19 / 32
19. 来てくれた!
しおりを挟む棚澤医師が部屋に入って行く姿を扉の後ろに隠れて見ている。私はゆっくりと足音をたてないように玄関へと向かった。
ベッドから出る時に適度な膨らみを着けて掛け布団を被せたので私が中にいると思ってくれるとありがたいわ。少しでも時間稼ぎがしたいもの。
玄関までたどり着いて扉の鍵を開けようとした鍵に手を触れたら私の手の甲に重ねるように後ろから人の手が重ねられた。
「悪い子だね…。何をそんなに恥ずかしがっているのかな?」
恐怖しか感じない…。全身鳥肌だ。何かを言いたいと思うが声もでない。
「そんな姿を人前にさらすものではないよ。さぁ、部屋に帰ろう。」
私の手を鍵から離して手を繋ぐような形になった。このままだとあの部屋にまた連れて行かれてしまうわ。どうしよう…。
私は力一杯抵抗してみることにした。身体に力を入れてその場で踏ん張ってみましたが…力の差があるので敵うわけもなく…。
力を抜いたその時でした。物凄い勢いで玄関の扉を激しく叩く音が聞こえてきました。
「開けろ!菫がそこにいるんだろ!!」
…賢人さんの声。
「賢人さん!!」
私は捕まれていた手を振りほどこうとしながら大声を上げました。
「菫!菫の声だ!!おい、開けろ!!!」
私の声が賢人さんに聞こえた様で更に激しく扉を叩いて叫んでいます。
「やれやれ…困った人だね。」
棚澤医師は不気味なくらいに冷静です。私を自分に引き寄せて強く抱きしめられました。
「大人しくしてくれるかな?君を傷つけたくはないんだ。」
落ち着いた声で話しかけられます。
この人…どういう神経をしているのかしら。今のこの状況でどうしてこんなに落ち着いていられるの?
抱きしめていた手が離れて私をソファーに座らせて肩を掴んでいます。
「五月蝿いからハエは黙らせて来るよ。それまで大人しくしていてね。」
ハエ?賢人さんのこと?
何をするきかしら…。今のこと人は普通だとは思えないわ。賢人さんが危険な目に遭うかもしれない。
私は動きにくい身体に気合いを入れて玄関に向かって行く棚澤医師を追いかけた。足音をたてずに静かに…棚澤医師に気がつかれないように…。
狙うなら棚沢医師が玄関を開けた瞬間よね…。
棚澤医師の後ろから鍵を開けて扉を開ける瞬間を息を殺して待った。
ガチャン…。
今だわ!
私は勢いをつけて棚沢医師に体当たりをした。
「うわぁ!」
棚澤医師の意識は前にいる賢人さんに集中していたらしく私に体当たりをされると勢いよく扉を開けるように前のめりになった。
私はその場に倒れこんでしまった。
「菫!!」
賢人さんの声が廊下に響く。
賢人さんの顔が見たいけど…意識が保てそうにない。私は下を向いて倒れたまま愛しい人の名前を呼んだ。
「賢人さん…来てくたの…。」
嬉しい…。
0
お気に入りに追加
66
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる