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第三幕〜空白の5年間 リュカ〜
95 【リュカ】ルームメイト
しおりを挟む新しい学年に進級する前に、俺にはやっておきたいことがあった。
舎監に申し出て、一人部屋を解消してもらうことだ。
高位貴族の子弟たちは誰も俺と同室にはなりたがらないが、俺が一人で一番いい部屋を使っていることも気に入らないらしく、俺は陰口と批判の的になっていた。
「ああ、そうですよねえ・・・」
舎監の反応は予想はしていたが、歯切れが悪かった。
面倒ごとを持ち込んだやつだと思っているのが態度にありありと出ている。
「なかなか難しいんですよ、その、みなさん、いろいろと・・・ね」
初老の舎監は、保護者からの信頼も厚いと聞く。俺を高位貴族の子弟と同室にしないことも、その信頼には含まれているのだろう。俺が陰口に耐えればいいのにと思っていることがありありとわかった。
だが、俺としても先のことを考えると、寮の部屋ぐらいで敵を作るのも、贅沢に慣れすぎるのも怖かった。
「僕は、誰でもかまいません。爵位や身分にもこだわりません。ひとりで部屋を使うことが適切ではないのであれば、正しい状態にしていただきたいだけです」
「いえ、その適切ではないのですが、そうでもなくてですね・・・」
「どちらなんですか」
「あー、その、リュカ様はランベール家の次男様でありますから、お使いになっている部屋は寮の中でも最も居心地がいいお部屋です。確かに二人部屋をおひとりで使われておりますので、ご意見がないわけではないのですが・・・」
「そのご意見っていうのは僕に対する苦情なのでしょう?ですから、どなたかと同室にしていただいて結構ですので」
「ですが、リュカ様と同室になってもいいという高位貴族の方がですね、たまたまみなさん、昔からのおお付き合いがあるとかで他の方との相部屋を希望されているものですから」
らちが開かない。ここは引き下がるしかないんだろうか。
そう思ったとき、後ろから声をかけた人がいた。
「僕でよろしければ、喜んで相部屋を使わせていただきたいのですが」
振り返るとそこにいたのは、背が高い赤毛の男子生徒だった。くしゃくしゃなくせ毛とそばかすとガリガリな体躯をもつその少年は、たしか、どこかの男爵家の子弟だったはず。
赤毛はにっと笑った。
「誰もいないのなら、僕でもいいんでしょう?」
舎監はぎょっとしたように赤毛の少年を見た。口をポカンとあけ、そして閉じた。
「うーん、そのですね。相部屋には身分が・・・」
「だって、ここは全員が対等な身分でしょう?学生なんですから」
赤毛が正論で言い返すと、舎監は本音と建前に引き裂かれ、「うーん」とうなり、言葉をうしなってしまった。
「僕が同室ではどうですか?」
赤毛は俺に向かって問いかけた。
「イヴァン・ガルシアです。平民ですが、最近男爵家の息子になりました。父が爵位をいただいたのでね。よろしければ、リュカ様の同室者として認めていただけませんか?」
俺に手を差し伸べてきたイヴァンは、気さくで、とても下心があるようには思えなかった。
「ぜひ」
迷っている場合じゃない。それに元平民の男爵家なんて、俺みたいなもんだ。
握り返したイヴァンの右手はさらりとして、冷たかった。
「まあ、ご本人がよろしいのなら・・・」
舎監の歯切れは悪いが、否定することもできない。これなら俺たちが勝手に決めたと言い訳も立つと考えたのだろう。
「わかりました。今日からイヴァン君はリュカ様と同室者として許可しましょう。ただし、リュカ様にご迷惑をおかけすることのないように。わかりましたね?」
「了解いたしました」
イヴァンは慇懃に舎監に頭を下げると、見えないように俺にウインクして合図してきた。
まあ、何か企みがあるのかもしれないが、いいだろう。
イヴァンの企みはすぐにわかった。
「この部屋は、一番警備がゆるいんですよ」
イヴァンは新興貴族ともいうべき、成り上がり貴族の息子だった。
もともと貿易を元手に巨万の富を築き上げた父が叙爵され、これまで以上に貴族相手に商売の足場を固めようと学園に送り込まれたそうだ。
だが、彼は貴族社会の冷ややかさが性に合わず、しょっちゅう学園を抜け出しては、家に戻って商売の手伝いをしていた。
「オレ、人を見る目には自信があるんですよ。リュカ様なら、そんなことにめくじらたてないだろうってね。だいたいあんた、おっと失礼。あなたは下町出身でしょ?」
ぎょっとしてイヴァンを見返すと、イヴァンはニヤリと笑って口元を指差した。
「アクセントに癖があるんですよ。時々、逆になっているアクセントがあるんです。多分矯正されたんだろうけど、直しきれなかったんじゃないんですか?」
ああ、そういうことか。なら隠しても仕方ない。
「俺は、公爵の妾腹だ。ただ、公爵家ではそれを必死で隠して、俺を嫡男扱いしていたんだ。多分、兄上の代わりに軍役に出すつもりだったんだろうが、当てが外れていまここにいるってことだ。おまえ、余計なことは言うなよ」
「ははっ。それが素かよ。育ちが丸わかりだな。改めて、イヴァンだ。よろしく」
イヴァンはまたニッと笑い、俺に右手を差し出してきた。
今度は、先ほどのような儀礼的な握手ではなく、心から、友になろう、という呼びかけに思えた。
「リュカ」
そう名乗ってイヴァンの手を握り返すと、イヴァンは俺の手を両手で握ってぶんぶんと上下に振った。
初めてできた、俺の同性の友達だった。
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