の症状が抑えられて仕事に復帰し、主演ドラマが大流行し、次は映画に…と頑張っていただけに悔しいでしょうね。
これは神様の手が加わっていそうな気配もしますが…。後で調査をしないといけませんね。
「田上様…すぐに転生してくださいとは申しません。暫くの間ここで宿泊していきませんか?落ち着いてから転生を考えてみてください。」
今は他に泊まりのお客様はいらっしゃいませんので静かですし考えるのには良いと判断しました。
「…良いのですか?」
泣いていた田上様が涙を拭きながら顔を上げた。
「はい。ここは宿泊施設も兼ねていますのでごゆっくりして頂いてかまいませんよ。」
「あっ…でもお金を持っていませんが…。」
衣類のポケットを触りながらお金がないかを確認している様ですね。
「大丈夫ですよ。お金はいただきません。」
田上様の動きが止まりました。
「…良いんですか?」
「はい。よろしければ、すぐにお部屋に案内しましょうか?」
「お願いします。…その前に一つお聞きしたいのですが…。」
お部屋にご案内しようと思い準備をしながらきいていました。
「転生はしないといけないんですよね?前の場所には戻れないんですよね?」
まだ心残りがあるのが出ていますね。
「残念ですが…転生は神様が決定したことですので私にはどうすることもできません。お力になれずに申し訳ありません。」
田上様の様な方はたまにいらっしゃいます。
そうですよね。いきなり貴方は死んだから次に生まれ変わる場所を選んで下さいと言われて素直に頷ける人のほうが本当は珍しいのかもしれません。
「いえ…。分かりました。」
この後、田上様を部屋まで案内させていただきました。暫くは賑やかになりそうな予感ですね。
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