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第二幕〜マティアス〜

85 間奏曲 過去

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公爵夫人のパーティー。

「何か演奏してちょうだい」

公爵夫人が10歳の次男リュカに向かってピアノを指差した。
数年前、病弱のため療養していたと公表されたリュカは、公爵家で一人だけ黒髪であり、夫妻のどちらにも似ていない顔立ちからも、夫人が生んだ子供ではないことは公然の秘密だった。だが、夫人はリュカを自分の子として皆に紹介しているため、触れる者はいない。だが、端々でリュカをいじめるような言動が見られていた。
長男のマティアスがいれば、止めただろう。だが、マティアスは公爵の名代として別件に対応していて不在だった。
そこにいたのは、公爵夫人の取り巻きと、長男の婚約者候補であるイネスだけ。
誰も次男をかばう者はいなかった。

リュカはおずおずとピアノの前に座った。
この子供がピアノが得意ではないのは皆知っている。だが、公爵夫人の命令に逆らえないことも、また知っていた。

ぽろん

子供の指が触れ、ピアノが音を弾く。

ぽろん、ぽろん

指はいたずらにさまよい、困りきった心を写すような所在なさげな音が響いた。

そのとき、少年の脇にすっと少女が座った。

「小品84番を。あなたは私にあわせて」

少女は小声で言うと、見事な指さばきで曲を奏で始めた。
部屋を満たす、清らかな水のような音。木々の若葉や木漏れ日が見えるような演奏に、客は感嘆の声を漏らした。

「歌って」

少女の合図に合わせ、リュカの喉から信じられないほど美しい高音が聞こえてきた。
天使の歌声のような、見事なボーイソプラノが伸びやかに天に向かう。ビブラートが空気を振るわせ、ピアノの音と混ざり合い、そして余韻と共に静けさが訪れた。

わっと歓声が起き、客たちは拍手喝采を送った。

「素晴らしいですわ」
「まさか即興ですの?」
「そんな、上手すぎますわ」

さまざまな声の中、公爵夫人だけは唇をきつく結び、歯を噛み締めていた。

「ふふふ、私たち、いいコンビじゃない?」
少女が少年に話しかける。
「・・・そうかも。ありがとう」
少年は照れたように言い、視線を逸らした。

少女は少年の耳元に口を近づけた。

「すごくいい相性だと思うの」

そして素早く耳に口付けると、立ち上がり、拍手に応えるようにお辞儀した。

少年は耳を押さえ、唖然として少女を見つめた。
少女はいたずらっぽく、そして少し含みを持たせて笑った。

「素晴らしかったね。悔しいほどだよ」

拍手しながら、この家の長男が部屋に入ってきた。

「マティアス!」

少女が長男に近づき、腕を組む。

「いないから寂しかったのよ。聞いてくれたの?ふふふ」
「イネスの新しい特技を発見したよ。素晴らしいものだね」
「ありがとう。結婚したら毎日お聞かせするわ」
「それは光栄だね」

客の視線は若い恋人たちに移った。
先ほどまで見事なボーイソプラノを披露した少年が顔を伏せ、小刻みに震える手を押さえながら、蒼白な顔で俯いていたことに気づいた者はいなかった。

そして、長男が素早く次男に目を走らせたことも。
誰にも、気づかれなかった。
お互いにすらも。




************************************************



ここまでで、マティアス編終了です!お付き合いいただきましてありがとうございました。
いままでリュカ編とマティアス編の複線で進んできましたが、今後は時系列が一本になり、ドカドカと進んでいきます。次の章で終了です。
ですが、恒例の・・・と言っては何ですが、整理のため、しばらくお休みいたします。
ちょっと加筆もいたします(書き忘れていたことがありまして・・・汗)
こねっこねに練り倒して、怒涛の展開に持って行きたいのですが、できるかな。
(ちなみに大筋の展開は連載開始前から決まっています)

さて、そして、ここまで読んでいただいた読者様に質問があります。
エンディング希望大募集です!

1 ハピエン(ハッピーエンド)
2 メリバ(本人にとってはハッピーエンド、はたから見たら?)
3 バッドエンド
4 リドル(どうなったかは読者に任せる、というエンディング手法)

どれがいいですか?
よろしければ、コメントにてご意見をください。
エンディング希望に関してのみ、コメントは非公開にさせていただきます。
募集期間は再開まで、とさせていただきます。
遠慮なくどしどしいただけると嬉しいです。

ここにきて作者迷っておりまして・・・読者様のお力を借りよう作戦です。よろしくお願いします!

藍音 拝
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