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21 階段

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背中からは、先生の奇妙な笑い声が追いかけてきた。
おかしくてたまらないとでも言うようにでも、のどの奥にひっかっかっているような声。
そういえば、あの先生は廊下で会うと、いつもいやな気分になった。
あんないじわるなひとだったんだ。

ここから出られたら、いいふらしてやる!と思って自分を奮い立たせようとしたけれけど、とにかく出られるのならもうどうでもよかった。

階段を駆け下りてはっと気がつく。
いま、階段長くなかった?いつもより。
一段・・・多くなかった?
え?
振り返って階段を数えると、12段のはずの階段は13段になっていた。
うそっ・・・!!驚きとともに、背筋に戦慄が走った。

「音楽室の前の階段が夜中になると増えるんだって」

誰かの声が頭の中を響く。

(うそ・・・うそだよ。そんなはずない)

でも、もう誰よりもわかっている。これは、実際に起こっていることだって。
いや、でも夢かもしれない。長すぎるけど、家の布団の中でのんびりと夢をみているんじゃない?本当は。
私は左の手の甲を右手の親指と人差し指でつまんでひねり上げた。

(いたっ)

手の甲はしっかりと痛みを主張して、ここは夢の中じゃないって訴えた。
知ってた。
だって、自分の呼吸の音だけがひびく耳に痛いほどの静けさも、夜の風やにおい、足元の少しきゅうくつなうわぐつも。圧倒的なリアルさで私にこれが現実だって伝えてくる。現実離れしてるけど、間違いなく現実なんだって。

私は階段のしたで途方にくれ、立ちすくんだ。
どうしたらいいの?
先生は味方になってくれない。しかも、七不思議がリアルで起こっている。
二宮金次郎、家庭科室、音楽室、階段。
もしかしたら昼の放送も七不思議の一つだったんだろうか。
たぶんそう。
それに、鏡の中に吸い込まれたし、何よりもあの不気味な体育倉庫。
・・・もしかして、七不思議の全てを体験しちゃったの?
ぞくり。

「七不思議を全部知ったら死んじゃうんだよ!」

そう叫んだカズコちゃんは、屋上から飛び降りた。
じゃあ、全部体験しちゃった私はどうなるの?
ぞぞぞぞぞぞーーーーーーっ。
背中を特大級のぞわぞわが走り抜けた。

「こ、ここから出なきゃ。とにかく、にげないと」

目の前がめまいのようにぐるぐると回り出した。
のどがつまり、息が苦しくなってきた。
ここにいちゃいけない。
とにかく、にげないと。

(く、くつ・・・!!!)

私は、自分の靴がある昇降口に向かって走った。
頭がおかしくなっていたのかもしれない。
でも、靴をはかなきゃいけないととにかく必死だった。

「きゃはは」

場違いなほどの楽しそうな笑い声が耳元で聞こえた。

(なに?)

声の方向に顔を向けると、カズコちゃんがいた。
カズコちゃんはもう死んでる。
それははっきりわかる。
だって、そこにいたカズコちゃんは、灰色っぽくて、体の向こうが透けて見えた。
でも、相変わらず頭の半分は腐ったトマトのように崩れている。
崩れたところから片目がごろりと転がり出て、だらんとたれ下がった。

心臓が止まりそうだ。
息がうまくできない。浅い呼吸をくりかえし、体の中からガタガタと震え出した。

「ねえ」

カズコちゃんはにんまりとわらった。

「ジゴウジトクって知ってる?」
「・・・」声が出ない。

耳の奥で勢いよく血がぐるぐる回り、なにも考えられない。
たすけて。
そう思ったけど、声が出ない。
考えが全然まとまらない。
どうしたらいいのかわからなくなった私は、逃げようとしていたことを思い出し、昇降口に向かった。

そうだ、カバン。カバンがないと。自転車の鍵がカバンの中にはいっている。
私は渡り廊下を抜け、本校舎に向かい、自分の教室に向かって走った。

「ねえ、ねえったら~」

楽しげなカズコちゃんが私を追いかけてきた。
半透明のカズコちゃんはふわふわと浮いて、私が走るスピードと同じ速さで追いかけてきた。

(とにかく、カバンを取ったらそのまま自転車置き場に行って、ダッシュで帰ろう)

頭にあったのはそれだけ。
階段を一段抜かしで駆け上がり、あの鏡を見ないようにして教室のとびらをあけた。
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