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9. 賢人さんの願い (賢人視点)

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 どこで間違えたんだ。

 大切な大切な運命の人を傷つけてしまうなんて…。浮かれすぎていたんだろうか。


 実は菫ちゃんと付き合う前から僕は菫ちゃんの事をよく見ていた。地味で目立たないように振る舞っていたけど、所作がとても美しかったから印象に残っていたんだ。

 僕は自分の両親の会社を継ぐために勉強として以前いた会社に勤めていたから恋愛は両親の会社に戻るまでしないと考えていたんだけど…。

 菫ちゃんと少しずつ話す機会が増えて、その度に菫ちゃんの良い所、可愛い所とこが見えてしまって我慢ができなくなってしまったんだよね。

 あの頃も菫ちゃんを狙うライバルが沢山いて苦労したんだよな。本人は全く気がついていなかったけど(笑)

 鈍感で純粋でいつも一生懸命で…最初は狙って演じているのか?とも考えるくらいだったけど、素なんだと分かった時は神様に感謝したよ。

 こんな素敵な女性を今まで誰のものにもしないで僕と会わせてくれたことにね。

 だからそんな菫ちゃんと恋人として付き合うようになって、結婚もできて…幸せすぎて浮かれていたと人から言われても否定できない。

 もう少し僕が菫ちゃんの性格を考えて対策をきちんとしておけばこんな事にはならなかったかもしれない。

「ごめんね…菫ちゃん。」

 僕は病院のベッドに横たわる意識のない菫ちゃんの手を握りしめた。

 会社は暫く有給休暇を取って休むと伝えている。

 本当は役員として許されないかもしれないが…。

 菫ちゃんが目覚めた時に一番に目にするのは僕であってほしい。他の誰にもそれは譲れない。

「菫ちゃん…早く目を覚まして僕を見て、笑顔を見せてほしい。」

 僕は握りしめていた菫ちゃんの手を自分の頬に当て何回か頬擦りした後、柔らかくて温かいその手に優しくキスをした。

 あれ?今…目が動いた?

「菫ちゃん!」

 目を覚ましてほしいと願いを込めて名前を呼ぶが目蓋は上がらない。

 僕は菫ちゃんの額や目蓋に願いを込めてキスをする。

 まだ目覚めない…。

 もう一度手にキスをする。

「菫ちゃん、目を覚ましてくれるまでずっとキスするよ。嫌なら早く目を覚ましてよ。」

 知らない間に涙が頬をつたっていた。

 あれ?

「…まさか、顔が赤くなっている?」

 いや、これは僕の願望が見せているのか?

 菫ちゃんの頬を優しく撫でる。

「気のせい…かな。菫ちゃん…。」

 僕の涙が菫ちゃんの手に落ちた。

「菫…。」

 涙は止まらない。

 こんなに泣いたのは大人になってから初めてだな。嬉し涙なら良かったのに…。

 菫ちゃん…。

 愛しているから早く目を覚まして…。
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