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第一幕〜リュカ〜
5 5歳 見知らぬ家
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「ここ、どこ?」
そこは、見たこともない広い寝室だった。
おしりの下にはつやつやとしたシーツと豪華な刺繍がほどこされた上掛け。
もしかしたら、これは話に聞く「絹」というものかもしれない。
でも、なぜ?
ベッドも窓も椅子やテーブルも、なにもかも家とは違う。豪華すぎる。
金や彫刻があちこちに使われ、自分とは不似合いなその環境にこわくなる。
俺たちが暮らしていたのは、下町の小さなレンガづくりの家。
居間と寝室がふたつと台所。
草が伸び放題だけど、庭もある。
家の真ん中にある囲炉裏の周りで、いつも話をしたり、じゃれあってあそんでいた。
夜は母と兄弟3人が重なり合ってくっついて寝る。
なんの不満も不安もない、そんな日常がずっと続くと思っていた。
でも、ここは違う。
「かあちゃん?」
しんと静まり返った室内からは返事は返ってこない。
俺が来ている服も、家できていたものとは違う。
もしかしたら、これも「絹」かもしれない。
「ローズ?シモン?」
声をかけても、俺の声は空気に溶け、なんの反応も引き出せない。
「母ちゃん?母ちゃん?どこ?母ちゃん!!」
頭が真っ白になり、大声でさけんだ。
きっと母ちゃんはどこかにいるに違いない。
ここがどこかはわからないけど、どこからか見ているに違いない。そうだろ、かあちゃん。俺がいないと困るだろ?
ベッドから飛び降りると足の裏にひやりとした感触を感じた。
(夢じゃないんだ・・・!!!ここは何だ。一体何で俺はこんなところに一人でいるんだ?)
窓から外を見渡すと、そこは見たことのない光景だった。
美しく選定された、完璧なシンメトリーを持つ庭園。
見たことのない麦わら帽子をかぶった男が手入れをしている。
白い石を敷き詰められた歩道と、その周りを彩る花々。
間違いなくこれまで暮らしていた家とは違う。
(なんで?なんで?なんで?)
ことばがそれしか浮かばない。
昨夜は母ちゃんの隣で眠ったはずだ。それなのに・・・
カチャ
ドアがひらき、見たことのない男が入ってきた。
「騒がしいと思ったら、起きたのですか」
男の服装は、下町にいた大人たちとはまるで違う。
その堅苦しさと高級感は、「旦那様」と似ていた。
(殺される・・・!!)
俺は男の足元にひれ伏し、額を床にすりつけた。
「お許しください」
貴族に逆らったら殺されても文句は言えない。
「とにかく無事生きて帰ること」俺の頭にあったのはそれだけだ。
妹と母を残して死ねない。弟はまだ小さい。俺があの家を支える男なんだから・・・!
「顔をあげなさい。見苦しい。お里が知れるとはこのことですよ」
俺は恐る恐る顔を上げた。
見下ろす男の顔は冷たく、その目には俺への蔑みが浮かんでいた。
「私はあなたの教育係です。このような真似は許しませんよ。次は鞭を使います。私は公爵様から、あなたの教育のために鞭を使うことを許されれいるのですからね」
「こ、公爵様?」
男は眉を吊り上げた。
「レアンドル公爵セルジュ・ランベール様。あなたのお父様ですよ」
「はあ?」思わず大声を出してしまい、あわてて口をふさぐ。男が苛ついたように目を細めた。
「あの、お人違いではありませんか?俺に父はいません。そろそろ家に帰らないと、母ちゃんが心配していると・・・」
「黙りなさい!」男が強く叱りつけた。「あなたはセルジュ様の次男様です。いい加減自覚を持っていて当然の歳でしょう」
「・・・」
この男は気が触れているんだろうか。
俺はうずくまったまま、なんとか家に変える方法はないかと頭をめぐらせた。
「アドリアーヌは何も言わなかったのですか」
呆れたような男の声にどきりと胸が鳴った。アドリアーヌは、母の名だ。なぜ、この見ず知らずの男が母の名を・・・
「全く、あの女ときたら・・・」男は小さく首を振り、俺に向き合った。
「あなたの母がきちんと伝えなかったのでしょう。そこには同情の余地があります。私が教えます。あなたはセルジュ・ランベール様の次男リュカ様です。あなたはこれから公爵家に引き取られ、教育を受けることになります。役目はお兄様をお助けできるような存在になること。それ以上でもそれ以下でもありません。低級なメイドの子が公爵家を継ぐなどあり得ませんからね」
公爵なんて、雲の上の存在で、俺には関係ない。大抵の平民はそう思っている。
なのに、自分は公爵の息子だったってこと?
うそだろう?困り果てて見上げると、男はにらみつけるようにして俺を見返してきた。
ただひとつわかったのは、どうやら逃げられないこと。
母が俺にくれたショコラも隣で眠らせてもらえたのも・・・そういうことだったんだ、ということだけ。
そこは、見たこともない広い寝室だった。
おしりの下にはつやつやとしたシーツと豪華な刺繍がほどこされた上掛け。
もしかしたら、これは話に聞く「絹」というものかもしれない。
でも、なぜ?
ベッドも窓も椅子やテーブルも、なにもかも家とは違う。豪華すぎる。
金や彫刻があちこちに使われ、自分とは不似合いなその環境にこわくなる。
俺たちが暮らしていたのは、下町の小さなレンガづくりの家。
居間と寝室がふたつと台所。
草が伸び放題だけど、庭もある。
家の真ん中にある囲炉裏の周りで、いつも話をしたり、じゃれあってあそんでいた。
夜は母と兄弟3人が重なり合ってくっついて寝る。
なんの不満も不安もない、そんな日常がずっと続くと思っていた。
でも、ここは違う。
「かあちゃん?」
しんと静まり返った室内からは返事は返ってこない。
俺が来ている服も、家できていたものとは違う。
もしかしたら、これも「絹」かもしれない。
「ローズ?シモン?」
声をかけても、俺の声は空気に溶け、なんの反応も引き出せない。
「母ちゃん?母ちゃん?どこ?母ちゃん!!」
頭が真っ白になり、大声でさけんだ。
きっと母ちゃんはどこかにいるに違いない。
ここがどこかはわからないけど、どこからか見ているに違いない。そうだろ、かあちゃん。俺がいないと困るだろ?
ベッドから飛び降りると足の裏にひやりとした感触を感じた。
(夢じゃないんだ・・・!!!ここは何だ。一体何で俺はこんなところに一人でいるんだ?)
窓から外を見渡すと、そこは見たことのない光景だった。
美しく選定された、完璧なシンメトリーを持つ庭園。
見たことのない麦わら帽子をかぶった男が手入れをしている。
白い石を敷き詰められた歩道と、その周りを彩る花々。
間違いなくこれまで暮らしていた家とは違う。
(なんで?なんで?なんで?)
ことばがそれしか浮かばない。
昨夜は母ちゃんの隣で眠ったはずだ。それなのに・・・
カチャ
ドアがひらき、見たことのない男が入ってきた。
「騒がしいと思ったら、起きたのですか」
男の服装は、下町にいた大人たちとはまるで違う。
その堅苦しさと高級感は、「旦那様」と似ていた。
(殺される・・・!!)
俺は男の足元にひれ伏し、額を床にすりつけた。
「お許しください」
貴族に逆らったら殺されても文句は言えない。
「とにかく無事生きて帰ること」俺の頭にあったのはそれだけだ。
妹と母を残して死ねない。弟はまだ小さい。俺があの家を支える男なんだから・・・!
「顔をあげなさい。見苦しい。お里が知れるとはこのことですよ」
俺は恐る恐る顔を上げた。
見下ろす男の顔は冷たく、その目には俺への蔑みが浮かんでいた。
「私はあなたの教育係です。このような真似は許しませんよ。次は鞭を使います。私は公爵様から、あなたの教育のために鞭を使うことを許されれいるのですからね」
「こ、公爵様?」
男は眉を吊り上げた。
「レアンドル公爵セルジュ・ランベール様。あなたのお父様ですよ」
「はあ?」思わず大声を出してしまい、あわてて口をふさぐ。男が苛ついたように目を細めた。
「あの、お人違いではありませんか?俺に父はいません。そろそろ家に帰らないと、母ちゃんが心配していると・・・」
「黙りなさい!」男が強く叱りつけた。「あなたはセルジュ様の次男様です。いい加減自覚を持っていて当然の歳でしょう」
「・・・」
この男は気が触れているんだろうか。
俺はうずくまったまま、なんとか家に変える方法はないかと頭をめぐらせた。
「アドリアーヌは何も言わなかったのですか」
呆れたような男の声にどきりと胸が鳴った。アドリアーヌは、母の名だ。なぜ、この見ず知らずの男が母の名を・・・
「全く、あの女ときたら・・・」男は小さく首を振り、俺に向き合った。
「あなたの母がきちんと伝えなかったのでしょう。そこには同情の余地があります。私が教えます。あなたはセルジュ・ランベール様の次男リュカ様です。あなたはこれから公爵家に引き取られ、教育を受けることになります。役目はお兄様をお助けできるような存在になること。それ以上でもそれ以下でもありません。低級なメイドの子が公爵家を継ぐなどあり得ませんからね」
公爵なんて、雲の上の存在で、俺には関係ない。大抵の平民はそう思っている。
なのに、自分は公爵の息子だったってこと?
うそだろう?困り果てて見上げると、男はにらみつけるようにして俺を見返してきた。
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