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21 そしてまたケンカする。
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ベッドの上で2人並んで幸せに朝食を食べた後。
俺はクラウスにのし掛かられ、責め立てられていた。
いや、別にエッチな意味じゃないぞ。クラウスは青筋立てて怒ってるし、俺、今ピンチ。
「もう一回、言ってください」
「え?俺これから領地に戻って起業するんだけど」
「はあ?あんた、孕み腹のくせに何言ってんすか。自分の立場わかってないのかよ」
一般的に孕み腹は産んだ子が繁栄をもたらす存在として狙われやすい。
身体も細いし、筋肉も付きにくく自衛も難しい。
大抵は一族の中に囲われてしまい、存在すら秘匿されることが多いんだ。
まあ、うちはもともと国王陛下が母さまの産んだ子をずっとチェックしてたとか、目立つ公爵家だったりとか、ぶっちゃけ俺の見た目からしても純粋な男としてはちょっと‥‥‥くそっ、繊細すぎるっていう理由でばれちゃってたんだよ。
クラウスのいうことはまあ、世間一般でいえばごもっとも。
だけどなあ、俺だってずっと勉強勉強で限られた世界で閉じ込められていたんだし、外の世界を知りたいとか思うじゃん?
「だって、俺、婚約破棄されて起業するのがずっと夢だったんだもん」
「何言ってんだよ、本当に」
「えぇーー?」
「絶っっ対にだめ。あんたはこれから僕と婚姻するんですからね。婚約なんてまどろっこしいことはしません。」
「何勝手に決めてんだよ!!俺婚姻するなんて言ってないぞ。そもそも、好きだなんて言ってない!」
クラウスの表情が消えた。やべ、言い過ぎたか?
「あ、そう。ふうん‥‥‥」
「そ、それに、なんか手枷とかされてたし?ちょっと無理やりっぽかったかな~~?なぁんて‥‥‥」
「‥‥‥」
いや、ちょっと空気を和ませようとだな、お前SM趣味なのかよ~~んなわけないでしょ的なやりとりを期待していたわけよ。
でも、なんか、なんだか、失敗しちゃった感じ?
ここは、とりあえず‥‥‥話を逸らすべき?
「いや、あの、その、あの手枷なんだよ?なんか魔法みたいだったな?」
「それが何か?」
クラウスはベッドから立ち上がると、窓に向かい、しばらく立ち尽くしていた。
さっきまで甘い空気が漂っていた部屋は、すっかり冷え切ってしまったようだ。
俺は、その後ろ姿を追いかけようとして立ち上がったけど、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。
それ以上近寄っていいのか、それともこのままここにいた方がいいのか、誰も答えを教えてくれない。
クラウスは静かに振り返り、俺の顔を見つめた。
その顔には、怒りも悲しみもない。
言葉を発することもない。
まるで永遠のように思えるほどの時間が経った。
でも、それは、もしかしたら、ほんの数分のことだったのかもしれない。
クラウスのグレーの瞳が怪しい光を放ち始めた。
見たことのない光。
普通の、人間の、瞳の光ではない。
光が揺らぐ。
まさか、本当に魔法?え、だって、魔法って‥‥‥今は失われてるよな?
魔石だけ残っていて一部の魔導具として使われてるけど、魔法使い的なものってもうこの世にいないんじゃなかったけ?
「どれだけ言っても、あなたは僕に答えを返してくれない。僕だって、言って欲しい言葉はあるんですよ。いくら分かっていてもね。」
クラウスがいつもよりも低く呻くような声で言い放った。
表情も声色もすごく冷たい。
なのに、なぜこんなに、クラウスを傷つけてしまったような気がするんだろう。
どうして、言ってはいけないことを言ってしまったような気がするんだろう。
「どうしたら、分かってくれるの?あなたは僕の人なのに‥‥‥」
クラウスが口の中で何かを呟き始めた。
さっきまで怪しい光を放っていた瞳は虚ろになり‥‥‥そして俺を映さなくなった。
突然、バン!!!という大きな音が弾けるように部屋の中に響き渡る。
同時に、部屋いっぱいに紫色の何かがブワッと舞い上がった。
「え、何これ?」
俺はその紫色の何かを手に取ってみた。
え、これって!!!
それは、俺の宝物。
俺が8歳の頃から10年もの長きにわたりクラウスからもらい続けた紫色の小さな花たちだった。
_______________________________________________________
お読みいただきまして、ありがとうございました。
楽しんでいただけたら、嬉しいです。
俺はクラウスにのし掛かられ、責め立てられていた。
いや、別にエッチな意味じゃないぞ。クラウスは青筋立てて怒ってるし、俺、今ピンチ。
「もう一回、言ってください」
「え?俺これから領地に戻って起業するんだけど」
「はあ?あんた、孕み腹のくせに何言ってんすか。自分の立場わかってないのかよ」
一般的に孕み腹は産んだ子が繁栄をもたらす存在として狙われやすい。
身体も細いし、筋肉も付きにくく自衛も難しい。
大抵は一族の中に囲われてしまい、存在すら秘匿されることが多いんだ。
まあ、うちはもともと国王陛下が母さまの産んだ子をずっとチェックしてたとか、目立つ公爵家だったりとか、ぶっちゃけ俺の見た目からしても純粋な男としてはちょっと‥‥‥くそっ、繊細すぎるっていう理由でばれちゃってたんだよ。
クラウスのいうことはまあ、世間一般でいえばごもっとも。
だけどなあ、俺だってずっと勉強勉強で限られた世界で閉じ込められていたんだし、外の世界を知りたいとか思うじゃん?
「だって、俺、婚約破棄されて起業するのがずっと夢だったんだもん」
「何言ってんだよ、本当に」
「えぇーー?」
「絶っっ対にだめ。あんたはこれから僕と婚姻するんですからね。婚約なんてまどろっこしいことはしません。」
「何勝手に決めてんだよ!!俺婚姻するなんて言ってないぞ。そもそも、好きだなんて言ってない!」
クラウスの表情が消えた。やべ、言い過ぎたか?
「あ、そう。ふうん‥‥‥」
「そ、それに、なんか手枷とかされてたし?ちょっと無理やりっぽかったかな~~?なぁんて‥‥‥」
「‥‥‥」
いや、ちょっと空気を和ませようとだな、お前SM趣味なのかよ~~んなわけないでしょ的なやりとりを期待していたわけよ。
でも、なんか、なんだか、失敗しちゃった感じ?
ここは、とりあえず‥‥‥話を逸らすべき?
「いや、あの、その、あの手枷なんだよ?なんか魔法みたいだったな?」
「それが何か?」
クラウスはベッドから立ち上がると、窓に向かい、しばらく立ち尽くしていた。
さっきまで甘い空気が漂っていた部屋は、すっかり冷え切ってしまったようだ。
俺は、その後ろ姿を追いかけようとして立ち上がったけど、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。
それ以上近寄っていいのか、それともこのままここにいた方がいいのか、誰も答えを教えてくれない。
クラウスは静かに振り返り、俺の顔を見つめた。
その顔には、怒りも悲しみもない。
言葉を発することもない。
まるで永遠のように思えるほどの時間が経った。
でも、それは、もしかしたら、ほんの数分のことだったのかもしれない。
クラウスのグレーの瞳が怪しい光を放ち始めた。
見たことのない光。
普通の、人間の、瞳の光ではない。
光が揺らぐ。
まさか、本当に魔法?え、だって、魔法って‥‥‥今は失われてるよな?
魔石だけ残っていて一部の魔導具として使われてるけど、魔法使い的なものってもうこの世にいないんじゃなかったけ?
「どれだけ言っても、あなたは僕に答えを返してくれない。僕だって、言って欲しい言葉はあるんですよ。いくら分かっていてもね。」
クラウスがいつもよりも低く呻くような声で言い放った。
表情も声色もすごく冷たい。
なのに、なぜこんなに、クラウスを傷つけてしまったような気がするんだろう。
どうして、言ってはいけないことを言ってしまったような気がするんだろう。
「どうしたら、分かってくれるの?あなたは僕の人なのに‥‥‥」
クラウスが口の中で何かを呟き始めた。
さっきまで怪しい光を放っていた瞳は虚ろになり‥‥‥そして俺を映さなくなった。
突然、バン!!!という大きな音が弾けるように部屋の中に響き渡る。
同時に、部屋いっぱいに紫色の何かがブワッと舞い上がった。
「え、何これ?」
俺はその紫色の何かを手に取ってみた。
え、これって!!!
それは、俺の宝物。
俺が8歳の頃から10年もの長きにわたりクラウスからもらい続けた紫色の小さな花たちだった。
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お読みいただきまして、ありがとうございました。
楽しんでいただけたら、嬉しいです。
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