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52 【番外編3】お久しぶりの再会 5
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レイモンドはぐるぐる目を回してごろりと床に転がっている。
なんか、気の毒な感じ?多分ほとんど事故案件だったよな、さっきのは。
いや、クラウスすごいなお前。
ちょっとでも下心持つとあんな勢いで弾き飛ばすんだなあ。俺も気をつけないと。
「そこで伸びてますから好きに持ち帰ってください」
クラウスの声は超冷たい。
でも、リーランド先生は気にもとめずに、「よっ」と小さな掛け声とともにレイモンドの体をずた袋のように担ぎ上げた。
「たまには鍛錬に来いよ」
「はい。僕も最近は鈍りがちなので是非」
「じゃあな」
リーランド先生はニカッと笑い、そのまま帰っていった。
なんか、大物だな。あの人。しかも慣れてる?
俺がぽかんとクラウスの顔を見ると、クラウスは俺の視線を避けるようにしながら「いや、その、しょっちゅう兄上が脱走して先生が探しにきていたもんですから」ともごもご言っていた。
「う、馬ですよ?」
「馬?」
「馬で探しにきていたんです。徒歩じゃありません」
「そんなこと聞いてないけど」
そういえば。
「お前、突然帰ってきたな。まさか、転移術使ったのか?」
「えっ?だって緊急事態だったから・・・」
「約束したよな?」
「うっ」
「人前では魔法は使わないって。見られたらどうするんだよ」
「だ、大丈夫です。とりあえず、人がいないことは確認しましたから!」
怪しい。怪しすぎる。
「ちょっと影になっている廊下の端から転移したので、大丈夫ですよ。誰にも見られてませんから・・・」
「その端とやらまではどうやって行ったんだ?」
「そりゃ当然走って・・・」
「それ、絶対見られてるからな!!王子が廊下爆走して物陰から消えたら今頃大騒ぎだよ!早く戻れよ、もう!」
「だって、あなたが心配で・・・」
「結界張ってあるから大丈夫だろ!」
「いつ破られるか・・・」
「は・や・く・い・け!」
今度は俺がクラウスの尻を蹴飛ばすほどの勢いで怒鳴りつけると、クラウスは大慌てで戻って行った。
それで、転移術使ったらまた、バレるだろーが!!
ったくもう。
その日の夜。
仕事から帰ってきたクラウスが俺の背中をマッサージしながらブツブツ文句を言っている。
「本当に油断も隙もないんだから。もうあなたは僕のものなのに。諦めが悪いったら」
「んー、そこそこ」
「はいはい」
クラウスは文句を言いながらも、一生懸命俺の背中を押してくれている。
あー、気持ちいい。ついでに腕もお願い。
俺が腕を伸ばすとすかさずマッサージ場所が腕に移る。
「全く。なんで兄上が離宮に入れたのか、どれだけ考えてもわからないんですよ。帰ってきてからもう一度術式を確認したけど、間違いなく兄上のことは弾けるはずだったんです」
「それなんだけどさあ、ん、そこはもうちょっと強く」
「ここですか?」クラウスが俺の二の腕の後ろを揉んでくれる。
「ここの結界さあ、俺に下心がなければ効かないんじゃないのか」
「そりゃそうですよ。だって、完全に結界を張ったら、使用人だって入れないし、食料品の配達一つできませんからね?むしろあなたが困るでしょ?それにしても、父上の時は完全に効力を発揮したのに、なんでダメだったんだろう」
「いや?多分効果は十分に発揮してたと思うぞ?」
「え?」
「レイモンド恋人ができたんだって」
「は?」
「その相手のこと本当に好きみたい。よかったじゃん。さっきはちょっとだけ気の迷いっていうか、まあ、元婚約者だから、ちょっとぐらいは心がぐらつくことだってあるんじゃないか?」
「は?そんなことあるんですか?兄上に?ルーリク、本気で言ってるんですか?」
「俺のことじゃないよ。バカだな」
クラウスの目は不安と怒りが混じりあったような複雑な表情になっている。
「お前さあ。こんなに俺がお前のものになってるのにまだ不安なの?」
「うう、だって。それは・・・」
「俺はお前を愛してるし、お前だって俺のこと愛してるだろ」
「も、もちろんです!」
「じゃあ、何も心配することないだろ?」
「それはそうです。でも、やっぱり過去のトラウマみたいなもんなのかな・・・特に兄上には一度あなたを取られてますし」
「んー。でも、俺レイモンドに気持ちを持って行かれたこと一度もないって知ってるだろ?まだ不安なのか?」
「不安というよりも、心配が尽きないって感じですかね」
「心配するなよ」
俺は振り返るとクラウスのおでこに俺のおでこをくっつけた。
「愛してるよ、クラウス。今日、エッチしちゃう?」
「えっ?妊娠中なのに?」
「ふっふーん。今日、お前たちがいなくなってから、お医者さんに来てもらったんだ。あんまり激しくしなければいいですよって、オッケーもらっちゃった」
次の瞬間。
俺の体は寝室のベッドの上にふわりと降ろされた。
あはは、やっぱわかりやすい。だからクラウスが可愛くてたまらないんだよな。
***************************************************
BL大賞参加記念の番外編でした。ありがとうございました!
本当は、後1~2話続きます。
更新できるはずだったんですけど、ちょっと身辺で大事件が起きてしまいまして、追加まで少しだけお時間をいただきます。
よろしければ、その時にまた読んでいただけたら、嬉しいです。
またお会いできた方、そして初めましての方、読んでいただいた全ての方に、心から感謝しています。
皆様に、幸せが訪れますように。
藍音 拝
なんか、気の毒な感じ?多分ほとんど事故案件だったよな、さっきのは。
いや、クラウスすごいなお前。
ちょっとでも下心持つとあんな勢いで弾き飛ばすんだなあ。俺も気をつけないと。
「そこで伸びてますから好きに持ち帰ってください」
クラウスの声は超冷たい。
でも、リーランド先生は気にもとめずに、「よっ」と小さな掛け声とともにレイモンドの体をずた袋のように担ぎ上げた。
「たまには鍛錬に来いよ」
「はい。僕も最近は鈍りがちなので是非」
「じゃあな」
リーランド先生はニカッと笑い、そのまま帰っていった。
なんか、大物だな。あの人。しかも慣れてる?
俺がぽかんとクラウスの顔を見ると、クラウスは俺の視線を避けるようにしながら「いや、その、しょっちゅう兄上が脱走して先生が探しにきていたもんですから」ともごもご言っていた。
「う、馬ですよ?」
「馬?」
「馬で探しにきていたんです。徒歩じゃありません」
「そんなこと聞いてないけど」
そういえば。
「お前、突然帰ってきたな。まさか、転移術使ったのか?」
「えっ?だって緊急事態だったから・・・」
「約束したよな?」
「うっ」
「人前では魔法は使わないって。見られたらどうするんだよ」
「だ、大丈夫です。とりあえず、人がいないことは確認しましたから!」
怪しい。怪しすぎる。
「ちょっと影になっている廊下の端から転移したので、大丈夫ですよ。誰にも見られてませんから・・・」
「その端とやらまではどうやって行ったんだ?」
「そりゃ当然走って・・・」
「それ、絶対見られてるからな!!王子が廊下爆走して物陰から消えたら今頃大騒ぎだよ!早く戻れよ、もう!」
「だって、あなたが心配で・・・」
「結界張ってあるから大丈夫だろ!」
「いつ破られるか・・・」
「は・や・く・い・け!」
今度は俺がクラウスの尻を蹴飛ばすほどの勢いで怒鳴りつけると、クラウスは大慌てで戻って行った。
それで、転移術使ったらまた、バレるだろーが!!
ったくもう。
その日の夜。
仕事から帰ってきたクラウスが俺の背中をマッサージしながらブツブツ文句を言っている。
「本当に油断も隙もないんだから。もうあなたは僕のものなのに。諦めが悪いったら」
「んー、そこそこ」
「はいはい」
クラウスは文句を言いながらも、一生懸命俺の背中を押してくれている。
あー、気持ちいい。ついでに腕もお願い。
俺が腕を伸ばすとすかさずマッサージ場所が腕に移る。
「全く。なんで兄上が離宮に入れたのか、どれだけ考えてもわからないんですよ。帰ってきてからもう一度術式を確認したけど、間違いなく兄上のことは弾けるはずだったんです」
「それなんだけどさあ、ん、そこはもうちょっと強く」
「ここですか?」クラウスが俺の二の腕の後ろを揉んでくれる。
「ここの結界さあ、俺に下心がなければ効かないんじゃないのか」
「そりゃそうですよ。だって、完全に結界を張ったら、使用人だって入れないし、食料品の配達一つできませんからね?むしろあなたが困るでしょ?それにしても、父上の時は完全に効力を発揮したのに、なんでダメだったんだろう」
「いや?多分効果は十分に発揮してたと思うぞ?」
「え?」
「レイモンド恋人ができたんだって」
「は?」
「その相手のこと本当に好きみたい。よかったじゃん。さっきはちょっとだけ気の迷いっていうか、まあ、元婚約者だから、ちょっとぐらいは心がぐらつくことだってあるんじゃないか?」
「は?そんなことあるんですか?兄上に?ルーリク、本気で言ってるんですか?」
「俺のことじゃないよ。バカだな」
クラウスの目は不安と怒りが混じりあったような複雑な表情になっている。
「お前さあ。こんなに俺がお前のものになってるのにまだ不安なの?」
「うう、だって。それは・・・」
「俺はお前を愛してるし、お前だって俺のこと愛してるだろ」
「も、もちろんです!」
「じゃあ、何も心配することないだろ?」
「それはそうです。でも、やっぱり過去のトラウマみたいなもんなのかな・・・特に兄上には一度あなたを取られてますし」
「んー。でも、俺レイモンドに気持ちを持って行かれたこと一度もないって知ってるだろ?まだ不安なのか?」
「不安というよりも、心配が尽きないって感じですかね」
「心配するなよ」
俺は振り返るとクラウスのおでこに俺のおでこをくっつけた。
「愛してるよ、クラウス。今日、エッチしちゃう?」
「えっ?妊娠中なのに?」
「ふっふーん。今日、お前たちがいなくなってから、お医者さんに来てもらったんだ。あんまり激しくしなければいいですよって、オッケーもらっちゃった」
次の瞬間。
俺の体は寝室のベッドの上にふわりと降ろされた。
あはは、やっぱわかりやすい。だからクラウスが可愛くてたまらないんだよな。
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BL大賞参加記念の番外編でした。ありがとうございました!
本当は、後1~2話続きます。
更新できるはずだったんですけど、ちょっと身辺で大事件が起きてしまいまして、追加まで少しだけお時間をいただきます。
よろしければ、その時にまた読んでいただけたら、嬉しいです。
またお会いできた方、そして初めましての方、読んでいただいた全ての方に、心から感謝しています。
皆様に、幸せが訪れますように。
藍音 拝
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お読みいただきましてありがとうございました。
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面白くて一日で読み終わらせてしまいました
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返信できておらず、失礼いたしました。
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