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3. アフターケア

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「お久しぶりです、クロード様。」

 早いものであれから数ヶ月が経ちました。今日はクロード様が異世界転生生活にお困りではないかを調査しにクロード様のお住まいにやって参りました。運良くお庭にいらっしゃるクロード様を発見できました。

「え?あの時の綺麗なお姉さん。本当に会いに来てくれたんだ。」

 以前とは全然違うクロード様の逞しいお姿を見て私は感動しています。美しい銀髪に紫色の瞳。肌はお焼けになり褐色肌になられています。前は青白い肌でしたのに…。

 ん?今気がつきましたがクロードさん、私の事をお姉さんと呼びましたね。そう言えば私はあの時、自己紹介をしませんでしたね。私としたことが…。

「うっかりしておりました。私は異世界転生案内所の職員でスピカと申します。因みに性別はありません。」

「性別がない?男でも女でもないの?」

 クロードさんが不思議そうな顔をしていらっしゃいます。天界では珍しくありませんが人間界では珍しいようですね。

「はい。…おや?ケガをされたのですか。」

 よく見るとクロード様の右頬に5センチくらいの傷跡があるのが見えました。せっかくの美しいお顔に傷とは…。

「ああこれは大した事はないよ。魔物討伐の時に油断してケガをしてしまったんだ。」

 クロード様は、ハハッと照れたように笑っていらっしゃいます。しかし…。

「それくらいの傷なら治癒魔法で治せるのではないのですか?」

 私の知る限りではこの世界では魔法が発達していて傷なら治癒魔法でほとんど治ると思うのですが。どこかと勘違いをしているのでしょうか。

「そうなんだけどさ…。自分の戒めの為に残したんだ。」

「そうだったんですね。それは野暮なことを聞いてしまいました。申し訳ありません。」

 どうやらクロード様はこの世界で頑張っておられるみたいですね。

「頭を上げてください。え…とスピカさん。」

 早速名前を覚えて下さったのですね。

「スピカさんは、アフターケアに来たんだよね?」

「はい。人間界で言うとそんな感じですね。どうですか、異世界生活は?」

 見た感じでは楽しんでいらっしゃるみたいに見えます。

「お陰さまで楽しいです!こんなに健康で丈夫な体を頂いて、しかも鋼(はがね)のメンタルだし(笑)勇者としてこの国に貢献できて嬉しいです。」

 話をされている時のクロード様の表情からも今の生活に満足されているのが分かりますよ。良かったです。

「楽しんでいただけているようで良かったです。」

 お客様の満足されたご様子を見るのは何度見ても嬉しいものですね。

「クロード、どこにいるの~?」

 玄関の方からクロード様を呼ぶ女性の声が聞こえてきました。

「どうやら、もうひとつの望みもかなっているようですね。」

 私が笑顔で申し上げるとクロード様は照れ笑いをされています。

「いた!え?…お客様だったの。失礼しました。」

 顔を覗かせたのは水色の美しい長い髪をなびかせた女性でした。クロード様は面食いですね。

「エレーナ、どうしたんだ?」

 女性のお名前はエレーナさんとおっしゃるのですね。おや?この方は…聖女様みたいですね。勝手に見てしまいました。

 勇者と聖女…王道の組み合わせですね。

「昨日、買い物に付き合ってくれるって約束したじゃない。もしかして…忘れたの?」

 エレーナさんは、悲しそうにしていますよ。恋人との約束を忘れると大変ですよ。

「えっ、今日の事だったのか!ごめん、てっきりもう少し先かと思っていたよ。待ってて、すぐに用意するよ。」

 クロード様は慌てて家の中に入ってしまいました。庭には私とエレーナ様だけ…大丈夫でしょうか?

「あの…。貴女はクロードとはどういったお知り合いなんですか?」

 エレーナさんは、疑いの眼差しで私に質問してますね。どうやら、また女性に間違われているようですね。

「私はクロード様の昔の知り合いでスピカと言います。今日は近くまで来る用事がありましたので、久しぶりにご挨拶をしにきただけですよ。」

 なるべく当たり障りのない内容にしましたが、上出来ですよね。

「昔の知り合いですか…。」

 まだ疑われてますか?

「待たせてごめん。…どうしたの?」

 クロード様はエレーナさんと私の間に流れる微妙な空気に気がついたらご様子ですね。

「あ…そうだ、紹介していなかったね。こちらは古い知り合いのスピカさんだよ。スピカさん、彼女はエレーナと言います。え…と…冒険者仲間なんです。」

 その紹介で大丈夫なんでしょうか?エレーナさんがガッカリした顔になっていますよ。

「先ほど、ご挨拶はさせていただきましたよ。素敵な方ですね。私はてっきりクロード様の彼女かと思っておりました。」

 ここはアシストしておきましょうか。サービスですよ。

「え?!いや、その…。」

 2人はお互いの顔を見て顔を赤くした。初々しいですね~。私にもこんな時期がありましたね。もう何百年も前ですが…。

「フフッ…。どうやら私はお2人のデートのお邪魔をしていた様ですね。クロード様にもお会いできましたし、そろそろ帰りますね。」

 問題は無さそうだし、この世界に好きな人がいれば定着してくれるでしょう。

「え…、もう帰るんですか?」

 クロード様…横にいるエレーナさんのお顔を見てくださいよ。誤解されてますよ。まあ、嫉妬は恋のスパイスとも申しますから良いのかも知れませんがね。

「はい。お2人ともお幸せになって下さいね。失礼します。」

 私がクロード様に背中を向けた途端に頬を叩く鈍い音が後ろから聞こえてきましたが、振り返らずにそのまま帰りました。

 きっとあの2人なら喧嘩をした後に仲直りをして良い感じになっているでしょう。

 私もひと安心です。

 クロード様…どうか素敵な異世界転生をお楽しみくださいね。

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