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第四幕〜終わりの始まり〜
199 【マティアス】目覚め、そして裏切り ※※※
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何にでも終わりがある。
終わってほしくないものほど、その終わりは鮮烈だ。
まるで夏の日の花火のように、目もくらむほどの音と色の洪水で脳髄から支配したあと、残るのはすこし切なく、どこか間抜けな硝煙のにおいだけ。
目の奥に残るあのきらびやかな輝きは幻だったのだろうかと、確かめるすべすらない。
リュカが、目覚めた。
********************
長く眠り体力がないはずのリュカは、真っ先にイネスに会いに行った。
まさか、と思った。
しかし、屋敷に突如起こった幽霊騒ぎはリュカに違いないとピンときた。
駆けつけたときには、半狂乱のイネス。
「放して、放してよ!リュカと行かせて。真実の愛なのよ!」
相変わらずたわごとをまくしたてるイネスを困ったように取り押さえる使用人たち。うなずくと安心したようにイネスを部屋に連れて行った。
あれでは、もう女主人としてやっていけまい。
リュカは少し離れたところでうずくまっていた。
その背中はおびえた子どものように丸まり、ほんとうの姿よりもはるかに小さく見えた。
「リュカ」
大丈夫か?そのつもりでかけた声に振り向いたリュカの目には恐怖が浮かんでいた。
リュカは、覚えている。
では、選択肢はひとつしかない。
***********************
2年も寝ていたんだから、体力は落ちているし記憶はあいまいなはずだ。できればそのまま思い出してほしくなかった。もしかしたら、全て忘れたかもしれない。都合のいい淡い期待が浮かんでくる。
リュカはそんな私の気持ちを見抜いていたのだろう。
愚かな私はあっさりと騙された。
リュカを隠して、誰にも見られないように閉じ込め、大切にすればかつてのように私を慕ってくれるのでは?淡い期待を見透かしていたように、リュカは無邪気に振る舞った。
そして、虎視眈々と逃げ出すための策を練っていた。私ではない、女の元に逃げ、二度と会わないつもりだったんだろう。
その日は、社交会を牛耳っている伯爵夫人の開催する舞踏会だった。
イネスがまともに女主人の役目を果たさないため、こうした催しにも出席し、ご婦人方のご機嫌をとらなければならない。
リュカを訪れたとき、足が足かせですれて傷ついていることに気がついた。手当をしてやりたかったが、時間が足りなかった。冷静に考えれば、普通に過ごしていてあんなに足が傷つくわけないのに。
ただ心配で頭がいっぱいになり、リュカが足かせすら利用して出口探しをしていたことに気が付かなかった。
後ろ髪をひかれながら行った舞踏会で、私のダンスが終わるのをジリジリしながらまっていたジャックと顔を合せた時に、ピンときた。
リュカが逃げた。
「ミラ様のご実家に住まわせていた部下から連絡がありました。リュカ様らしき方がお見えになったと」
リュカの叔父の家は、ミラを迎えたあとに買い取り、かつての部下に住まわせていた。
(逃げて最初に行くのはやはり、本命のところか)
歯噛みするほどの悔しさに襲われる。リュカは、こんなにも簡単に、私を欺くのだ。
(まただ。また、リュカは私を裏切った。なぜ、懲りないんだ。なぜまた信じてしまう?)
それは、私がリュカを信じたいと思っているから。そして、リュカは私を愛していないから、簡単に裏切る。
ミラの家に住まわせている部下には詳しいことは教えていない。だが、不審な男が来たと報告があったそうだ。
馬が盗まれたとの報告もあった。であれば、次に行くのは、イヴァン・ガルシアの店だろう。
死んだはずのリュカと話までしたイヴァンは、当然「リュカにそっくりな遠縁の男」の存在など信じるはずはない。だが、公爵である私がガルシア家の当主にそういえば、そうなるのだ。
リュカと呼ばれたリュカではない男は、背を丸め、迎えに来た私に足取り重くついてきた。
他にできることなどない。
ただ、その夜から、私とリュカの関係は変わった。
逃げられるほどの体力が回復したのだ。抱いていけない理由がどこにある?
目を覚ましたリュカは男や女なしでは暮らしていけないだろう。
腰が抜けるほど抱き続ければ、逃げる気力すらわかないに違いない。
そう思ったのに。
リュカはやはり魔物だった。
抵抗する素振りは見せかけだけ。
すぐに腰を揺らし、男を欲しがる淫乱な仕草に、頭に血が昇った。
「あ・・・ひぃい・・・兄さん、兄さん、もっとぉ・・・」
左手で首を押さえつけ、一気に腰を進め、リュカの最奥を激しく突く。
リュカの悲鳴が上がり、繰り返すうちにそれは快感の喘ぎに変わっていった。
私の動きに合わせて、腰を揺らし、ぎゅうぎゅうと締め付ける。
リュカのなかはうねり、収縮して私を搾り取ろうとうごめいた。
あえて暴力的に犯してやろうとおもっても、リュカはどんな動きにも敏感に応え、悲鳴ともつかない喘ぎを上げた。
まるで、この行為が好きでたまらないと言うように。
腰をくねらせ、私に合わせて動き続ける。心臓が弾けそうなほどの興奮に身体がしびれた。
「リュカ・・・絶対に逃さない」
うっかり本音をもらすほど、私はリュカに夢中だった。
終わってほしくないものほど、その終わりは鮮烈だ。
まるで夏の日の花火のように、目もくらむほどの音と色の洪水で脳髄から支配したあと、残るのはすこし切なく、どこか間抜けな硝煙のにおいだけ。
目の奥に残るあのきらびやかな輝きは幻だったのだろうかと、確かめるすべすらない。
リュカが、目覚めた。
********************
長く眠り体力がないはずのリュカは、真っ先にイネスに会いに行った。
まさか、と思った。
しかし、屋敷に突如起こった幽霊騒ぎはリュカに違いないとピンときた。
駆けつけたときには、半狂乱のイネス。
「放して、放してよ!リュカと行かせて。真実の愛なのよ!」
相変わらずたわごとをまくしたてるイネスを困ったように取り押さえる使用人たち。うなずくと安心したようにイネスを部屋に連れて行った。
あれでは、もう女主人としてやっていけまい。
リュカは少し離れたところでうずくまっていた。
その背中はおびえた子どものように丸まり、ほんとうの姿よりもはるかに小さく見えた。
「リュカ」
大丈夫か?そのつもりでかけた声に振り向いたリュカの目には恐怖が浮かんでいた。
リュカは、覚えている。
では、選択肢はひとつしかない。
***********************
2年も寝ていたんだから、体力は落ちているし記憶はあいまいなはずだ。できればそのまま思い出してほしくなかった。もしかしたら、全て忘れたかもしれない。都合のいい淡い期待が浮かんでくる。
リュカはそんな私の気持ちを見抜いていたのだろう。
愚かな私はあっさりと騙された。
リュカを隠して、誰にも見られないように閉じ込め、大切にすればかつてのように私を慕ってくれるのでは?淡い期待を見透かしていたように、リュカは無邪気に振る舞った。
そして、虎視眈々と逃げ出すための策を練っていた。私ではない、女の元に逃げ、二度と会わないつもりだったんだろう。
その日は、社交会を牛耳っている伯爵夫人の開催する舞踏会だった。
イネスがまともに女主人の役目を果たさないため、こうした催しにも出席し、ご婦人方のご機嫌をとらなければならない。
リュカを訪れたとき、足が足かせですれて傷ついていることに気がついた。手当をしてやりたかったが、時間が足りなかった。冷静に考えれば、普通に過ごしていてあんなに足が傷つくわけないのに。
ただ心配で頭がいっぱいになり、リュカが足かせすら利用して出口探しをしていたことに気が付かなかった。
後ろ髪をひかれながら行った舞踏会で、私のダンスが終わるのをジリジリしながらまっていたジャックと顔を合せた時に、ピンときた。
リュカが逃げた。
「ミラ様のご実家に住まわせていた部下から連絡がありました。リュカ様らしき方がお見えになったと」
リュカの叔父の家は、ミラを迎えたあとに買い取り、かつての部下に住まわせていた。
(逃げて最初に行くのはやはり、本命のところか)
歯噛みするほどの悔しさに襲われる。リュカは、こんなにも簡単に、私を欺くのだ。
(まただ。また、リュカは私を裏切った。なぜ、懲りないんだ。なぜまた信じてしまう?)
それは、私がリュカを信じたいと思っているから。そして、リュカは私を愛していないから、簡単に裏切る。
ミラの家に住まわせている部下には詳しいことは教えていない。だが、不審な男が来たと報告があったそうだ。
馬が盗まれたとの報告もあった。であれば、次に行くのは、イヴァン・ガルシアの店だろう。
死んだはずのリュカと話までしたイヴァンは、当然「リュカにそっくりな遠縁の男」の存在など信じるはずはない。だが、公爵である私がガルシア家の当主にそういえば、そうなるのだ。
リュカと呼ばれたリュカではない男は、背を丸め、迎えに来た私に足取り重くついてきた。
他にできることなどない。
ただ、その夜から、私とリュカの関係は変わった。
逃げられるほどの体力が回復したのだ。抱いていけない理由がどこにある?
目を覚ましたリュカは男や女なしでは暮らしていけないだろう。
腰が抜けるほど抱き続ければ、逃げる気力すらわかないに違いない。
そう思ったのに。
リュカはやはり魔物だった。
抵抗する素振りは見せかけだけ。
すぐに腰を揺らし、男を欲しがる淫乱な仕草に、頭に血が昇った。
「あ・・・ひぃい・・・兄さん、兄さん、もっとぉ・・・」
左手で首を押さえつけ、一気に腰を進め、リュカの最奥を激しく突く。
リュカの悲鳴が上がり、繰り返すうちにそれは快感の喘ぎに変わっていった。
私の動きに合わせて、腰を揺らし、ぎゅうぎゅうと締め付ける。
リュカのなかはうねり、収縮して私を搾り取ろうとうごめいた。
あえて暴力的に犯してやろうとおもっても、リュカはどんな動きにも敏感に応え、悲鳴ともつかない喘ぎを上げた。
まるで、この行為が好きでたまらないと言うように。
腰をくねらせ、私に合わせて動き続ける。心臓が弾けそうなほどの興奮に身体がしびれた。
「リュカ・・・絶対に逃さない」
うっかり本音をもらすほど、私はリュカに夢中だった。
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