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第二幕〜マティアス〜

63 15歳 ふれあい

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婚約を告げてから、リュカはよそよそしくなり、目も合わせてくれなくなった。
他人行儀に「兄上」と冷たく言われると、胸の奥に冷たいしこりができるような気がした。

もう少しリュカが大人になればきっと理解できるだろう。
私はリュカだけを愛しているということ、そして、結婚は仕方のないことだと。
そう言い聞かせては見るものの、やはりリュカがそばにいない日々は虚しかった。

秋には寮に入るため、リュカと離れてしまう。
本当は、家に残ることもできた。しかし、リュカのそばにいて何もしないでいられる自信がなかった。
時々夢を見る。
その夢の中では、いつもリュカはおびえ、泣きながら血を流していた。
そして何よりも恐ろしいことに、その夢を見た後私は自分でも信じられないほど固く勃起していたのだ。

(リュカ、すまない)

心の中で詫びながら、高ぶりを慰める自分を嫌悪した。


でも、このままでいるのは辛い。
私はリュカに和解を申し入れた。

「おれ、にいちゃんとお風呂に入りたい」

リュカがそう言ったとき、目の前がぐるりと一周したような気がした。

(リュカは、ここまで幼かったのか!!)

私は二人で釣りに行きびしょびしょになって一緒に風呂に入ったことを思い出した。
この幼い弟は、何もわかっていない。
ただ純粋に甘えたかっただけなのだ!
私がリュカに対する劣情で悶々としていた時も、ただ純粋に兄と温もりを求めていただけだったのだ。
リュカに対して欲望を感じていた自分を心から恥ずかしく思った。

兄らしくあらねばならない。
兄なのだから、弟に欲情してはならない。
リュカに絶対に悟られてはならない。
私がリュカを弟以上に思っていると気づかれてはならないのだ!

「そ、そうか、わかった」やっと喉から出た声は上ずっていたように思う。
「は、ははは・・・リュカは、甘えん坊なんだな・・・ははは」

自分でも笑えていないことはわかっていた。
引きつった顔で笑い声をあげる私のことを、リュカは不思議そうに見ていた。


(兄らしく、兄らしく・・・)

リュカとともに入る風呂は拷問のようだった。
天使のように純真なリュカは、惜しげもなく裸体をさらし、気持ちよさそうに湯に揺られている。
私が背中をこすってやると、嬉しそうにきゃっきゃと笑う。
白い背中も、その下に続く桃のような尻も、サクランボのような乳首も見たくてたまらないが見てはならない。
見たら最後、反応してしまう。

それなのに、リュカは私の膝に乗りたがる。
顔を見られないように抱き寄せると、こともあろうにキスを仕掛けてくる。
自分の身が危険にさらされていることを全く理解していない!
そして、そんなことを言っては兄失格になってしまう。

じゃれるような指先が私の体を這い、誘惑しようとする。
いや、リュカにはそんな意図はないんだと必死で堪える。

(がまん、がまん、がまん・・・)

でも私だって若いし、愛しい者が誘惑するように触れてくれば、どうしても反応してしまう。
リネンで隠そうとそれは明らかだった。

しかも無邪気なリュカは、面白がってそれを触ろうとするのだ。

「ダメだよ」お前を襲ってしまうから。

そう止めるのに、リュカは納得いかないようだ。
単なるおもちゃか何かだと思っているのだろうか。

でも、触って欲しい。
それは甘美な誘惑だった。

(いや、ダメだ。絶対に我慢できなくなるから)

そう言い聞かせると、耳の奥であの男娼の細い悲鳴が聞こえてきた。
冷たい水を頭からかけられたような気分になる。
リュカは小さすぎる。
身長もまだ私の胸までしかないし、体つきも華奢すぎる。
無体なことをしたら簡単に壊れてしまうだろう。

「腸を破ってしまう」

ベネディクトの恐ろしい言葉を思い出した。

「お前は小さすぎる」と本音を漏らすと、毎年背が伸びてると言い返してきたリュカに苦笑が漏れる。
そうだな。早くもっと大きくなってくれ。大人になるのを待ってるよ。

「にいちゃんのケチ」

そう言って湯船から出たリュカの後ろ姿はほっそりと小さく、やはり紛れもなくこどもだった。

(ああ、今日も無事に終わってよかった。リュカを傷つけずにすんでよかった)

ほっと息を吐く。
私の世話をしにきたベネディクトが気の毒そうな、しかし一方で私を励ましているような複雑な表情で私を見た。

「何も言うな」

そう言って風呂から上がる。
寄宿舎に行くまでのこの風呂の時間は、地獄のような忍耐を必要としたが、でもやっぱり幸せな時間だった。



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