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20. 記憶が…

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「ん…。」

 重たい目蓋をあけようとすると誰かが私の頬に触れているのに気がついた。目蓋は開かない。

 暖かい手だわ…。

「菫ちゃん…。もう目を覚ましても大丈夫だよ。悪い奴はいなくなったから怖くないよ…。」

 私の愛しい人の声が聞こえてきて口許が笑ってしまう。

 これは…夢?

 私は…どうしてたのかしら。

 確か…病院に入院して治療をしてもらっていたのよね。それから…。それから…?

 何かあったかしら。

 悪い奴って誰の事?

 賢人さんを切りつけようとしたあの男の人の事?

 何かを忘れているような気がするけど…思い出せないわ。頭に靄がかかっているみたいにボンヤリとかすんでしまう。

 気持ち悪い。

「あれ?菫ちゃん、顔色が悪いみたいだね。ナースコールするから待っててね。」

 頬にあてられていた賢人さんの手が離れていく。寂しい…。

 だけど、賢人さんは返答しない私の顔色を読み取って看護師さん達に知らせてくれようとしているんだわ。それなのに私…ワガママね。

「どうされましたか?」

 病室の近くにいたのか看護師さんがすぐに部屋に入ってきたみたいで、女性の声が聞こえてきた。

「急に苦しそうな顔をして…。」

「そうですか。バイタルを調べますね。」

 看護師さんは私の身体に体温計を差し込み、血圧を計っているみたいで腕が締め付けられる感覚がある。

「あれ?もしかして…。もうすぐ覚醒されるかもしれませんね。」

「え?本当ですか?!」

 賢人さんが嬉しそうなのが声だけで分かる。

「先生に連絡してすぐに診てもらいますから、少しお待ちくださいね。」

「分かりました。」

 看護師さんの気配が無くなるとすぐに賢人さんの手のぬくもりが頬に帰ってきた。安心する。

 お医者様が来れば目蓋が重いのはなくなるのかしら?…お医者。

 お医者と言葉を連想するだけで身体中に寒気が襲ってきた。ゾワゾワとして収まりそうもない。何?何がどうしたの私の身体…。

 自分の事なのにわからない。

 今まで病院に行ってこんなことを経験したことは無かった…はず。どうしてこんな感じになってしまうのかしら。

「菫ちゃん…凄い汗だ。しかも鳥肌?!えっ、何、どうしたの?!早くお医者来ないのかな。」

 どうしよう。賢人さんを困らせてしまっているみたい。だけど、汗も鳥肌も収まりそうにない。

 私の汗を賢人さんが「大丈夫だよ。」と優しく声をかけてながら拭いてくれている。

「どうしましたか?」

 また女性の声が聞こえてきた。さっきの女性の声とは違うみたいね。

「八杉医者、妻の様子が…凄い鳥肌と冷や汗をかきはじめたんです。」

「そうなんですね。」

 どうやら女性のお医者みたい。

「本当ね。凄い汗…あら?鳥肌がひいてきたわ。嫌な夢でも見ているのかしら。バイタルは良好だしね。」

 女医さんは私の身体を触り確認している様子を感じます。

「それに、そろそろ目が覚めるみたいだし旦那さんもやっと眠る事ができそうよ。」

 女医さんの声は重苦しい感じてはなく明るい感じで賢人さんを元気づけているようにも聞こえた。

「目覚めてもらえると嬉しいです。」

「少し刺激してみましょうか?」

 女医さんがそう言った後、急に眩しい光がさしてきた。何?ずっと明るい訳ではなく横に移動している。あっ、ライトをあてられているのね!

「ん…。」

 私は首を横にふった。

「菫ちゃん!菫ちゃん!!」

 賢人さんの声が近くに聞こえる。賢人さんを喜ばせたい。私は気合いを入れて重たい目蓋を開けた。

「あ、開いた!目が開いた!!菫ちゃんどこか気持ち悪い?大丈夫?」

 賢人さんが嬉しそうな、心配そうな複雑な表情をしていた。

「大丈夫ですか?」

 賢人さんの後ろに綺麗な女性の姿があった。この人が女医の八杉さんかしら?綺麗な黒髪ストレートヘアーの長身の女性でキリッとした雰囲気をしています。

 そうだ、さっきの返答しないと…。

「少し…気持ち…悪い…です。」

 掠れた声で途切れ途切れ話した。

「そうですか。どの辺りが気持ち悪いですか?」

 しばらく八杉女医とのやり取りをした後、「また何かあったらすぐに呼んでくださいね。」と言い残して八杉女医は部屋から出ていってしまいました。

 部屋には賢人さんと二人…。

 私と八杉女医がやり取りしている間は部屋の隅で椅子に座り黙って見ていてくれていた。でも部屋に誰もいなくなった途端にすぐに私の所にやってきて…今は私を抱きしめています。

「菫…良かった。…ごめんね、怖い思いをさせてしまって。…ごめん。」

 賢人さんが…泣いてる?

 顔は見ることができませんが声の感じからして泣いてるような気がします。

 怖い思い…。ナイフで切られたことを言っているのよね?あら?そういえば、切られているはずの背中がそんなに痛みませんわ。何故かしら?

「…菫ちゃん?」

 私が何も反応を示さなかったので気になったのか賢人さんが私の顔を間近で見てきました。

 あまりの顔の近さに顔が赤くなってしまいます。

 その様子を見ていた賢人さんの表情が優しい笑顔に変わりました。

「ふっ…。僕の奥さんはいつまでも可愛いね。」

 そして私の額に優しくキスをしました。

 さっきまでの気持ち悪さが嘘のように無くなってしまいました。賢人さんのキス効果恐るべし!





 

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