5月の雨の、その先に

藍音

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第二十四話 ゆきだるま

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※昨日、書けなかった分です。
 しおりを挟んでくださった方もいらっしゃるので、分かりづらくならないように、別の回として掲載します。


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「おはようございます」

まぶたに朝日を感じ、目を覚ますと、リオがカップに入った湯を差し出してきた。
一口飲むといつもと味がちがう。

「・・・?」

アウレリオの視線の意味を敏感に感じ取ったリオがうれしそうに笑った。

「えへへ。いつもとちがう味がしますか?」

アウレリオが無言でうなずくと、リオは「ちょっとお待ちください」と、扉のそばに走り、自分のカップを差し出した。その中にはちいさな雪のかたまりとたんぽぽ。

「ゆうべから朝にかけて、遅い雪が降ったんですよ!で、井戸がカチカチだったんで、雪を溶かしてみました!もちろん、しっかりと毒見はしましたから」
「へえ・・・雪」どおりでいつもとちがう味がするわけだ。井戸の水よりもまろやかな味で、これはこれで悪くない。「で、それは何だ?」

ぶかっこうな雪のかたまりには、何故か顔らしきものがついている。

「えへっ」リオの顔に満面の笑みが広がった。「これは、ゆきだるまです!平民の子どもは雪がふると雪をまるめて、ゆきだるまをつくって遊ぶんですよ!もしかしたら、若様はご存じないかと思って」
「ほう・・・ゆきだるま」

なにが楽しいのかわからないが、リオが心の底から楽しそうに笑う姿を見ると、アウレリオも胸の底で何かが動くのを感じた。

「でも、すぐに溶けちゃうんです。それがちょっとさみしくて」
「・・・」

その時のことは自分でも説明がつかない。未来の自分に、なぜそのようなことをしたと聞かれても、アウレリオには答えることができないだろう。
ただ、リオのうれしそうな顔と、さみしそうな表情がこころのどこかに触れた、としか。
アウレリオの空色の瞳に金色が少しずつまじり始めた。

「若様・・・目が・・・」

アウレリオが黙っているように目で伝えると、リオはギュッと口をつぐんだ。

瞳の色はどんどん金色に染まり、とうとう金一色に変わった。
同時に、雪だるまにつけた小枝の手足がぐんと伸び、リオの手の中のカップから飛び降りると、床の上で踊りだした。

「うわっ!すごい・・・」

思わずリオもゆきだるまと一緒に踊りだす。

「うわ!すごい、すごい!若様すごい!」

アウレリオがニヤッと笑うと、カップに残っていた湯が雪の結晶に変わる。一緒に持ってきたたんぽぽの花びらといっしょに宙を舞い始めた。
朝日を浴びて雪の結晶とたんぽぽの花びらが部屋の中をくるくる回っている。

「うわあ、うわあ!」

リオがキャッキャと笑い、榛色の瞳を輝かせた。

トントン

ノックの音とともに、結晶とたんぽぽの花びらは力をなくし、ゆかに落ちた。

「朝の湯をお持ちしました」

声とともに侍従が入ってくると同時に結晶は蒸発し、花びらは一つにまとまり、ベッドの下に吸い込まれた。
アウレリオの瞳はいつもの空色にすっと変わり、何事もなかったようにベッドから降りた。
目を白黒させるリオの手元のカップの中には、不格好なゆきだるまがもとに戻っている。

「誰にも言うなよ」

そっと耳元でささやかれなければ、今起こったことは全部夢だったと思ったかもしれない。



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お読みいただきまして、ありがとうございました。今日は夜にもう一話掲載予定です!
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