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22. 消えた記憶 〈賢人視点〉
しおりを挟む菫ちゃんが病院を退院してから1か月がたったがアイツの事に関する記憶は戻っていないようだ。
このまま思い出さない方が良いのだが…。
あの時…アイツの隠れ家から助け出した時に意識を失って倒れた時はまさかこんな事になるなんて思っていなかった。
父に頼んで色んな方面の方々に協力してもらいやっと菫ちゃんの居場所の検討がついてから僕の行動は…我ながら速かったと思う。
友人の警察官に連絡をとり、事情を話して一緒についてきてもらった。
もしも何かあった時の為にね。
友人も「事件性があるね」といってすんなりオッケーしてくれたんだ。
アイツの所に着くと、やはり菫ちゃんの姿があった。僕の姿を見ると安心したのかすぐに倒れてしまったけど…。
アイツはその後、僕と警察官の友人に向かって「彼女が病院は飽きたからここから連れ出して欲しいと僕にお願いしたから連れてきたんだ。」と何食わぬ顔で言ってきた。
腸が煮えくり返るとはこう言うことを言うのかと思ったよ。
殴りたかった…。
人をこんなに殴りたいと思ったのは初めてだった。
だけど手を出したら負けだと拳を握りしめてグッと堪えた。
一緒に来てくれていた警察官の友人がアイツに「詳しい事は署の方でお聞きしても良いですか?」
と言うとアイツは抵抗もなくすんなりと警察署まで出向いた。
任意の事情聴取ということで拘束力はなかったみたいだが、僕の方で調べた色々な証拠を警察に提出しておいたから何も無かったでは済まないだろう。
その証拠にアイツは今も警察署で取り調べを受けている。今は任意ではないみたいだ。
アイツは今でも「彼女の意志で僕のところに来たんだ。」と言っているらしい。
だけど、外出届や外泊届けも出さず勝手に患者を外に連れ出したのは言い訳が出来ないよね。
僕は菫ちゃんが目を覚ましたら何て説明しようかと考えていたけど、目を覚ました菫ちゃんはいっこうにアイツについて何も聞いてこなかった。
おかしいなと思い医師に尋ねてみると「強いストレスがかかったせいで一時的に記憶が抜けているのかもしれません。いつ思い出すのか、もしかしたらこのまま思い出さないのか…我々もはっきりとは言えませんね。」と言われた。
最初は驚いたが今はこのままアイツに関する記憶は戻らない方が良いと思っている。
背中に傷を作り入院したと思ったら今度は精神的に痛め付けられ…菫ちゃんが何をしたと言うんだ。
ただ人より少し目立つ容姿をしているというだけでこんなに目に会うのならいっそ…容姿を変えた方が彼女は幸せになれるのではないかと考えてしまった。
もしかしたら彼女が趣味だと言っていた地味活動は彼女の精神的な奥底に隠されていた変身願望みたいなものだったのかもしれないな。
化粧や衣服を利用して目立たず、誰にも奇異な眼で見られること無く普通に生活をする。
…普通に生活をすることが彼女にとっては難しい事だったんだな。
僕はたとえ彼女の容姿がどんなに変わろうとも彼女を愛する気持ちに変わりはない。
彼女の幸せ…。
僕に何ができるだろうか。
できるならばこのまま不幸な記憶は思い出すこと無く、幸せな笑顔を浮かべる彼女を見ていたい。
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