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13 4時44分の踊り場
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「ひっ・・・!」
息をのんで目をそらす。
こわい。なんで、どうして?
頭の中を血がぐるぐるとまわり、どうしたらいいのかわからない。
真っ白になった頭が現実をみとめたくないって、拒絶反応を起こしてる。
か、かんちがい・・・かんちがいじゃない?
だって、だって・・・
おそるおそるカズコちゃんの席を見ると、カズコちゃんらしき顔の壊れたひとがにんまりと笑った。
その笑いは不気味としか言いようがない。
頭の半分はまるで腐ったトマトのようにくずれ、赤いどろっとしたものがでている。
その中には白っぽいパスタみたいな・・・
「あ・・・あ・・・」
言葉が形にならない。
ただ、身体中の毛が逆立つような恐怖と、最大音量の警報が鳴り響き、ここから逃げなきゃと私に知らせてくる。
なのに、まわりを見ると、だれも反応していない。
みんな真面目くさって、教卓の先生に顔を向け、話に耳をかたむけている。
私だけ?ねえ、私だけにしか見えないの?
もしかして、気のせい?私の気のせいなの?
カズコちゃんは相変わらず私の方をみて、楽しそうに笑っている。
その凄惨な姿と、楽しそうな笑顔のバランスが、余計におそろしい。
こわい、こわいよ、カズコちゃん、笑わないで。こっちを見ないで。ううん、ごめん、消えて。成仏してください。お願いします。
そうだ、なんだっけ、ナムアミダブツ、そう、お経を唱えればいいんじゃない?
ナムアミダブツ、ナムアミダブツ・・・
机の下で手をあわせ、心の中で必死にお経を唱えると、カズコちゃんはかき消されたように、いなくなった。
あー、こわかった。
学校に無理してこなきゃよかった。
私はめまいのような恐怖にこころをわしづかみにされ、今にも高い空から突き落とすとおどされているような・・・誰にってわけじゃないけど、もうどうしたらいいのかわからなくて、なすすべもない。
とにかく、ここから出たい。それだけ。
そう思ったけど、足もガクガク震えて、力が入らないことがわかった。
立てない。
声もでない。
ただ涙がぼろぼろと出て、目の前がゆがんだ。
「ミナ?」ユカが私が泣いていることに気がついた。
「大丈夫?」ユカの心配そうな声を聞きつけた先生が私に近寄ってきた。
「どうした田中。無理しないでいいんだぞ?」やさしげな先生の声。
ここから逃げたいんです。
でも、逃げたら、ひとりになったら、もっとこわい。
私は涙をハンカチでぬぐって、平気な顔をした。
すこし微笑みみたいなものも作ろうとしたけど、さすがにそれは無理で、目とほほのあたりがぴくぴくと動いただけだった。
その日は、それ以降、カズコちゃんが出てくることはなかった。
毎時間、入れ替わる先生の講義はほとんど耳に入らなかった。
ただ、自分の足元がぐらぐらとゆれているような気がして、座っていることもつらい。
でも、わたしのからだはぴったりといすにぬい付けられたように、動けなかった。
時折、さっきのカズコちゃんの笑い顔を思い出し、ショックがぶり返すようにして涙がでる。
「カズコちゃんと親しかったんだね」「やさしいんだね」
休み時間ごとに気づかわしげにかけられる言葉が痛かった。
いつもは楽しみにしている給食も、味がしない。
とにかく早く帰りたい。
早く帰って、お母さんの小言を聞いて、お兄ちゃんとケンカして、夕ご飯に文句をつけたい。
そんなつまらない日常にもどりたいと、心から思った。
終礼の鐘が鳴った。
永遠に終わらないかと思った今日の授業も、やっと終わった。
やっと帰れる。
私は、あいさつもそこそこに、教室をとびだした。
「ミナ?」
ユカの声が追いかけてきたけど、振りかえりたくない。
「宿題のプリント忘れてるよ?」
無視して階段を駆けおりた。とにかく、教室にいたくない。
だけど。
(あれ、でも、宿題のプリントはまずいか)
そう思って踊り場で立ち止まった時、目の前にあの大きな鏡があった。
鏡の中を指す時計はぴったり4時44分を指している。
(うそっ。なんで?だって終了は3時40分のはず)
フラッシュバックのように、昨日先生が時計の電池交換をしていたすがたを思い出した。
あの先生なら、間違うかも。
私は心を病んだという先生のあやうさを思い出した。
いつも、頼んだことができていないと他の先生に怒られて、小さくなっていた。
昔、学年主任をやっていた時はいばってたってうわさだけど、今は見る影もない。
頼まれたことが全然できなくなった先生。
もしかして電池の交換も・・・それすら、できない?
まさか、わざと、やらなかった?
そう思った時、ぐにゃりと世界がゆがみ、からだをまっすぐに保てなくなった。
(あぶない)
目の前の鏡に手をつくと、灰色の鏡はぐにゃーっとゆがみ、そのまま、鏡の向こう側に吸いこまれるように倒れこんだ。
息をのんで目をそらす。
こわい。なんで、どうして?
頭の中を血がぐるぐるとまわり、どうしたらいいのかわからない。
真っ白になった頭が現実をみとめたくないって、拒絶反応を起こしてる。
か、かんちがい・・・かんちがいじゃない?
だって、だって・・・
おそるおそるカズコちゃんの席を見ると、カズコちゃんらしき顔の壊れたひとがにんまりと笑った。
その笑いは不気味としか言いようがない。
頭の半分はまるで腐ったトマトのようにくずれ、赤いどろっとしたものがでている。
その中には白っぽいパスタみたいな・・・
「あ・・・あ・・・」
言葉が形にならない。
ただ、身体中の毛が逆立つような恐怖と、最大音量の警報が鳴り響き、ここから逃げなきゃと私に知らせてくる。
なのに、まわりを見ると、だれも反応していない。
みんな真面目くさって、教卓の先生に顔を向け、話に耳をかたむけている。
私だけ?ねえ、私だけにしか見えないの?
もしかして、気のせい?私の気のせいなの?
カズコちゃんは相変わらず私の方をみて、楽しそうに笑っている。
その凄惨な姿と、楽しそうな笑顔のバランスが、余計におそろしい。
こわい、こわいよ、カズコちゃん、笑わないで。こっちを見ないで。ううん、ごめん、消えて。成仏してください。お願いします。
そうだ、なんだっけ、ナムアミダブツ、そう、お経を唱えればいいんじゃない?
ナムアミダブツ、ナムアミダブツ・・・
机の下で手をあわせ、心の中で必死にお経を唱えると、カズコちゃんはかき消されたように、いなくなった。
あー、こわかった。
学校に無理してこなきゃよかった。
私はめまいのような恐怖にこころをわしづかみにされ、今にも高い空から突き落とすとおどされているような・・・誰にってわけじゃないけど、もうどうしたらいいのかわからなくて、なすすべもない。
とにかく、ここから出たい。それだけ。
そう思ったけど、足もガクガク震えて、力が入らないことがわかった。
立てない。
声もでない。
ただ涙がぼろぼろと出て、目の前がゆがんだ。
「ミナ?」ユカが私が泣いていることに気がついた。
「大丈夫?」ユカの心配そうな声を聞きつけた先生が私に近寄ってきた。
「どうした田中。無理しないでいいんだぞ?」やさしげな先生の声。
ここから逃げたいんです。
でも、逃げたら、ひとりになったら、もっとこわい。
私は涙をハンカチでぬぐって、平気な顔をした。
すこし微笑みみたいなものも作ろうとしたけど、さすがにそれは無理で、目とほほのあたりがぴくぴくと動いただけだった。
その日は、それ以降、カズコちゃんが出てくることはなかった。
毎時間、入れ替わる先生の講義はほとんど耳に入らなかった。
ただ、自分の足元がぐらぐらとゆれているような気がして、座っていることもつらい。
でも、わたしのからだはぴったりといすにぬい付けられたように、動けなかった。
時折、さっきのカズコちゃんの笑い顔を思い出し、ショックがぶり返すようにして涙がでる。
「カズコちゃんと親しかったんだね」「やさしいんだね」
休み時間ごとに気づかわしげにかけられる言葉が痛かった。
いつもは楽しみにしている給食も、味がしない。
とにかく早く帰りたい。
早く帰って、お母さんの小言を聞いて、お兄ちゃんとケンカして、夕ご飯に文句をつけたい。
そんなつまらない日常にもどりたいと、心から思った。
終礼の鐘が鳴った。
永遠に終わらないかと思った今日の授業も、やっと終わった。
やっと帰れる。
私は、あいさつもそこそこに、教室をとびだした。
「ミナ?」
ユカの声が追いかけてきたけど、振りかえりたくない。
「宿題のプリント忘れてるよ?」
無視して階段を駆けおりた。とにかく、教室にいたくない。
だけど。
(あれ、でも、宿題のプリントはまずいか)
そう思って踊り場で立ち止まった時、目の前にあの大きな鏡があった。
鏡の中を指す時計はぴったり4時44分を指している。
(うそっ。なんで?だって終了は3時40分のはず)
フラッシュバックのように、昨日先生が時計の電池交換をしていたすがたを思い出した。
あの先生なら、間違うかも。
私は心を病んだという先生のあやうさを思い出した。
いつも、頼んだことができていないと他の先生に怒られて、小さくなっていた。
昔、学年主任をやっていた時はいばってたってうわさだけど、今は見る影もない。
頼まれたことが全然できなくなった先生。
もしかして電池の交換も・・・それすら、できない?
まさか、わざと、やらなかった?
そう思った時、ぐにゃりと世界がゆがみ、からだをまっすぐに保てなくなった。
(あぶない)
目の前の鏡に手をつくと、灰色の鏡はぐにゃーっとゆがみ、そのまま、鏡の向こう側に吸いこまれるように倒れこんだ。
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