上 下
11 / 20

11. 理解できます

しおりを挟む

「おはようございます。今日も宜しくお願いします。」

 元気な挨拶をしているのは先日から異世界転生案内所で働くことになった久志さんです。

「今日も元気ですね。こちらこそ宜しくお願いします。」

 数日事務作業のレクチャーをしただけで久志さんはここでの作業を覚えて下さったので非常に助かっています。仕事ができる方だったんですね。

「あの~、すいません…。」

 おや、本日のお客様がもういらっしゃったみたいですね。

「「ようこそ!異世界転生案内所へ。」」

 2人の声が揃いましたね。

「ささ、こちらの椅子にお座り下さい。」

 素早い動きで久志さんがお客様をカウンターへと案内しています。

 お客様は落ち着かない様子でキョロキョロと周りを見ていますね。

 因みに本日のお客様は茶髪の背の高い男性です。モデルさんみたいにスタイルが良い人ですよ。

「あれ?もしかして…俳優の田上 誠哉(たがみ せいや)さんじゃないですか?」

 急に久志さんが騒ぎ始めました。どうやら有名な俳優さんだったみたいですね。

「え…そうですけど。」

 気まずい様な顔をしていらっしゃいますね。

「私、大ファンなんです!あのドラマが大好きで途中で見られなくなったのが残念だったんですよ。あれ…ここにいらっしゃるということは…。え?」

 久志さんがなにやら1人パニックになっているみたいです。やっと気がついたみたいですが、ここは魂だけになった人が来る所ですからね。そろそろお仕事をさせてもらわないといけませんね。

「久志さん、ここは良いから奥でお仕事をお願いします。田上様、従業員が騒がしくて申し訳ありませんでした。」

 私は田上様に頭を下げながら手で久志さんに奥に行く様に指示をした。

「…すいません。」

 久志さんも反省しなから奥に行ったみたいですね。

「慣れてますから大丈夫です。」

 さすが有名人と言うべきなのでしょうか。久志さんの様に騒がれるのは日常茶飯事だったのでしょうか。

「改めまして、ようこそ、異世界転生案内所へ。」

「はあ…。あの…まだ自分がなぜここにいるのかが理解できていないんだけど…。」

 落ち着きすぎていてそんな感じには見えませんでしたが、実は久志さんと同じでプチパニックだったのですね。

「そうですか…。では説明させていただきますね。ここは先程から言っているように異世界転生案内所といって異世界に転生される方達のご希望を聞いて新たな世界に転生していただく案内をさせてもらう所です。」

 田上様は最後まで私の話を頷きながら聞いて下さっています。

「…ということは、俺は死んだということですか?転生するということはそういう事ですよね…?」

 田上様は少し顔を青くされて下を向いてしまいました。

「真実を申し上げるなら…その通りです。田上様は撮影中の事故でお亡くなりになられた様ですね。」

 送られてきた田上様の調査書には映画の撮影で車を使用していたら、その車が暴走し…田上様はその車にひかれて亡くなったようです。

「そんな…。話題の復帰作品だったのに…。何で…なんで…。」

 顔を手で覆っていらっしゃいますが涙しているのが分かります。確かに…田上様のここ最近の人生はついてないとしか言いようがない感じだったみたいですからね。数年前に原因不明の病気に罹患しそれを克服するのに大変な苦労と忍耐が必要だったみたいです。

 やっと病気の症状が抑えられて仕事に復帰し、主演ドラマが大流行し、次は映画に…と頑張っていただけに悔しいでしょうね。

 これは神様の手が加わっていそうな気配もしますが…。後で調査をしないといけませんね。

「田上様…すぐに転生してくださいとは申しません。暫くの間ここで宿泊していきませんか?落ち着いてから転生を考えてみてください。」

 今は他に泊まりのお客様はいらっしゃいませんので静かですし考えるのには良いと判断しました。

「…良いのですか?」

 泣いていた田上様が涙を拭きながら顔を上げた。

「はい。ここは宿泊施設も兼ねていますのでごゆっくりして頂いてかまいませんよ。」

「あっ…でもお金を持っていませんが…。」

 衣類のポケットを触りながらお金がないかを確認している様ですね。

「大丈夫ですよ。お金はいただきません。」

 田上様の動きが止まりました。

「…良いんですか?」

「はい。よろしければ、すぐにお部屋に案内しましょうか?」

「お願いします。…その前に一つお聞きしたいのですが…。」

 お部屋にご案内しようと思い準備をしながらきいていました。

「転生はしないといけないんですよね?前の場所には戻れないんですよね?」

 まだ心残りがあるのが出ていますね。

「残念ですが…転生は神様が決定したことですので私にはどうすることもできません。お力になれずに申し訳ありません。」

 田上様の様な方はたまにいらっしゃいます。

 そうですよね。いきなり貴方は死んだから次に生まれ変わる場所を選んで下さいと言われて素直に頷ける人のほうが本当は珍しいのかもしれません。

「いえ…。分かりました。」

 この後、田上様を部屋まで案内させていただきました。暫くは賑やかになりそうな予感ですね。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神様!モフモフに囲まれることを希望しましたが自分がモフモフになるなんて聞いてません

縁 遊
ファンタジー
 異世界転生する時に神様に希望はないかと聞かれたので『モフモフに囲まれて暮らしたい』と言いましたけど…。  まさかこんなことになるなんて…。  神様…解釈の違いだと思うのでやり直しを希望します。

神様!僕の邪魔をしないで下さい

縁 遊
ファンタジー
可愛い嫁をもらいラブラブな新婚生活を予想していたのに…実際は王位を巡る争いやら神様とのケンカやらいろいろあり嫁との時間が取れない毎日。 誰か僕に嫁と2人で過ごせる時間をください! そう思いながら毎日を過ごしている王子のお話です。 ※この物語は『神様!モフモフに囲まれる生活を希望しましたが自分がモフモフになるなんて聞いていません』のスピンオフです。

Fragment-memory of future-Ⅱ

黒乃
ファンタジー
小説内容の無断転載・無断使用・自作発言厳禁 Repost is prohibited. 무단 전하 금지 禁止擅自转载 W主人公で繰り広げられる冒険譚のような、一昔前のRPGを彷彿させるようなストーリーになります。 バトル要素あり。BL要素あります。苦手な方はご注意を。 今作は前作『Fragment-memory of future-』の二部作目になります。 カクヨム・ノベルアップ+でも投稿しています Copyright 2019 黒乃 ****** 主人公のレイが女神の巫女として覚醒してから2年の月日が経った。 主人公のエイリークが仲間を取り戻してから2年の月日が経った。 平和かと思われていた世界。 しかし裏では確実に不穏な影が蠢いていた。 彼らに訪れる新たな脅威とは──? ──それは過去から未来へ紡ぐ物語

異世界坊主の成り上がり

峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
山歩き中の似非坊主が気が付いたら異世界に居た、放っておいても生き残る程度の生存能力の山男、どうやら坊主扱いで布教せよということらしい、そんなこと言うと坊主は皆死んだら異世界か?名前だけで和尚(おしょう)にされた山男の明日はどっちだ? 矢鱈と生物学的に細かいゴブリンの生態がウリです? 本編の方は無事完結したので、後はひたすら番外で肉付けしています。 タイトル変えてみました、 旧題異世界坊主のハーレム話 旧旧題ようこそ異世界 迷い混んだのは坊主でした 「坊主が死んだら異世界でした 仏の威光は異世界でも通用しますか? それはそうとして、ゴブリンの生態が色々エグいのですが…」 迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」 ヒロイン其の2のエリスのイメージが有る程度固まったので画像にしてみました、灯に関しては未だしっくり来ていないので・・未公開 因みに、新作も一応準備済みです、良かったら見てやって下さい。 少女は石と旅に出る https://kakuyomu.jp/works/1177354054893967766 SF風味なファンタジー、一応この異世界坊主とパラレル的にリンクします 少女は其れでも生き足掻く https://kakuyomu.jp/works/1177354054893670055 中世ヨーロッパファンタジー、独立してます

遺された日記【完】

静月 
ファンタジー
※鬱描写あり 今では昔、巨大な地響きと共に森の中にダンジョンが出現した。 人々はなんの情報もない未知の構造物に何があるのか心を踊らせ次々にダンジョンへと探索に入った。 しかし、ダンジョンの奥地に入った者はほぼ全て二度と返ってくることはなかった。 偶に生き残って帰還を果たす者もいたがその者たちは口を揃えて『ダンジョンは人が行って良いものではない』といったという。 直に人もダンジョンには近づかなくなっていって今に至る

『ラズーン』第二部

segakiyui
ファンタジー
謎を秘めた美貌の付き人アシャとともに、統合府ラズーンへのユーノの旅は続く。様々な国、様々な生き物に出逢ううち、少しずつ気持ちが開いていくのだが、アシャへの揺れる恋心は行き場をなくしたまま。一方アシャも見る見るユーノに引き寄せられていく自分に戸惑う。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

処理中です...