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後日譚〜あれから〜

9 【リュカ】迎え

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「リュカ!」

誰かが勢いよく俺に抱きついてきた。見慣れた茶色の巻き毛。

「うわっ!!ネル!!どうしたんだ?」

驚いて叫ぶと俺の声を聞きつけたのか、店から飛び出してきたレオンが弾丸のようにネルの足にかじりついた。

「かあちゃん、かあちゃん!!」

泣き声混じりのレオンの声に、ネルも泣きながらレオンを抱きしめた。


なだめながら店の中に入れたが、やっと母親に会えたレオンはひしとネルにしがみつきながら泣いているし、ネルもレオンを抱きしめて離そうとしない。

(やっぱり本物の母親が好きなんだな)

微笑ましく横目で見ながら湯を沸かす。
当たり前のことだと思いながらも、ちょっとだけさみしかった。

「まあ、落ちついたら飲めよ」そっとテーブルに茶を置くと、ネルが顔を上げた。
その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていたが、笑った顔は今まで見た中で一番きれいだった。

「今までありがとう、リュカ。やっと家族で暮らせるめどがついたの」
「そうか。それはよかった」

いままでずっと一緒にいてくれたレオンが親と暮らすようになるのはさみしいけど、レオンのためにはなによりもめでたいことだ。こどもは親と一緒の方がいい。

「生活は落ちついたのか?」
「まだ・・・もうちょっとはかかるけど、でも、もう待ちきれなくて、レオンを迎えに来ちゃったの。全部整えてからなんて待ってられない。レオンに会いたくて、会いたくて、たまらなかった。レオンは?レオンはお母さんに会えてうれしい?」
「うん!」レオンは大きな声で答えると、またネルに抱きついた。まるで、逃さない、とでも言うように。
「そうか。じゃあ、何よりだな。レオンの荷造りならすぐにできるし、そうと決まったら早い方がいい」
「ありがとう、リュカ。レオンを大切に育ててくれてありがとう。あんたの友情を一生忘れない」
「そうか。高くつくぞ?」俺が笑うとネルが真剣な顔でうなずいた。「なんでも言ってちょうだい」
「おいおい、冗談に決まってんだろ。俺の方こそ、レオンに側にいてもらえて、本当に・・・助かった。だから、礼なんていらない。レオンはこれからも俺の子どもでもあるんだ。忘れるなよ、レオン」
俺がレオンの頭をなでるとレオンがぽかんと俺の顔を見た。

「なに?とうちゃん、どういうこと?なんで俺がとうちゃんのことわすれるの?なんで?」

俺とネルは顔を見合わせた。

「あのね・・・レオン。これからは一緒に暮らせるから。あなたは私とお父様と暮らすのよ。だから、ここでは暮らさないの」
「え・・・?」

レオンは、ぽかんと口をあけてネルを見た。

「なんで?俺が手伝わないと、とうちゃんが困るんだよ?俺がいないと、店が回らないんだ」
「レオン、あなたはまだ4歳じゃないの。あなたがいなくても・・・」
「そのとおりだよ。レオン」俺はネルがそれ以上続けないように、手のひらで合図した。「俺、本当に困るんだよ、レオンがいないと。お前がいないと、店が回らないんだよ。それに俺だってさみしいし?」
「とうちゃん!そうだろ?」
「でもな」俺はレオンの目をのぞき込んだ。「お前、かあちゃんが帰ってくるの、ずっと待ってただろ?会いたかっただろ?お前、かあちゃんが帰ってきてからずっと手を離さないじゃないか」
「そ、それは・・・」レオンがネルにしがみついている自分の手を見たが、やはりネルから手を離せないと気がついたようだ。

「あのな。店番のかわりは、誰かを頼むよ。そりゃ、お前以上の店員なんかいないけど、でもかわりは見つけられる。お前はまだたったの4歳なんだ。店番よりも、両親と一緒に暮らして、勉強したり、学校に行って友達を作ったり、遊んだり、やるべきことはいっぱいあるんだ。そして、俺はそんなお前を応援してやりたい」
「とうちゃん・・・?」
「そうだ。俺は、お前のとうちゃんだから。だから、お前の成長を応援してやりたい。つらいときはいつでも戻ってこい。帰るところはある。だから、精一杯頑張れ。そして、親にたくさんかわいがってもらえ。いいな?」

レオンはネルの膝から降りると、俺に抱きついた。
俺はレオンをぎゅっと抱きしめる。まだ、乳臭い小さなこども。この子にどれだけ癒やされたかわからない。
血は繋がらなくてもいとしい俺の息子。

「ずっと、愛してるよ」

俺はぎゅっとレオンを抱きしめ、レオンは腕の中で泣きじゃくっていた。



2日後、迎えに来た馬車で2人は旅立っていった。
どうやら、ネルの夫は、隣国の貴族らしい。それが誰かは、あえて聞いたことがない。でも、4頭立ての立派な馬車を迎えによこしたということは、身分なんだろう。
それに、昨夜ネルが差し出したずっしりと金貨が入った袋も、相当な財力を伺わせた。何度も断り、やっと袋を引っ込めてくれた。俺はレオンを金に変えたいわけじゃない。

「その代わり、ずっと俺はレオンのもうひとりの父親だから」
「そうね。それに私の親友でもある」

ふたりでしっかりと手を握りあう。ネルの小さな手と俺のごつごつとした職人の手が重なり、心が重なった。

「大好きよ、リュカ」
「うん、おれも」

俺たちは微笑みあった。
あの学園に通って一番良かったのは、ネルという親友をえられたことかもしれない。
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