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第二幕〜マティアス〜
59 13歳 母の脅威
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私にとって今大切なのはリュカだった。可愛いリュカ。私が守ってやらなけれは母に殺されてしまうかもしれない。
私は、この秋からは学園に入学し、寄宿舎に入ることが決まっている。公爵家の嫡男として生徒会に入るよう、すでに要請を受けていた。
しかし、そんな場合ではない。
平日のほとんどの時間を不在にしたら、母はいつかリュカを殺してしまうだろう。
その未来には耐えらえれない。
「リュカに毒を盛るのはおやめください」
私は正面から母に抗議した。
母はとぼけるかもしれない。だが、牽制にはなるだろう。
母はデイルームで優雅に紅茶を口に運びながら、私をちらりと見た。
「なんのこと?」
「知られていないと思っているのですか?何度もリュカに薬を盛ったでしょう?これ以上、リュカに薬を飲ませようとするのなら、父上に言いますからね」
母はカップをソーサーにおいた。
「勝手な憶測でものを言ってはなりませんよ。あなたらしくもない」
微笑んだ母は完璧な貴婦人に見えた。しかし、その中身は真っ黒だ。
「その通りですね」
「子を殺すことも人の道に外れていますよ。お忘れなく。たとえそれが・・・遠縁の子であってもね」
「ふふふ、おかしなことを。当たり前でしょうに」
「ははは、そうですね」
私は紅茶を口に含んだ。
なぜかほろ苦く、哀しい味がした。
そして、父だ。
「この秋から寄宿舎に入るのは取りやめにします」
私は父に宣言した。
父は執務の手を止め私を見上げた。私は、あの机に向かう父を冷めた目で見返した。
「しかし、第二王子殿下が同級にいらっしゃるのだ。お前がお側で世話をすることを期待されている」
「いとこのメイソンにやらせてください」
「第二王子殿下の側近に取り立てられるチャンスを他の者に譲るというのか?」
「必要ありません」
私はイライラして父を見た。
「側近など。そのようなコネではなく実力で認められればいいのです。私は第一王子の側近になります」
「うむ・・・」
父は反応に困ったらしく黙り込んだ。
今の第一王子は優秀で母方の家柄もよく、当然のように立太子を期待されている。
第二王子も優秀だが、王位を継ぐチャンスは少ない。
そして、側近になるのなら、将来の王である王太子の側近の方がはるかにメリットが大きい。
「父上は、母上がリュカを傷つけているのをご存知ないのですか」
「リュカ?」
「あなたの二番目の息子ですよ。それすら覚えていないんですか?」
父はきまり悪げに視線を反らした。
「もちろん覚えている。アディに似た黒髪の子だ。だが、グウェンが?」
思わず舌打ちしてしまう。この人は一体何を見ているのか。関心がなさすぎる。
「このままでは殺されてしまいます。アディは自分の息子が殺されたら許さないでしょうね。随分と愛情深いたちなようですし」
「お前は何を知っているんだ?」
父の瞳が光った。
「別に。必要なこと以外は何も。ですが、寄宿舎には入りません。ここから通います。いいですね」
「・・・わかった」
父は折れるしかなかった。
あんな人でもアディのことは愛しているらしい。その子どものことはどうだか知らないが。
リュカに万一のことがあってアディを悲しませるのは嫌なのだ。
「ただし、中等部のみだ。3年。その間になんとかしろ」
「わかりました」
私が頷くと、父は目で了解を知らせ、指先をドアに向けて振り、書類に目を移した。
もう、私は父の意識から追い出されたらしい。
私は静かに書斎を出た。
だが、その数日後、事件が起きた。
後で聞いた話だが、アディが出産時に大量出血し、命が危ないと連絡があったらしい。
家族で夕食をとっていた父は蒼白になり、黙ってナプキンで口元を拭うと、そのままアディの元に駆けつけた。
母は苛立ちの全てをリュカにぶつけた。
「この、身持ちの悪い娼婦の息子風情が!」
小さなリュカの体がゴムまりのように跳ねた。
リュカは必死で体を丸め、小さくなっているが、狂乱した母は加減を知らず、リュカを蹴り続けた。
(リュカが殺されてしまう・・・!)
私は必死で母を止めた。ベネディクトも母を説得しようとしたが、興奮した母は聞く耳を持たなかった。
仕方がない。私は切り札を出した。
リュカは遠縁ではなく、父の愛人の子だと私が知っていることを母に伝えたのだ。
母が静かになった時には、リュカは傷だらけになっていた。
母の靴についていた飾りのビジューがリュカの柔らかい肌を傷つけ、身体中のあちこちから出血していた。
「リュカ、大丈夫か?」
私が聞くと、リュカは笑った。
まるで、大丈夫だ、と告げるように。
このままではダメだ。いつか必ずリュカは母に殺されてしまう。
なんとかしなければ。
私は、この秋からは学園に入学し、寄宿舎に入ることが決まっている。公爵家の嫡男として生徒会に入るよう、すでに要請を受けていた。
しかし、そんな場合ではない。
平日のほとんどの時間を不在にしたら、母はいつかリュカを殺してしまうだろう。
その未来には耐えらえれない。
「リュカに毒を盛るのはおやめください」
私は正面から母に抗議した。
母はとぼけるかもしれない。だが、牽制にはなるだろう。
母はデイルームで優雅に紅茶を口に運びながら、私をちらりと見た。
「なんのこと?」
「知られていないと思っているのですか?何度もリュカに薬を盛ったでしょう?これ以上、リュカに薬を飲ませようとするのなら、父上に言いますからね」
母はカップをソーサーにおいた。
「勝手な憶測でものを言ってはなりませんよ。あなたらしくもない」
微笑んだ母は完璧な貴婦人に見えた。しかし、その中身は真っ黒だ。
「その通りですね」
「子を殺すことも人の道に外れていますよ。お忘れなく。たとえそれが・・・遠縁の子であってもね」
「ふふふ、おかしなことを。当たり前でしょうに」
「ははは、そうですね」
私は紅茶を口に含んだ。
なぜかほろ苦く、哀しい味がした。
そして、父だ。
「この秋から寄宿舎に入るのは取りやめにします」
私は父に宣言した。
父は執務の手を止め私を見上げた。私は、あの机に向かう父を冷めた目で見返した。
「しかし、第二王子殿下が同級にいらっしゃるのだ。お前がお側で世話をすることを期待されている」
「いとこのメイソンにやらせてください」
「第二王子殿下の側近に取り立てられるチャンスを他の者に譲るというのか?」
「必要ありません」
私はイライラして父を見た。
「側近など。そのようなコネではなく実力で認められればいいのです。私は第一王子の側近になります」
「うむ・・・」
父は反応に困ったらしく黙り込んだ。
今の第一王子は優秀で母方の家柄もよく、当然のように立太子を期待されている。
第二王子も優秀だが、王位を継ぐチャンスは少ない。
そして、側近になるのなら、将来の王である王太子の側近の方がはるかにメリットが大きい。
「父上は、母上がリュカを傷つけているのをご存知ないのですか」
「リュカ?」
「あなたの二番目の息子ですよ。それすら覚えていないんですか?」
父はきまり悪げに視線を反らした。
「もちろん覚えている。アディに似た黒髪の子だ。だが、グウェンが?」
思わず舌打ちしてしまう。この人は一体何を見ているのか。関心がなさすぎる。
「このままでは殺されてしまいます。アディは自分の息子が殺されたら許さないでしょうね。随分と愛情深いたちなようですし」
「お前は何を知っているんだ?」
父の瞳が光った。
「別に。必要なこと以外は何も。ですが、寄宿舎には入りません。ここから通います。いいですね」
「・・・わかった」
父は折れるしかなかった。
あんな人でもアディのことは愛しているらしい。その子どものことはどうだか知らないが。
リュカに万一のことがあってアディを悲しませるのは嫌なのだ。
「ただし、中等部のみだ。3年。その間になんとかしろ」
「わかりました」
私が頷くと、父は目で了解を知らせ、指先をドアに向けて振り、書類に目を移した。
もう、私は父の意識から追い出されたらしい。
私は静かに書斎を出た。
だが、その数日後、事件が起きた。
後で聞いた話だが、アディが出産時に大量出血し、命が危ないと連絡があったらしい。
家族で夕食をとっていた父は蒼白になり、黙ってナプキンで口元を拭うと、そのままアディの元に駆けつけた。
母は苛立ちの全てをリュカにぶつけた。
「この、身持ちの悪い娼婦の息子風情が!」
小さなリュカの体がゴムまりのように跳ねた。
リュカは必死で体を丸め、小さくなっているが、狂乱した母は加減を知らず、リュカを蹴り続けた。
(リュカが殺されてしまう・・・!)
私は必死で母を止めた。ベネディクトも母を説得しようとしたが、興奮した母は聞く耳を持たなかった。
仕方がない。私は切り札を出した。
リュカは遠縁ではなく、父の愛人の子だと私が知っていることを母に伝えたのだ。
母が静かになった時には、リュカは傷だらけになっていた。
母の靴についていた飾りのビジューがリュカの柔らかい肌を傷つけ、身体中のあちこちから出血していた。
「リュカ、大丈夫か?」
私が聞くと、リュカは笑った。
まるで、大丈夫だ、と告げるように。
このままではダメだ。いつか必ずリュカは母に殺されてしまう。
なんとかしなければ。
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