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後日譚〜あれから〜
35 【リュカ】本音 対 本音
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兄さんの唇は、思いのほか甘く、俺を受け入れた。
一瞬で時間がもとに戻る。
幼い頃、胸をときめかせながら、ドアの陰でそっと口づけた。
俺はにいちゃんとのキスが好きで、唇が触れ合うと、他の何もかも忘れてしまった。
脳が芯から溶け出し、俺の全部が兄さんの体温と混じり合う。耳の奥ではがんがん激しく血が流れ、心臓は激しく鼓動を打ち鳴らす。
ああ、ひとつになりたい。ひとつになりたい。ひとつになりたい。
望むのは、それだけ。
幼い頃から、その意味もわからない頃から、とにかく兄さんと交わりたかった。
にいさんにふれたい。
ふれてほしい。
邪魔な服なんかいらない。
素肌の感触を確かめたい。
そんなことばかりを考えていた。
よく、7年も離れていられたと思う。
兄さんが、俺を手放したがった。それが兄さんの望みだったから、離れた。
でも、兄さんが俺を愛しているのなら絶対に離れない。
愛していないと言われても、あの、黒檀にベリドットをあしらった箱を見た時、俺の胸にあふれたのは、きらきらと輝く喜びだった。だって、兄さんは俺を愛してる。絶対に、誰がなんと言おうと愛してる。そうじゃなきゃ、あの箱をどう説明するんだ?
兄さんが屋敷に帰ってくる夜、先に着いたベネディクトとジャックに協力を依頼し、この部屋に兄さんを閉じ込めた。なんなら持久戦だ。兄さんは俺を何年間閉じ込めた?
俺だって、兄さんを閉じ込める権利がある。
だけど、本当は俺の告白を信じて、俺を愛しているって認めてほしかった。
出ていけなんて、言ってほしくなかった。
一緒に生きようって言ってほしかった。
俺の望みはそれだけだよ。
ねえ、兄さん。お願い。
俺は思いを込めて兄さんに口づける。
舌を差し入れると、兄さんの熱い舌が絡みついてきた。まるで、命綱でもあるかのように、必死にしがみつく。そして俺は、兄さんの熱に負けない激しさで、兄さんの舌を吸った。
息もできないほど、激しく口づけを交わしたあと、荒い息を吐きながら、頭をそらした。このまま、息が止まって死んでしまいそうだったから。
「兄さん、愛してる。お願い、信じて」
切ない願いをこめて言ったはずなのに、俺の言葉は情けほど、裏返っていた。
「私は、お前を信じたくない」
兄さんが俺から目をそらさずに言った。
「どうして」
「お前を失って、何年も経った。お前のことを思って深夜に目を覚ますことも、胸をかきむしりたくなるほどのさみしさも、やっと忘れたところだ。ただ、記憶がぼやけただけなのかもしれない。でも、このままでいい。このまま、心が浮き立つことはないけれど、にがく苦しい思いをすることもない人生を続けていったほうがいい」
「うそでしょう?そんなこと」
「いや、本音だ」
「だって、今だって・・・」
「お前が私に持っている影響力は、致命的だ。お前が敵軍の将だったら、あっけなく負けただろう」
「でも、俺は兄さんを愛してる。兄さんの敵じゃないんだよ。それに、こうして、兄さんとキスしたり、触れるだけでも幸せな気分になる。望めばこれから毎日そうできるんだよ?どうして、未来を簡単に捨てようとするの?」
「だめだ」
「兄さん」
「次は・・・次はもう、耐えられない。お前が私を裏切ったら、私はお前を殺してしまうだろう。耐えられない・・・耐えられないんだ。お前はあっけなく私の内面を崩し、壊してしまう。次に同じことがあったら、どうにかなってしまうに違いない・・・こんな情けないこと、言わせないでくれ」
兄さんの顔がゆがみ、横を向いた。
「どうせ、扉の外にはジャックがいるんだろう。今立ち去れば、何もさせない。お前はただ、立ち去るだけでいい」
「いやだ!」
俺は悲鳴のような叫び声を上げた。
「兄さんを放っておけない。このまま、兄さんが仕事だけして、人としての生活を全部犠牲にする姿を知っていながら、置いていけって言うの?俺たちにはお互いしかいないって、もうわかってるんでしょ?子供の頃からずっと愛し続けて、離れていても気持ちが変わらない。こんなの奇跡みたいなめぐり合わせなんだよ。なんで、目の前にあるのに手に入れようとしないの。俺は、兄さんを愛してる。愛してるんだよ!離れていても、変わらなかった。これからも変わらない。兄さんしかいない。頼むから、受け入れてよ・・・」
涙が兄さんの胸を濡らし、ついでに鼻水も出てきた。
こんなに苦しいのに、現実って厳しいよ。
「リュカ・・・」
兄さんは手を動かそうとして、きっちりと縛られていることにまた気がついたらしく、苦笑した。
「縛ったのはジャックだな?あいつ・・・頭を撫でてやることすらできない。リュカ、私はお前の誘惑には勝てない。だけど、お前を傷つけたくはないんだ。私の情けない本音も聞けただろう?さあ、縄を解いてくれ」
俺がつけた傷は深すぎて、もう兄さんの心は変えられないの?
俺は兄さんの胸に顔を埋め、大声で泣いた。
体中が切り刻まれたように痛い。
もう、どうしたらいいのか、分からなかった。
一瞬で時間がもとに戻る。
幼い頃、胸をときめかせながら、ドアの陰でそっと口づけた。
俺はにいちゃんとのキスが好きで、唇が触れ合うと、他の何もかも忘れてしまった。
脳が芯から溶け出し、俺の全部が兄さんの体温と混じり合う。耳の奥ではがんがん激しく血が流れ、心臓は激しく鼓動を打ち鳴らす。
ああ、ひとつになりたい。ひとつになりたい。ひとつになりたい。
望むのは、それだけ。
幼い頃から、その意味もわからない頃から、とにかく兄さんと交わりたかった。
にいさんにふれたい。
ふれてほしい。
邪魔な服なんかいらない。
素肌の感触を確かめたい。
そんなことばかりを考えていた。
よく、7年も離れていられたと思う。
兄さんが、俺を手放したがった。それが兄さんの望みだったから、離れた。
でも、兄さんが俺を愛しているのなら絶対に離れない。
愛していないと言われても、あの、黒檀にベリドットをあしらった箱を見た時、俺の胸にあふれたのは、きらきらと輝く喜びだった。だって、兄さんは俺を愛してる。絶対に、誰がなんと言おうと愛してる。そうじゃなきゃ、あの箱をどう説明するんだ?
兄さんが屋敷に帰ってくる夜、先に着いたベネディクトとジャックに協力を依頼し、この部屋に兄さんを閉じ込めた。なんなら持久戦だ。兄さんは俺を何年間閉じ込めた?
俺だって、兄さんを閉じ込める権利がある。
だけど、本当は俺の告白を信じて、俺を愛しているって認めてほしかった。
出ていけなんて、言ってほしくなかった。
一緒に生きようって言ってほしかった。
俺の望みはそれだけだよ。
ねえ、兄さん。お願い。
俺は思いを込めて兄さんに口づける。
舌を差し入れると、兄さんの熱い舌が絡みついてきた。まるで、命綱でもあるかのように、必死にしがみつく。そして俺は、兄さんの熱に負けない激しさで、兄さんの舌を吸った。
息もできないほど、激しく口づけを交わしたあと、荒い息を吐きながら、頭をそらした。このまま、息が止まって死んでしまいそうだったから。
「兄さん、愛してる。お願い、信じて」
切ない願いをこめて言ったはずなのに、俺の言葉は情けほど、裏返っていた。
「私は、お前を信じたくない」
兄さんが俺から目をそらさずに言った。
「どうして」
「お前を失って、何年も経った。お前のことを思って深夜に目を覚ますことも、胸をかきむしりたくなるほどのさみしさも、やっと忘れたところだ。ただ、記憶がぼやけただけなのかもしれない。でも、このままでいい。このまま、心が浮き立つことはないけれど、にがく苦しい思いをすることもない人生を続けていったほうがいい」
「うそでしょう?そんなこと」
「いや、本音だ」
「だって、今だって・・・」
「お前が私に持っている影響力は、致命的だ。お前が敵軍の将だったら、あっけなく負けただろう」
「でも、俺は兄さんを愛してる。兄さんの敵じゃないんだよ。それに、こうして、兄さんとキスしたり、触れるだけでも幸せな気分になる。望めばこれから毎日そうできるんだよ?どうして、未来を簡単に捨てようとするの?」
「だめだ」
「兄さん」
「次は・・・次はもう、耐えられない。お前が私を裏切ったら、私はお前を殺してしまうだろう。耐えられない・・・耐えられないんだ。お前はあっけなく私の内面を崩し、壊してしまう。次に同じことがあったら、どうにかなってしまうに違いない・・・こんな情けないこと、言わせないでくれ」
兄さんの顔がゆがみ、横を向いた。
「どうせ、扉の外にはジャックがいるんだろう。今立ち去れば、何もさせない。お前はただ、立ち去るだけでいい」
「いやだ!」
俺は悲鳴のような叫び声を上げた。
「兄さんを放っておけない。このまま、兄さんが仕事だけして、人としての生活を全部犠牲にする姿を知っていながら、置いていけって言うの?俺たちにはお互いしかいないって、もうわかってるんでしょ?子供の頃からずっと愛し続けて、離れていても気持ちが変わらない。こんなの奇跡みたいなめぐり合わせなんだよ。なんで、目の前にあるのに手に入れようとしないの。俺は、兄さんを愛してる。愛してるんだよ!離れていても、変わらなかった。これからも変わらない。兄さんしかいない。頼むから、受け入れてよ・・・」
涙が兄さんの胸を濡らし、ついでに鼻水も出てきた。
こんなに苦しいのに、現実って厳しいよ。
「リュカ・・・」
兄さんは手を動かそうとして、きっちりと縛られていることにまた気がついたらしく、苦笑した。
「縛ったのはジャックだな?あいつ・・・頭を撫でてやることすらできない。リュカ、私はお前の誘惑には勝てない。だけど、お前を傷つけたくはないんだ。私の情けない本音も聞けただろう?さあ、縄を解いてくれ」
俺がつけた傷は深すぎて、もう兄さんの心は変えられないの?
俺は兄さんの胸に顔を埋め、大声で泣いた。
体中が切り刻まれたように痛い。
もう、どうしたらいいのか、分からなかった。
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