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第四幕〜終わりの始まり〜

161 【リュカ】兄の部屋で ※

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背中に彫刻が施されたドアの感触を感じる。
花や果実が美しく彫り込まれたドアはゴツゴツと背中にあたり、角度を変えると花びらが刺さった。
でも、すぐにどうでもよくなった。
廊下を歩く音も人の気配も何もかもが消え、俺の世界は兄さんだけ。

大柄で筋肉質な兄さんが俺をドアに押し付けると、まるで閉じ込められたように感じる。しっとりした唇が俺の唇をおおい、招くように口を開くと、柔らかくて熱い舌がすかさず侵入してきた。
俺は命綱でもあるかのようにその舌にきつく絡みつき、両手を兄さんの背中にまわし、絶対に離さないとしがみついた。
体中、全部の細胞が兄さんを求め、どくんどくんと耳の奥で血が流れている。

兄さんの筋肉をなぞるように鍛え上げた首筋と盛り上がった肩の筋肉を手のひらで感じた。体中を狂ったように荒れ狂う、この奔流から取り残されたくない。熱い唇が口の中を縦横無尽に跳ね回り、やわらかな粘膜の感触を楽しみながら、もつれ合った。
溶けてしまいそうに熱く、ぴったりと絡まり合いうねるふたりの唇の境界がわからない。

びりびりと火花が飛び散り、自分の体を兄さんの身体に押し付けた。そうすれば肌の奥にはいりこめるかもしれない。胸も腰も必死ですりつけ、布の擦れる感触と伝わる体温に甘いため息がこぼれた。体の奥からきた震えは全身に広がり、ひざに力が入らない。
脳は溶け、体中がうずく。ずるずると落ちてしまいそうな身体の位置を保つため、片膝を兄のひざに絡めた。俺自身はもうはちきれそうに勃起して、ふたりをさえぎる布を突き破ってしまいそうだ。
兄さんに触れたい。敏感なそこで触れ、兄の体温をじかに感じたい。
たまらず腰を動かすと、兄は喉の奥で笑ってもう片方の足をすくい上げ、俺を抱きあげた。

綿のように軽々と俺を抱えあげ、大股で部屋の奥に向かった。いきおいよく倒れこむと、ベッドが抗議するようにきしんだ。

兄は俺を組み敷き、獣が獲物を狙うように俺をじっと見つめている。熱い視線に焼け焦げそうだ。視線は俺に留めたまま、首元のタイを緩める。
期待で息を飲んだ。何をしようとしているのか明確な意図をもったその仕草に、腰がずくっと熱くなる。魔法にかけられたように兄の手元から目が離せない。
兄の後ろでは蝋燭がオレンジ色の明かりを揺らめかせている。毛先が金色に輝き、兄さんをかたどっている。表情は影になって見えない。ただ、荒い息遣いが、ますます俺を煽った。

俺も首元のタイに手をかけ、ほどこうとしたが、指先がもつれて言うことを聞いてくれない。
あきらめて上着を脱ごうとしたが、腕を引き抜くことすらできず、まるで捕獲された獣のように、身をよじった。

「待ってろ」

クスクスと笑いながら兄が上着とシャツを投げ捨てた。
おとなになってから初めて見る兄さんの身体。
昔一緒に風呂に入ったときよりも、背も伸びたし、弾力のある筋肉におおわれ、ひとまわりもふたまわりも大きくなったように思える。
細身だった身体はガッチリとして、肩と腕の筋肉は盛り上がり、胸から腹にかけての筋肉はきれいに割れていた。

(なんてきれいなんだろう)

俺は魅せられたように一つひとつの筋肉を目でたどった。
触れたくてたまらないのに、体格がちがうせいで兄さんに手が届かない。
じっと見つめると、身体にはちいさな傷痕がたくさんあった。
一番大きい左肩の傷に目が留まる。
その傷を見た途端、舐めたくてたまらなくなった。
兄さんの傷を全部舐めたい。皮膚が薄くなっている傷痕を舐めたら、兄さんはどんな声を出すのかな。
おいしそう・・・

「獲物を狙う子猫みたいだ」

俺の顔を見て、兄が笑った。
子猫?ぷっと頬をふくらませると、兄はまた笑った。
そして、肩と上着の間に手を入れ、やさしく上着を脱がせる。そして、首元のタイへ。
兄の手は驚くほど優しくて、丁寧だった。
その指先がこれから素肌に触れるのかと思うと、ぞくぞくが体中に広がり期待感ではち切れそうだ。

兄の指がそっと触れ、そして離れていく。また触れ、離れるの繰り返し。
兄に服を脱がされながら、触れた指の感触と温かさに身がふるえ、期待感が高まっていく。

兄は手のひらでゆっくりとさぐるように俺の身体をまさぐった。
まるで本当に俺がいるのか確かめるような、ゆっくりと慎重に触れるその動きに我慢できなくなってきた。
俺は兄の首に手をまわし、引き寄せると、唇をもとめた。
しっとりとした、固い兄さんの唇。女のやわらかな甘い唇とはちがう、でも、極上の蜜の味。
髭がざらつき、その男っぽい感触にまた身がふるえた。

兄はさっきまでの性急さをどこかにおいてきてしまったように、ゆっくりと、蝶が遊ぶように俺の唇に触れている。
触れるゴツゴツとした手は驚くほど、やさしい。

やさしさに満たされながら、でももっと欲しくて兄の髪の中に手を差し入れ、引き寄せると、兄はその合図に敏感に反応し、キスは熱を増してきた。

もっと、もっと満たされたい。

俺が大きく口を開けて兄の舌を受け入れようとすると、兄は小さくうめき、あたたかな身体が重なり合った。





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