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第二十七話 願い
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急速に胸が高鳴り、心臓の音が周りに聞こえているのではないかと不安になった。
「ご、ごほん」わざとらしく咳払いをする。「なにか聞こえているか?」
「なんですか?」リオがきょとんとアウレリオを見返した。「風の音?それとも、虫の飛んでる音ですか?それとも・・・」
「いや、なんでもない」
アウレリオは赤く染まった頬に気づかれないように、視線を下げた。
ぐぅー
リオの腹が盛大に抗議した。そろそろ、俺に食料をくれ、と。
「あわわ」
慌てるリオに、アウレリオがナプキンにくるまれた包みを差し出した。
「料理長に作らせた。目の前で作らせたから、大丈夫だろう」
「え・・・?」
無表情のアウレリオの前で、料理長が粗相があってはならないと青くなってパンに具材を挟んでいる様子が目に浮かぶ。
「あはっ」思わず吹き出してしまった。伯爵家のご令息が、こんな事に気を使ってくれるなんて!
「若様の分は?」
「私はいい」
「じゃあ、はんぶんこしましょう?」
リオは包みを開けるとパンを半分にちぎって、大きい方をアウレリオに渡した。
「どうぞ、おかけください」
リオがポケットから取り出したリネンの切れ端を地面に敷き、座るように勧めると、アウレリオは無言でその上に腰掛けた。断ればリオが悲しむだろうから。
はんぶんこしたお昼は三口で食べ終わってしまい、ふたりで並んでさわやかな風が吹くなか、のんびりと空色の丘をながめた。
「そういえば、おまえはいくつになったんだ?」
「えっと、たぶん7歳か8歳ぐらいだと思います」
「ぐらい、とはなんだ」
「わからないんです。それを知ってる母ちゃんは飲んだくれてばかりだったし・・・村長様のところに引き取られたとき、あと一年で7歳になるって言ってましたけど、それが正しいのかもわかりません。村長様のところには半年いました」
「・・・では、城に来たときはまだ7歳か、もしかしたら6歳だったかもしれないということか?」
「・・・はい」
「お前・・・」アウレリオが絶句した。「運が良かったな。よく生き延びた」
「はい、ありがとうございます。アウレリオ様のおかげです」
そう言われると複雑な気分だった。
この一年の間にリオは三度毒にあたった。ジョセフィーヌを脅しつけたせいか、どれも腹をくだす程度の軽い毒だったが、一度は高熱を出した。アウレリオの毒見をしている「せい」なのに。
「では、今日をお前の誕生日にしよう」
「え?」
「5月の雨が降った翌日。丘が空色に染まる日だ。それでどうだ?」
「はいっ!」リオが大きくうなずいた。「俺、産まれた日がわからないってこと、ずっと情けなく思ってたんです。みんなが誕生日だってうれしそうに話しているのも、うらやましかった!若様、なんで分かるんですか?親だって言われている人も誰一人気にかけてくれなかったのに!」
「それはひどいな」アウレリオは眉根を寄せた。「だが、私の親も似たようなものだ。だから、気にするな」
「若様・・・俺、これから毎年5月の雨が降るのを楽しみに待ちます。若様が俺に誕生日を授けてくれた日だって、そうかんがえるだけで、なんか、こう・・・ここが」リオは心臓のあたりを撫でた。「あったかくて、もぞもぞして、飛び上がりたいぐらいうれしくなるんです」
アウレリオはリオの巻き毛にそっと触れた。
「来年も、再来年もまたここに来て、お前の誕生日を祝ってやろう。今日でお前は8歳。来年は9歳の誕生日だ。来年はもっとしっかりした食事を持ってこよう」
アウレリオが片目をつぶって見せ、リオは若様にこんな表情ができるのかと目を丸くし、次の瞬間、弾けたように笑った。
**********************
帰り道は、陽が傾き、少し寒いくらいだった。
アウレリオはリオを行きよりもしっかりと抱き寄せた。
背に触れる体温と、心臓の音が大きくて、自分のものなのかアウレリオのものなのかわからない。
ただ、お腹や心臓の奥から経験したことのない甘い疼きが広がり、くすぐったい気持ちを抱えたまま、アウレリオに背中を預けた。
「リオ」アウレリオが耳元でささやき、リオを体ごとぎゅっと抱きしめた。「・・・死ぬな」
震える声に胸が締めつけられる。
涙をこらえるため、目をおおきく開き、唇を噛んだ。
「・・・はい」
「私の許しも得ずに死んではならん。いいか、絶対だ」
「はい」
リオはアウレリオが手綱を掴む手にそっと小さな手を重ねた。
ひんやりとした、でもやさしい手。
胸が一杯になり、涙がこぼれそうだ。
「ずっと、おそばにおります。いさせてください」
「・・・ん・・・」
アウレリオがリオの頭の上に自分の顎をのせた。
(ああ、ずっと、このままでいられたらいいのに)
空は紫とオレンジ色に染まり、今日の日との別れを惜しんでいた。
まるで、リオとアウレリオのように。
*******************
(お礼)
お読みいただきまして、ありがとうございました!
ここまでで第一部終了です。
章立てをしていないんですけど、どうしましょう。
あとで一時掲載停止にして修正するかもしれません。
第二部では、時がたちふたりは大人になっています。待ちに待ったラブ展開がようやく・・・♡
それで、このあと整理のため、2日ほどお休みをいただきます。
がんばって準備を進めてまいりますので、今後もよろしくお願いします。
そして、ハートを送ってくださった方、広告を回してくださった方、とても感謝しています。
2日後まで転んだり、風邪を引いたりしないように事前に祈っておきますので、またお会いしましょう(^_-)-☆♡
「ご、ごほん」わざとらしく咳払いをする。「なにか聞こえているか?」
「なんですか?」リオがきょとんとアウレリオを見返した。「風の音?それとも、虫の飛んでる音ですか?それとも・・・」
「いや、なんでもない」
アウレリオは赤く染まった頬に気づかれないように、視線を下げた。
ぐぅー
リオの腹が盛大に抗議した。そろそろ、俺に食料をくれ、と。
「あわわ」
慌てるリオに、アウレリオがナプキンにくるまれた包みを差し出した。
「料理長に作らせた。目の前で作らせたから、大丈夫だろう」
「え・・・?」
無表情のアウレリオの前で、料理長が粗相があってはならないと青くなってパンに具材を挟んでいる様子が目に浮かぶ。
「あはっ」思わず吹き出してしまった。伯爵家のご令息が、こんな事に気を使ってくれるなんて!
「若様の分は?」
「私はいい」
「じゃあ、はんぶんこしましょう?」
リオは包みを開けるとパンを半分にちぎって、大きい方をアウレリオに渡した。
「どうぞ、おかけください」
リオがポケットから取り出したリネンの切れ端を地面に敷き、座るように勧めると、アウレリオは無言でその上に腰掛けた。断ればリオが悲しむだろうから。
はんぶんこしたお昼は三口で食べ終わってしまい、ふたりで並んでさわやかな風が吹くなか、のんびりと空色の丘をながめた。
「そういえば、おまえはいくつになったんだ?」
「えっと、たぶん7歳か8歳ぐらいだと思います」
「ぐらい、とはなんだ」
「わからないんです。それを知ってる母ちゃんは飲んだくれてばかりだったし・・・村長様のところに引き取られたとき、あと一年で7歳になるって言ってましたけど、それが正しいのかもわかりません。村長様のところには半年いました」
「・・・では、城に来たときはまだ7歳か、もしかしたら6歳だったかもしれないということか?」
「・・・はい」
「お前・・・」アウレリオが絶句した。「運が良かったな。よく生き延びた」
「はい、ありがとうございます。アウレリオ様のおかげです」
そう言われると複雑な気分だった。
この一年の間にリオは三度毒にあたった。ジョセフィーヌを脅しつけたせいか、どれも腹をくだす程度の軽い毒だったが、一度は高熱を出した。アウレリオの毒見をしている「せい」なのに。
「では、今日をお前の誕生日にしよう」
「え?」
「5月の雨が降った翌日。丘が空色に染まる日だ。それでどうだ?」
「はいっ!」リオが大きくうなずいた。「俺、産まれた日がわからないってこと、ずっと情けなく思ってたんです。みんなが誕生日だってうれしそうに話しているのも、うらやましかった!若様、なんで分かるんですか?親だって言われている人も誰一人気にかけてくれなかったのに!」
「それはひどいな」アウレリオは眉根を寄せた。「だが、私の親も似たようなものだ。だから、気にするな」
「若様・・・俺、これから毎年5月の雨が降るのを楽しみに待ちます。若様が俺に誕生日を授けてくれた日だって、そうかんがえるだけで、なんか、こう・・・ここが」リオは心臓のあたりを撫でた。「あったかくて、もぞもぞして、飛び上がりたいぐらいうれしくなるんです」
アウレリオはリオの巻き毛にそっと触れた。
「来年も、再来年もまたここに来て、お前の誕生日を祝ってやろう。今日でお前は8歳。来年は9歳の誕生日だ。来年はもっとしっかりした食事を持ってこよう」
アウレリオが片目をつぶって見せ、リオは若様にこんな表情ができるのかと目を丸くし、次の瞬間、弾けたように笑った。
**********************
帰り道は、陽が傾き、少し寒いくらいだった。
アウレリオはリオを行きよりもしっかりと抱き寄せた。
背に触れる体温と、心臓の音が大きくて、自分のものなのかアウレリオのものなのかわからない。
ただ、お腹や心臓の奥から経験したことのない甘い疼きが広がり、くすぐったい気持ちを抱えたまま、アウレリオに背中を預けた。
「リオ」アウレリオが耳元でささやき、リオを体ごとぎゅっと抱きしめた。「・・・死ぬな」
震える声に胸が締めつけられる。
涙をこらえるため、目をおおきく開き、唇を噛んだ。
「・・・はい」
「私の許しも得ずに死んではならん。いいか、絶対だ」
「はい」
リオはアウレリオが手綱を掴む手にそっと小さな手を重ねた。
ひんやりとした、でもやさしい手。
胸が一杯になり、涙がこぼれそうだ。
「ずっと、おそばにおります。いさせてください」
「・・・ん・・・」
アウレリオがリオの頭の上に自分の顎をのせた。
(ああ、ずっと、このままでいられたらいいのに)
空は紫とオレンジ色に染まり、今日の日との別れを惜しんでいた。
まるで、リオとアウレリオのように。
*******************
(お礼)
お読みいただきまして、ありがとうございました!
ここまでで第一部終了です。
章立てをしていないんですけど、どうしましょう。
あとで一時掲載停止にして修正するかもしれません。
第二部では、時がたちふたりは大人になっています。待ちに待ったラブ展開がようやく・・・♡
それで、このあと整理のため、2日ほどお休みをいただきます。
がんばって準備を進めてまいりますので、今後もよろしくお願いします。
そして、ハートを送ってくださった方、広告を回してくださった方、とても感謝しています。
2日後まで転んだり、風邪を引いたりしないように事前に祈っておきますので、またお会いしましょう(^_-)-☆♡
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