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第一幕〜リュカ〜

25 10歳 辛い現実 ※

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時々つまらない茶会を挟みながらも、俺たちの日常は続いている。
勉強、兄、社交。
俺の日常。

「ねえ、にいちゃん」

俺はそう言うと、兄の膝の上に座る。
そしてそのまま、唇を重ねる。
兄は嫌がることもなく、俺を抱きしめるとそっと口を開いた。
温かい身体の感触に包まれながら、しっとりと舌が絡まりあうと、腹の奥が熱くなりうずうずした。

「にいちゃん、にいちゃん・・・」
「リュカ、かわいいリュカ」

初めて口づけした日から、毎日繰り返される俺たちの儀式。
兄の自由時間に。
そして、兄の授業が終わり、次の家庭教師が来るまでのわずかな時間に。
兄に招き入れられた学習室の中で、秘密のキスをする。

見つかるかもしれないと思うと余計にゾクゾクした。

「にいちゃん」

兄のシャツから手を入れ、兄の肌に触れると、ますます背徳の匂いが強く香る。
すべすべとした兄の肌。
指先からもたらされる快感に陶然となり、全身が溶けそうになってしまう。

「リュカ、ダメだよ」

兄は俺の手を優しく掴み、シャツの外に出した。

「なんで。もっと触りたい」

俺がふくれると、兄は困ったように笑い、「ダメだからだよ」と優しくささやいた。
そんなの理由にならない。

「にいちゃんは触りたくないの?」
「いや、そういうわけじゃ・・・でもお前は小さいし、私たちは兄弟だし」
「半分だけだもん」
「半分でもだよ」

俺だって本当は分かってる。
分かってるけど、触りたい。兄に、もっと、もっと。

「にいちゃんは、俺のこといらないの?」

つい、つっかかってしまう。
俺は兄のことが好きで、近づきたくてたまらないのに。
なんでにいちゃんはそうじゃないんだよ。

「リュカ・・・そんなはずないだろう?」兄の声は優しく、落ちついていた。「お前は一生私の弟だし・・・それに大切な存在だよ、誰よりも」
「本当?」
「もちろん」
「じゃあ、ずっと、これから先も一生にいちゃんは俺のもの?」

なぜそんなことを言ってしまったのかわからない。だが、兄の身体がぴくりと動き、見えない壁が作られたように感じた。

「リュカ・・・私は嫡男だから、結婚して子孫を残さないといけないんだよ」
「どういうこと?」

苦しげに紡ぎ出された言葉が何を意味するのか、その時には分かっていなかった。

「私はいずれ、結婚する。それがこの家の嫡男として生まれた私の責務だから」
「け・・・こん?」

意味がわからない。結婚っていうのは、閣下と奥様の関係?
二人は仲が良いとは言えないけれど、世に認められた正式な関係・・・夫と妻。二人で一つの存在。
そこに弟の入る余地はない。

・・・つまり、どれだけ欲しくてもにいちゃんが手に入らない、ということ?
どれだけ、すきでも?

おれの、にいちゃんが?
おれの、大好きな、にいちゃんが?
ほかのひとと、けっこんする?
おれじゃない、おんなと?

「なんで」
「まだおさないからわからないか。お前は私の弟だ。どれだけ可愛がってもお前と子孫を残すことはできない。私は唯一の嫡男だから子を残さないとならない。わかるか?」
「わからない」
「リュカ」
「わからない」
俺は両耳を手でおおい、頭を振った。
そうすれば世間から逃げ出せる、とでも言うように。

「・・・リュカ」
「なにも・・・なにもわからない」

兄さんの話をこれ以上聞きたくない。
ただ、この場から逃げ出したい。

「部屋に戻る」

「リュカ」なだめるように触れた兄の手を、強く振り払った。
「いやだ!」

逃げるように走り去り、叩きつけるようにして自室のドアを閉めた。

兄さんの顔を見たくない。兄さんだけが俺がここにいる理由だったのに。
でも、ここから出てどこに行けるっていうんだ?
俺はただの子どもだし、公爵様に逆らえるはずもない。

ドアに背をもたせかけながらずるずると床に座り込んだ。
涙なんか出ない。
ただ、引き裂かれたように胸が痛む。

本当は知っていた。
俺と兄の立場は違う。
公爵様として仰がれる閣下の跡取りである兄。
公爵様が奥様と結婚した理由も。どれだけ寵愛を受けていても母があいじんのままでいる理由も。
理解していたかと言われれば、全てではないが、兄が俺とキスしているって知られてはまずいってことぐらいわかっていた。
でも、心の奥底で、なんとかならないかと思っていたんだ。
そう、本音の部分では兄を俺一人のものにできるって思ってたんだ。
頭と心は違う。
頭では知っていたけど、心はわからない。理解できない。したくない。

現実は、苦く、くるしい。

願っても叶わない。
どんな願いも叶わない。

この世界であまりにも、俺というひとりの存在は、小さすぎる。
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