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第二幕〜マティアス〜

75 逢瀬 ※※

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ベネディクトが銀のトレイに乗った手紙を持って部屋に入ってきた。
薄桃色の封筒。イネスだ。
まあ、そろそろだとは思っていたが。
せっかくリュカと朝食の時間を楽しんでいたのに。

私は、リュカに無断で触れている罪悪感からか、ついつい必要以上にリュカを甘やかすようなそぶりをしてしまう。
今朝はちらちらと私を見ているので、「膝に座るか?」と声をかけたらいそいそと膝に座ってきた。
小さな口の中に、パンやチーズをちぎって入れてやると、嬉しそうにもぐもぐと口を動かしている。
目を煌めかせて私を見るリュカには邪念は全くない。
ただ純粋に、兄に甘えているだけだ。
母が亡くなり、兄弟とも引き離され、親愛の情を示す相手が私しかいない。ただそれだけ。
だが私には、私に触れるリュカの暖かな体と尻の感触が気になって仕方なかった。
私が明確な意思を持ってリュカに触れたら、一体どんな顔をするのだろう。

頬を染めるのか、それとも嫌悪されるのか。
甘えるリュカを失うのはあまりにも辛い。
必死で自制して、リュカに必要以上に触れないようにカトラリーを握りしめると、しっとりと汗の感触がした。

「兄上?」

尋ねるようなリュカの視線にはっと気がつく。忘れていた。
私は小さくため息をつき、イネスからの手紙に目を走らせた。
手紙には母の葬儀以降の日々への見舞いと、今日訪問したい旨が書かれていた。

「了承したと伝えてくれ」

ベネディクトに伝えると、リュカの肩がしゅんと落ちたのがわかる。
私も同じ気持ちだよ。
お前との時間を邪魔されたくないんだ。
肩をそっと撫でると、リュカの細い肩が小さく震えた。

食事をすませると、リュカは逃げるように去って行ってしまった。
貴重な休みを一緒に過ごしたいのに。
結局その休みはイネスに邪魔をされ、リュカと過ごすことはできず、不満な心を抱えたまま寮に戻る羽目になった。


次こそは。寮に帰る馬車の中、考える。
次こそはもっとリュカと過ごしたい。
夜のリュカも魅力的だ。
だが、バレたら嫌われてしまうかもしれない。目を覚まさないように考えないと。
リュカの体に負担がかからない眠り薬はないだろうか。
父がモラン医師を処分しなければ、こんな時に頼りになっただろうにと舌打ちする。

それに、昼のリュカとも過ごしたい。
リュカの私を見る瞳。
この世で一番私を愛して信頼しているとその瞳はいつも語っている。

「にいちゃんが大好きだ」

言葉に出さなくてもリュカの気持ちがいつも伝わってくる。
リュカの細い体をぎゅっと抱きしめ、「私もだよ」と答えられる日が早くくればいいのに。

イネスも余計な手紙などよこさなければ・・・手紙。手紙か。ふむ。何かの役にたつかもしれんな。



翌週、屋敷に帰ると、リュカに弟妹への手紙を書かせた。
出来栄えは予想以上だった。
つい、震えがくるほど浮かれてしまう。
思いもよらないほどの切り札になるかもしれない。

リュカの手紙を胸ポケットに入れると、頬を真っ赤に染めたリュカが愛しくてつい口付けをしてしまった。
意識のあるリュカに手を出してはいけないのに。
怖がらせてしまうかもしれない。
寝ているリュカに触れる楽しみを知ってしまってから、チャンスがあればつい触れたくなってしまう。
身体中撫で回し、愛撫し、そして、私にも触れさせる楽しみを知ってしまった後では、素知らぬ顔も辛くなってくる。

腕の中でとろけるリュカを抱き寄せると、唇を吸った。
桃の香りと温かい体に甘い唇。全てが私を狂わせる。

「にいちゃん、誰かに見られたらまずいんじゃ・・・」
「見られてもいいだろ。もう報告する相手がいないんだから」

母の親族は全て解雇した。
父は不安定だ。
私に逆らう愚かな召使いなどもういない。
そうだ。ならいいじゃないか。

歯止めは効かない。
リュカの麻薬のような唇に溺れ、いつしか、ベッドの上で組み敷いた。

リュカが私に触れると、もう止められなくなった。
このままリュカに触れなければ死んでしまうかもしれないと思うほどの強い衝動に突き動かされ、リュカの首筋に吸い付いた。
このまま奪ってしまいたい。
気が狂いそうなほど、欲しい。
リュカの乳首を吸うと、甘えるような声でもっと欲しいと訴えた。
身を震わせ、そこから先を求めてくる。
リュカが欲しい。欲しくてたまらない。

だが、怖い。恐ろしい。
リュカを傷つけてしまうのが、怖い。
そんな自分が恐ろしい。
震えるほどの恐怖が襲ってきた。
ぐるぐるとめまいがするほどの恐怖に吐き気がした。
これ以上は、ダメだ。
リュカを壊してしまう。

荒い息を吐き、リュカから必死の思いで体を離す。
だが、指先は吸い付いたようにリュカの乳首や首筋から離すことができなかった。
ああ、耐えなければいけないのに。

そのとき、リュカが私の腰に自分の中心を押し付けてきた。
その熱い塊は、私の理性を一瞬で崩壊させた。
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