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4. 悩むお客様

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 今日は朝早くからお客様がいらっしゃったのですが…悪く言えば優柔不断、良く言えば慎重というのでしょうか、なかなか職業を決めていただけなくて困っております。

「え~迷う。聖女も良いし、お姫様って言うのもやっぱ女性の憧れじゃん。だけど~、女の戦士っていうのも格好良い!あ~、どうしよう。」

 朝からこれの繰り返しなんです。

 あっ、今日のお客様の紹介がまだでしたね。今日のお客様も日本人ですよ。名前は七瀬 揚羽(ななせ あげは)様。17歳の女性です。

 今回は神様に無理やり連れてこられた訳ではなく自分から神様に転生したいとお願いしたらしいです。これはご本人様から聞きました。

「スピちゃんはどの職業がお勧めなの?」

 …私の名前はスピカなのですが、なぜか七瀬様はスピちゃんと呼ぶんですよね。

「そうですね、私のお勧めは聖女様でしょうか。どの国にいっても大切にしていただけますからね。お姫様はご自分の思うように生きられませんし、戦士はずっと戦わないといけないので気も身体も休まりませんよね。」

 七瀬様は私の話を首を傾(かし)げながら聞いています。もしかして通じていませんか?

「ふ~ん。そっか~。」

 もしかして気に入りませんか?

「他にご希望がありましたら他の職業でも良いですよ。」

 七瀬様は今まで笑顔だったのですが急に表情が変化してしまいました。どうしたのでしょうか。私が言った事がお気にめさなかったのでしょうか。

「あのさ…幸せになれる職業ってあるの?」

 難しい質問がきましたね。幸せになれる職業…。

「そうですね…。幸せとは基準が非常に曖昧でわかりにくいので確実にこれです!とは言いきることはできませんが…あえて言うなら七瀬様のお好きな事を職業にされると幸せになれる確率は高くなるかもしれません。」

 案内人として曖昧な解答しか出来なくて申し訳ありません。しかし本当に難しい質問です。

「私の好きなこと…。私さ~、こんな見た目だけど料理するのが好きなんだよね。」

 それは確かに意外…いや、失礼しました。七瀬様はキラキラのつけ爪やつけ睫毛をされていて髪の色は金髪という派手なお姿なので私は勝手にお料理とかはされない人かと思っておりました。

 なるほど…スキルを見させていただくと確かにお料理のスキルが高いのが分かります。

「本当はさ~私、料理の専門学校に行きたかったんだよね。だけど親に反対されてさ…。家を飛び出して…気がついたら神様が目の前にいてさ、夢か?と思ってたらここにいたんだよね。いや、本当にビックリだよね~。」

 平然とされている様に見えましたが、戸惑われていたのですね。気がつかなくて申し訳ありません。案内人として私はまだまだですね。修行が足りません。あと何百年すれば良いのでしょうね。

「そうでしたか。では料理人とかはどうですか?」

「う~ん、ただの料理人だとな~。何て言ったらいいかな…転生した感じがなくない?」

 確かに前世にもあった職業ですね。

「あ!あれだ!飯テロを起こす転生者!しかも実は聖女みたいな。漫画でそんなの読んだ事があるわ。」

 これだ!みたいな感じで目をキラキラさせながら話していますね。これは決定かもしれませんね。

「では、"聖女だけどご飯で革命を起こす人"という職業をお望みですか?」

 一応確認をとっておかないといけませんからね。

「うん。それに決めた!」

「そうですか。少し調べてみますのでお待ちくださいね。」

 私は今、聖女を望んでいる異世界の国を調べた。

 今は以前の様にどこの国も聖女を欲しがる状態ではないからだ。異世界転生者が増えて聖女も増えたので前の様に禁忌の魔法を使い召喚することもほとんどない時代になったのですよ。

「ん~、聖女を望んでいる国は何ヵ国かありますね。ただ…美食にこだわる国となると…。あっ、ありました。今の所、争いもなく平和な国で農作物も豊かで海に近いので海産物も豊富に揃えられるみたいですよ。そこにしますか?」

「何それ!凄いいいじゃん。そこにします!」

 やっと決まりましたね。

「では場所は決定しましたね。そういえば、まだ容姿についてのご希望を聞いていませんでしたね。」

「え?!そんな事まで聞いてもらえるの?」

 前のめりですね。そんなに嬉しいのでしょうか。

「じゃあ、金髪にライトパープルの瞳の超絶美少女が良い!!」

 日本人の方は金髪に憧れがあるんですか?ほとんどの方が希望されますね。

「分かりました。今から転生する世界でも違和感はありませんのでそれで大丈夫ですよ。こんな感じで良いですか?」

 私は希望された顔を映像に写し出した。

「わぁ~!!何これ…凄い可愛いじゃん。この子になれるの…ヤバイわ。」

 七瀬様…映像を拝んでいますね。嬉しそうで何よりです。

「お名前はナナ・アデール様になります。お気持ちが整いましたら、あちらの扉から出てください。異世界に繋がっています。」

「え?もう?ヤバ…。あれを開けると転生するって事だよね?」

 さすがに緊張されているようですね。何回か大きく深呼吸をされています。

「よし!行きます。ありがとうございました。」

「はい。それではアデール様良い転生人生をお過ごしください。ご利用ありがとうございました。」

 七瀬様は私に手を振りながら扉を開けて笑顔で部屋から出て行かれました。

 今日は少し疲れました。

 今度はどんなお客様がいらっしゃるのか楽しみです。




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