237 / 279
後日譚〜あれから〜
9 【リュカ】迎え
しおりを挟む
「リュカ!」
誰かが勢いよく俺に抱きついてきた。見慣れた茶色の巻き毛。
「うわっ!!ネル!!どうしたんだ?」
驚いて叫ぶと俺の声を聞きつけたのか、店から飛び出してきたレオンが弾丸のようにネルの足にかじりついた。
「かあちゃん、かあちゃん!!」
泣き声混じりのレオンの声に、ネルも泣きながらレオンを抱きしめた。
なだめながら店の中に入れたが、やっと母親に会えたレオンはひしとネルにしがみつきながら泣いているし、ネルもレオンを抱きしめて離そうとしない。
(やっぱり本物の母親が好きなんだな)
微笑ましく横目で見ながら湯を沸かす。
当たり前のことだと思いながらも、ちょっとだけさみしかった。
「まあ、落ちついたら飲めよ」そっとテーブルに茶を置くと、ネルが顔を上げた。
その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていたが、笑った顔は今まで見た中で一番きれいだった。
「今までありがとう、リュカ。やっと家族で暮らせるめどがついたの」
「そうか。それはよかった」
いままでずっと一緒にいてくれたレオンが親と暮らすようになるのはさみしいけど、レオンのためにはなによりもめでたいことだ。こどもは親と一緒の方がいい。
「生活は落ちついたのか?」
「まだ・・・もうちょっとはかかるけど、でも、もう待ちきれなくて、レオンを迎えに来ちゃったの。全部整えてからなんて待ってられない。レオンに会いたくて、会いたくて、たまらなかった。レオンは?レオンはお母さんに会えてうれしい?」
「うん!」レオンは大きな声で答えると、またネルに抱きついた。まるで、逃さない、とでも言うように。
「そうか。じゃあ、何よりだな。レオンの荷造りならすぐにできるし、そうと決まったら早い方がいい」
「ありがとう、リュカ。レオンを大切に育ててくれてありがとう。あんたの友情を一生忘れない」
「そうか。高くつくぞ?」俺が笑うとネルが真剣な顔でうなずいた。「なんでも言ってちょうだい」
「おいおい、冗談に決まってんだろ。俺の方こそ、レオンに側にいてもらえて、本当に・・・助かった。だから、礼なんていらない。レオンはこれからも俺の子どもでもあるんだ。忘れるなよ、レオン」
俺がレオンの頭をなでるとレオンがぽかんと俺の顔を見た。
「なに?とうちゃん、どういうこと?なんで俺がとうちゃんのことわすれるの?なんで?」
俺とネルは顔を見合わせた。
「あのね・・・レオン。これからは一緒に暮らせるから。あなたは私とお父様と暮らすのよ。だから、ここでは暮らさないの」
「え・・・?」
レオンは、ぽかんと口をあけてネルを見た。
「なんで?俺が手伝わないと、とうちゃんが困るんだよ?俺がいないと、店が回らないんだ」
「レオン、あなたはまだ4歳じゃないの。あなたがいなくても・・・」
「そのとおりだよ。レオン」俺はネルがそれ以上続けないように、手のひらで合図した。「俺、本当に困るんだよ、レオンがいないと。お前がいないと、店が回らないんだよ。それに俺だってさみしいし?」
「とうちゃん!そうだろ?」
「でもな」俺はレオンの目をのぞき込んだ。「お前、かあちゃんが帰ってくるの、ずっと待ってただろ?会いたかっただろ?お前、かあちゃんが帰ってきてからずっと手を離さないじゃないか」
「そ、それは・・・」レオンがネルにしがみついている自分の手を見たが、やはりネルから手を離せないと気がついたようだ。
「あのな。店番のかわりは、誰かを頼むよ。そりゃ、お前以上の店員なんかいないけど、でもかわりは見つけられる。お前はまだたったの4歳なんだ。店番よりも、両親と一緒に暮らして、勉強したり、学校に行って友達を作ったり、遊んだり、やるべきことはいっぱいあるんだ。そして、俺はそんなお前を応援してやりたい」
「とうちゃん・・・?」
「そうだ。俺は、お前のとうちゃんだから。だから、お前の成長を応援してやりたい。つらいときはいつでも戻ってこい。帰るところはある。だから、精一杯頑張れ。そして、親にたくさんかわいがってもらえ。いいな?」
レオンはネルの膝から降りると、俺に抱きついた。
俺はレオンをぎゅっと抱きしめる。まだ、乳臭い小さなこども。この子にどれだけ癒やされたかわからない。
血は繋がらなくてもいとしい俺の息子。
「ずっと、愛してるよ」
俺はぎゅっとレオンを抱きしめ、レオンは腕の中で泣きじゃくっていた。
2日後、迎えに来た馬車で2人は旅立っていった。
どうやら、ネルの夫は、隣国の貴族らしい。それが誰かは、あえて聞いたことがない。でも、4頭立ての立派な馬車を迎えによこしたということは、身分なんだろう。
それに、昨夜ネルが差し出したずっしりと金貨が入った袋も、相当な財力を伺わせた。何度も断り、やっと袋を引っ込めてくれた。俺はレオンを金に変えたいわけじゃない。
「その代わり、ずっと俺はレオンのもうひとりの父親だから」
「そうね。それに私の親友でもある」
ふたりでしっかりと手を握りあう。ネルの小さな手と俺のごつごつとした職人の手が重なり、心が重なった。
「大好きよ、リュカ」
「うん、おれも」
俺たちは微笑みあった。
あの学園に通って一番良かったのは、ネルという親友をえられたことかもしれない。
誰かが勢いよく俺に抱きついてきた。見慣れた茶色の巻き毛。
「うわっ!!ネル!!どうしたんだ?」
驚いて叫ぶと俺の声を聞きつけたのか、店から飛び出してきたレオンが弾丸のようにネルの足にかじりついた。
「かあちゃん、かあちゃん!!」
泣き声混じりのレオンの声に、ネルも泣きながらレオンを抱きしめた。
なだめながら店の中に入れたが、やっと母親に会えたレオンはひしとネルにしがみつきながら泣いているし、ネルもレオンを抱きしめて離そうとしない。
(やっぱり本物の母親が好きなんだな)
微笑ましく横目で見ながら湯を沸かす。
当たり前のことだと思いながらも、ちょっとだけさみしかった。
「まあ、落ちついたら飲めよ」そっとテーブルに茶を置くと、ネルが顔を上げた。
その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていたが、笑った顔は今まで見た中で一番きれいだった。
「今までありがとう、リュカ。やっと家族で暮らせるめどがついたの」
「そうか。それはよかった」
いままでずっと一緒にいてくれたレオンが親と暮らすようになるのはさみしいけど、レオンのためにはなによりもめでたいことだ。こどもは親と一緒の方がいい。
「生活は落ちついたのか?」
「まだ・・・もうちょっとはかかるけど、でも、もう待ちきれなくて、レオンを迎えに来ちゃったの。全部整えてからなんて待ってられない。レオンに会いたくて、会いたくて、たまらなかった。レオンは?レオンはお母さんに会えてうれしい?」
「うん!」レオンは大きな声で答えると、またネルに抱きついた。まるで、逃さない、とでも言うように。
「そうか。じゃあ、何よりだな。レオンの荷造りならすぐにできるし、そうと決まったら早い方がいい」
「ありがとう、リュカ。レオンを大切に育ててくれてありがとう。あんたの友情を一生忘れない」
「そうか。高くつくぞ?」俺が笑うとネルが真剣な顔でうなずいた。「なんでも言ってちょうだい」
「おいおい、冗談に決まってんだろ。俺の方こそ、レオンに側にいてもらえて、本当に・・・助かった。だから、礼なんていらない。レオンはこれからも俺の子どもでもあるんだ。忘れるなよ、レオン」
俺がレオンの頭をなでるとレオンがぽかんと俺の顔を見た。
「なに?とうちゃん、どういうこと?なんで俺がとうちゃんのことわすれるの?なんで?」
俺とネルは顔を見合わせた。
「あのね・・・レオン。これからは一緒に暮らせるから。あなたは私とお父様と暮らすのよ。だから、ここでは暮らさないの」
「え・・・?」
レオンは、ぽかんと口をあけてネルを見た。
「なんで?俺が手伝わないと、とうちゃんが困るんだよ?俺がいないと、店が回らないんだ」
「レオン、あなたはまだ4歳じゃないの。あなたがいなくても・・・」
「そのとおりだよ。レオン」俺はネルがそれ以上続けないように、手のひらで合図した。「俺、本当に困るんだよ、レオンがいないと。お前がいないと、店が回らないんだよ。それに俺だってさみしいし?」
「とうちゃん!そうだろ?」
「でもな」俺はレオンの目をのぞき込んだ。「お前、かあちゃんが帰ってくるの、ずっと待ってただろ?会いたかっただろ?お前、かあちゃんが帰ってきてからずっと手を離さないじゃないか」
「そ、それは・・・」レオンがネルにしがみついている自分の手を見たが、やはりネルから手を離せないと気がついたようだ。
「あのな。店番のかわりは、誰かを頼むよ。そりゃ、お前以上の店員なんかいないけど、でもかわりは見つけられる。お前はまだたったの4歳なんだ。店番よりも、両親と一緒に暮らして、勉強したり、学校に行って友達を作ったり、遊んだり、やるべきことはいっぱいあるんだ。そして、俺はそんなお前を応援してやりたい」
「とうちゃん・・・?」
「そうだ。俺は、お前のとうちゃんだから。だから、お前の成長を応援してやりたい。つらいときはいつでも戻ってこい。帰るところはある。だから、精一杯頑張れ。そして、親にたくさんかわいがってもらえ。いいな?」
レオンはネルの膝から降りると、俺に抱きついた。
俺はレオンをぎゅっと抱きしめる。まだ、乳臭い小さなこども。この子にどれだけ癒やされたかわからない。
血は繋がらなくてもいとしい俺の息子。
「ずっと、愛してるよ」
俺はぎゅっとレオンを抱きしめ、レオンは腕の中で泣きじゃくっていた。
2日後、迎えに来た馬車で2人は旅立っていった。
どうやら、ネルの夫は、隣国の貴族らしい。それが誰かは、あえて聞いたことがない。でも、4頭立ての立派な馬車を迎えによこしたということは、身分なんだろう。
それに、昨夜ネルが差し出したずっしりと金貨が入った袋も、相当な財力を伺わせた。何度も断り、やっと袋を引っ込めてくれた。俺はレオンを金に変えたいわけじゃない。
「その代わり、ずっと俺はレオンのもうひとりの父親だから」
「そうね。それに私の親友でもある」
ふたりでしっかりと手を握りあう。ネルの小さな手と俺のごつごつとした職人の手が重なり、心が重なった。
「大好きよ、リュカ」
「うん、おれも」
俺たちは微笑みあった。
あの学園に通って一番良かったのは、ネルという親友をえられたことかもしれない。
0
お気に入りに追加
224
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる