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12 グレッグとゆでダコ

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壁を叩かれて、グレッグも少し冷静になったみたい。
しっと口に指を当てて、静かに、のサインをする。

「俺には、恋人はいない。」グレッグがムッとしたように言う。

「それにエラを誘う気もない。まあ、仮にだ、仮に俺がエラを誘ったとしても、エラはついて来ないと思うぞ」

そうかなあ?私だったら、グレッグに誘われたらついて行っちゃうけどなあ。
優しいし、カッコいいし、美味しいものご馳走してくれそうだし。
あ、そういえば路地裏の新作ジュース飲めなかったんだよね?
もしかして、誘ったら、一緒に行ってくれるのかな‥‥‥ドキドキ

「それからな、エラが万一俺の誘いに乗ったとして、だ。あくまでも、仮にだぞ。その時は、必死になって止める奴がいると思うぞ」

え、それってお父さん?それともお兄ちゃんたち?あ、もしかして私?

グレッグはゴホンと咳払いした。

「まあとにかくだな、エラのことは心配いらないってことだ。えー、それでだな。俺は今23になって、クラリスよりも10歳近くも年上なわけだが。クラリスは、あー、そのー、何だ。えーっと、その、あと3ヶ月で成人するのか?」
「うん」
「あー、その、えー、恋人とかはいるのか?」
「恋人?」
「いやその、恋人というか、好きな人、というか」

ドキッと心臓が音をたて、口から飛び出してゴロゴロと床を転がっていく‥‥‥ところだった。
危ない、危ない。

グレッグが立ち上がってベッドに座る私の前に膝を付き、私の手を握った。

「俺はさ、クラリス。ずっと待ってた子がいるんだよ」
藍色の瞳と目が合うと、吸い込まれそうになった。

「初めて会った時はまだ、子どもだったから、ずっと見守って待ってたんだ。なるべく、ここに来られるように仕事を志願してさ。毎年綺麗になって眩しくなっていく姿を見守っていた子がいるんだ。大切に思っていたから、ずっと、大きくなるのを楽しみにしていたんだけど、その子が自分のことをもう大人だっていうんだけど、どう思う?」

え、それって、私のこと?もしかして、もしかするとお姉ちゃん?

私の頭は混乱してぐるぐる回りっぱなし。

「クラリス?」
「わ‥‥‥わかんにゃい」呂律が回らない。「わかんにゃいもん」

「クラリス‥‥‥、俺のこと、好き?っていうか、好きになってくれそうな可能性ある?」

私の心臓はズンドコズンドコ大きな音を立てて、部屋中をゴムボールみたいに跳ね回っている。
グレッグも私もゆでダコみたい。ズンドコズンドコゆでダコがゴムボールに変身して部屋中を暴れまわっている。

「す、好きとか、よく分からないんだもん~~~」

プシューッつと私の頭から蒸気が吹き出した。まるで蒸気機関車のようにドッドッドと私の心臓が勢いよく耳から飛び出して走り出した!

「そ、それにもう、心臓病か気鬱の病で死んじゃうかもしれない~もう、もう、部屋に帰りたいよ~~~!!!」

私は目を回して倒れてしまった。


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