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後日譚〜あれから〜
18 【リュカ】裁きの場
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すみません。昨日はミスってしまい、更新できませんでした。お詫びに明日二話更新予定です。
なんとか話が落ちるところまで対象期間中にもっていかないとと、焦っています・・・・
********************
俺がギルドに閉じ込められてから2日後、ギルド長と役員たちが連なって俺を城に引っ立てていった。
城には青い旗が上がり、今日、領主裁判が行われると領民に知らせている。
この時を待って、領地のあちこちから揉め事を抱えた領民が押し寄せ、領主の裁可をあおぐことになる。
もし俺が、密貿易で香辛料や麻薬のたぐいを手に入れていたとしたら、それを隠したギルド全員の責任が問われる。昨日まで気安く肩を叩きあっていた親方たちが、俺のことを、まるで裏切り者の蛇を見るような目で見ていた。
2日間の間、時折見えないように殴られた。イライラをぶつけるには丁度良かったんだろう。俺の髪はぐしゃぐしゃだし、顔のあちこちが腫れ上がり、血がにじんでいる。ギルドに呼び出されたときにあわてて着たチュニックとズボンはしわくちゃになり、血が飛び、乱暴な扱いのせいで何箇所かほつれていた。
手を縄で荒っぽく縛られ、ボロボロになった俺の姿は、領主の前に出るからと一張羅に身を固めた親方たちとは、あまりにも対照的だった。
裁きの間はごった返し、次から次へと兄の裁可を待つ人達であふれかえっている。
遠くに、兄が最上段に置かれた豪華な椅子に座り、厳かに裁可を下している姿が見えた。
いかめしい騎士たちを従えた領主の、威厳のある姿に、皆が頭をたれ、そのことばに耳を傾けていた。
いつの間にか、兄さんは堂々とした公爵閣下になっていた。
それなのに、俺は・・・
こんな姿を見られるとおもうと、恥ずかしくて、消えてしまいたい。どうか、気づかないでほしい。
もしかしたら、兄に急用ができて代理人に代わるかも。祈ってはみるが、叶いそうにないことは自分でもわかっていた。
「まったく、お前のせいで仕事を休む羽目になったんぞ」
いらついた親方のひとりが俺の背中を強く押して床に突き倒し、厳かな場の空気が乱れた。
「ちょっと、やりすぎじゃないですか」
スタンが小声で抗議して、俺を助け起こそうとしたが、俺は、目でやめろと伝えた。ギルド長は俺がひどい目にあっても、知らん顔している。つまり、黙認している。俺のせいでスタンの立場を悪くしてはいけない。
スタンは、俺の合図を無視して、背中に手を回し抱き起こした。ここ数日の疲労で、俺の身体に力が入らなかったせいだ。
「すまない」
小さな声で礼を言うと、スタンがうなずいた。
抱き起こされた瞬間、遠く離れた兄さんと目があった。
気のせいかもしれない。兄さんが驚いたように目を見開いたことは。
だが、兄さんが小声で代理人らしい男に指示をすると、パン職人ギルドの順番はまだまだ先なはずなのに、順番を飛ばして俺たちが呼び出された。
「代表者は前へ」
代理人が声を掛けると、広間に声が響き渡った。広間中の人の目が集まり、ギルド長の口の脇がピクピクと小さく痙攣しているのが見えた。
「ドランシの街のパン職人ギルド長でございます」
一歩踏み出し、深々と礼をすると、職人たちが一斉に頭を下げた。
「申立の前に一つ聞きたいことがある」
兄さんが、いや公爵閣下がギルド長に声を掛けると、ギルド長の肩がぴくんとはねた。その声にある不機嫌さを敏感に感じ取ったのかもしれない。兄の視線が俺の上でぴたりと止まった。俺は情けない姿を見られたくなくて、あわてて目を伏せた。
「その者は重罪人か?」
ギルド長は戸惑ったように顔を上げた。
「と、申しますと・・・」
「まるで重罪人のような扱いを受けたとひと目でわかる。尋ねておる。その者は人殺しか。それに類する重罪を犯したのか」
「い、いえ、その・・・もしかしたら、密貿易に手を染めていたのかもしれません」
「では、逃亡のおそれがあるのか」
「・・・逃亡できないように、拘束し、見張っておりました」
「暴れたのか」
「・・・いいえ」
ギルド長は目を泳がせ、貧乏ゆすりをしている。何故こんな場に来てしまったのかと後悔しているような顔つきだ。
兄はギルド長をじっと見つめたまま、目を細めた。
「では、縄を解け」
「はい?」
「私の裁きの場で、理由のない暴力は許さん。それとも、私の訓練された兵よりも、その者のほうが力が優れていると申すのか?逃げ出したら取り押さえられないと?」
「いえ、いえ、とんでもございません!」
裁きの間は鍛え上げられた騎士や兵士でぐるりと囲まれている。兄さんが言うことはもっともだ。
俺が逃げようとしたって、二歩も進まないうちに取り押さえられるに決まっている。
兵士たちの銀色に光る軍装におそれをなしたギルド長が、あわてて合図すると、スタンがすかさず俺の縄を解いた。
指先に血が戻る感覚がして、両手をこすり合わせると、兄さんの視線を感じた。
俺は、うつむきながら、グシャグシャになった髪をなでつけた。でも、顔が見えてしまうと、殴られた痕がはっきり見えてしまうかもしれないと気がつき、視線を避けるように、横を向いた。でも、まだ視線を感じる。
「私が裁きをくだす前に、勝手に私刑するとは、もってのほか。お前はこの場を侮辱しておるのか」
「はっ・・・!!ひ、平にご容赦を。そのようなつもりはございません。ただ、万一にも逃げられないようにと」
「その件については、別に裁きをくだす。それで?そなたはどういった件で裁可を仰ぎに来たのか。申してみよ」
「は、はい!」ギルド長が気を取り直したように、背筋を伸ばした。
「この者は、街の水車小屋で挽いたものではない粉を、所持しておりました」
「ほう」
「それだけではございません。本人の申立によると香辛料を袋にいっぱい所持しておりました。どこから手に入れたのかはっきりと言わず、密貿易もしくは盗みの可能性もございます。私どもは領主様に忠誠を誓う身。不正であれば見過ごすことはできません」
兄は、椅子の手すりに肘を置き、顎に手の甲を当て、考え込んでいる。
しばらくののち、兄が口を開いた。
なんとか話が落ちるところまで対象期間中にもっていかないとと、焦っています・・・・
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俺がギルドに閉じ込められてから2日後、ギルド長と役員たちが連なって俺を城に引っ立てていった。
城には青い旗が上がり、今日、領主裁判が行われると領民に知らせている。
この時を待って、領地のあちこちから揉め事を抱えた領民が押し寄せ、領主の裁可をあおぐことになる。
もし俺が、密貿易で香辛料や麻薬のたぐいを手に入れていたとしたら、それを隠したギルド全員の責任が問われる。昨日まで気安く肩を叩きあっていた親方たちが、俺のことを、まるで裏切り者の蛇を見るような目で見ていた。
2日間の間、時折見えないように殴られた。イライラをぶつけるには丁度良かったんだろう。俺の髪はぐしゃぐしゃだし、顔のあちこちが腫れ上がり、血がにじんでいる。ギルドに呼び出されたときにあわてて着たチュニックとズボンはしわくちゃになり、血が飛び、乱暴な扱いのせいで何箇所かほつれていた。
手を縄で荒っぽく縛られ、ボロボロになった俺の姿は、領主の前に出るからと一張羅に身を固めた親方たちとは、あまりにも対照的だった。
裁きの間はごった返し、次から次へと兄の裁可を待つ人達であふれかえっている。
遠くに、兄が最上段に置かれた豪華な椅子に座り、厳かに裁可を下している姿が見えた。
いかめしい騎士たちを従えた領主の、威厳のある姿に、皆が頭をたれ、そのことばに耳を傾けていた。
いつの間にか、兄さんは堂々とした公爵閣下になっていた。
それなのに、俺は・・・
こんな姿を見られるとおもうと、恥ずかしくて、消えてしまいたい。どうか、気づかないでほしい。
もしかしたら、兄に急用ができて代理人に代わるかも。祈ってはみるが、叶いそうにないことは自分でもわかっていた。
「まったく、お前のせいで仕事を休む羽目になったんぞ」
いらついた親方のひとりが俺の背中を強く押して床に突き倒し、厳かな場の空気が乱れた。
「ちょっと、やりすぎじゃないですか」
スタンが小声で抗議して、俺を助け起こそうとしたが、俺は、目でやめろと伝えた。ギルド長は俺がひどい目にあっても、知らん顔している。つまり、黙認している。俺のせいでスタンの立場を悪くしてはいけない。
スタンは、俺の合図を無視して、背中に手を回し抱き起こした。ここ数日の疲労で、俺の身体に力が入らなかったせいだ。
「すまない」
小さな声で礼を言うと、スタンがうなずいた。
抱き起こされた瞬間、遠く離れた兄さんと目があった。
気のせいかもしれない。兄さんが驚いたように目を見開いたことは。
だが、兄さんが小声で代理人らしい男に指示をすると、パン職人ギルドの順番はまだまだ先なはずなのに、順番を飛ばして俺たちが呼び出された。
「代表者は前へ」
代理人が声を掛けると、広間に声が響き渡った。広間中の人の目が集まり、ギルド長の口の脇がピクピクと小さく痙攣しているのが見えた。
「ドランシの街のパン職人ギルド長でございます」
一歩踏み出し、深々と礼をすると、職人たちが一斉に頭を下げた。
「申立の前に一つ聞きたいことがある」
兄さんが、いや公爵閣下がギルド長に声を掛けると、ギルド長の肩がぴくんとはねた。その声にある不機嫌さを敏感に感じ取ったのかもしれない。兄の視線が俺の上でぴたりと止まった。俺は情けない姿を見られたくなくて、あわてて目を伏せた。
「その者は重罪人か?」
ギルド長は戸惑ったように顔を上げた。
「と、申しますと・・・」
「まるで重罪人のような扱いを受けたとひと目でわかる。尋ねておる。その者は人殺しか。それに類する重罪を犯したのか」
「い、いえ、その・・・もしかしたら、密貿易に手を染めていたのかもしれません」
「では、逃亡のおそれがあるのか」
「・・・逃亡できないように、拘束し、見張っておりました」
「暴れたのか」
「・・・いいえ」
ギルド長は目を泳がせ、貧乏ゆすりをしている。何故こんな場に来てしまったのかと後悔しているような顔つきだ。
兄はギルド長をじっと見つめたまま、目を細めた。
「では、縄を解け」
「はい?」
「私の裁きの場で、理由のない暴力は許さん。それとも、私の訓練された兵よりも、その者のほうが力が優れていると申すのか?逃げ出したら取り押さえられないと?」
「いえ、いえ、とんでもございません!」
裁きの間は鍛え上げられた騎士や兵士でぐるりと囲まれている。兄さんが言うことはもっともだ。
俺が逃げようとしたって、二歩も進まないうちに取り押さえられるに決まっている。
兵士たちの銀色に光る軍装におそれをなしたギルド長が、あわてて合図すると、スタンがすかさず俺の縄を解いた。
指先に血が戻る感覚がして、両手をこすり合わせると、兄さんの視線を感じた。
俺は、うつむきながら、グシャグシャになった髪をなでつけた。でも、顔が見えてしまうと、殴られた痕がはっきり見えてしまうかもしれないと気がつき、視線を避けるように、横を向いた。でも、まだ視線を感じる。
「私が裁きをくだす前に、勝手に私刑するとは、もってのほか。お前はこの場を侮辱しておるのか」
「はっ・・・!!ひ、平にご容赦を。そのようなつもりはございません。ただ、万一にも逃げられないようにと」
「その件については、別に裁きをくだす。それで?そなたはどういった件で裁可を仰ぎに来たのか。申してみよ」
「は、はい!」ギルド長が気を取り直したように、背筋を伸ばした。
「この者は、街の水車小屋で挽いたものではない粉を、所持しておりました」
「ほう」
「それだけではございません。本人の申立によると香辛料を袋にいっぱい所持しておりました。どこから手に入れたのかはっきりと言わず、密貿易もしくは盗みの可能性もございます。私どもは領主様に忠誠を誓う身。不正であれば見過ごすことはできません」
兄は、椅子の手すりに肘を置き、顎に手の甲を当て、考え込んでいる。
しばらくののち、兄が口を開いた。
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