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4 決戦

200 ジョセフの目覚め

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なんと、200話に到達しました。びっくりです。そしてここまでお付き合いいただけることにびっくりしながらも感謝しています。本当に心から、感謝しています!!続けられたのは読んでくださった方一人ひとりのおかげです!!多謝!!

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毎日、朝と昼と夕方にジョセフの様子を見に行っているが、容体に変化はない。
ただ静かに、こんこんと眠り続けている。
いつ目覚めるんだろうか、何か後遺症が残ってしまったのではないだろうか。
側で見守っていても、何も動きがなさすぎる。
瞬きもせず、静かに息をする音すら聞こえないこの状態は、本当に生きた人間のものなんだろうか。

朝、ジョセフの様子を見に行ってみると、ジョセフを取り巻く銀色の光が以前と比べると薄れていた。
癒しの力が弱まったんだろうか。リカルドからは、金の光が浄化の力、銀の光が癒しの力だと教えられていた。
もっと力を入れて癒した方がいいんだろうか。
ジョセフの身体にはもう大きな傷はないけど、目を損傷したという話もあったし、頭部に聖なる力を入れたら回復が早まるだろうか?

私がジョセフの頭に手を近づけると、リカルドが飛びつかんばかりの勢いで私の手を掴んだ。

「ダメです!聖女様。ジョセフが赤子になってしまいます!」
「えっ?」
「聖女様のお力のうちもっとも強いのが浄化の力です。癒しの力はその10分の1程度。脳を浄化しすぎたら、全て忘れ去ってしまいます」
「わ、忘れ去る?」
リカルドがブンブンと音が出るほど激しく、首を縦に振っている。
・・・早く言ってよ。

「今まで散々身体に力を入れてきたけど、それは大丈夫なの?」
リカルドの目が泳いだ。
「正直わかりません」
えええ?
「でも、仕方なかったんですよ。ジョセフの身体を治すためにはなりふり構ってはいられなかったんです。それにあの時は聖女様の強い願いからか、癒しの力がかなり強めに出ていたような気もします。ですが、聖女様の精神状態もだんだんと元に戻りつつあり、浄化の力が勝ってきているので、頭の浄化はやめておいた方がいいと思います」
「・・・そうですか。あの、でも、ジョセフの回復の助けにはなりませんか?」
「わかりません。なるかもしれないしならないかもしれないんです。そう考えると、やはりやめておいた方が無難でしょう。なぜなら、自己回復力も大切だからです。聖女様のお力だけで回復するよりも、自分の体の力を使って回復した方が、体のためにはいいですから」
「そうですよね」免疫力アップは大切だもんね。確かに、これ以上は余計なことなのかもしれない。
私は自分の手のひらをじっと見つめた。
役に立てることは、ないのかな・・・
「少し頭を冷やしてきます」

そのまま部屋を出ると、庭園をぐるぐると歩き回った。
立ち止まったら、不安に押しつぶされそうだ。

庭園の木々が私に元気をくれようと、葉を揺らして呼びかけてくるけれど、今は受け取る気力すらない。

(ジョセフ・・・早く目を覚まして。でも、浄化の影響で記憶を失っていたらどうしよう。赤子に戻るって・・・どうしたらいいんだろう)

思考もぐるぐると堂々巡りして答えが出ない。

(ジョセフが回復する前に呼び出しが来るかもしれないし・・・もし、私がそばにいない時に浄化か癒しが必要になったらどうしよう・・・)
涙が出そうになる。

困り切って立ち止まった時、「ステラ嬢!」ケイレブの大声が私のもの思いをぶち破った。

「ジョセフが目をさましました!!」
「えっ!ジョセフが!!ジョセフは無事なの?」
「わかりません。俺も会ってないんで。とりあえず急いでお知らせにきました。行きましょう!」

息せき切って駆け戻り、ジョセフの部屋のドアを開けると、そこにはジョセフの家族の方々が全員集合していた。
騎士団長様と奥様、ジョセフのお兄さん二人とお姉さん。そして数人の使用人たち。
騎士団長もお兄さんたちもみんな背が高くガッチリしているし、使用人さんたちも体格のいい人が多いので、部屋の中はぎゅうぎゅうになっていて、ジョセフの様子は見えない。

「あの・・・ジョセフの目が覚めたと聞いたのですが、容体はいかがですか・・・?」
そっと声をかけると、部屋の中にいた全員が振り返った。

「これは聖女様・・・!」
ジョセフのお父様の騎士団長様が、部屋の奥から出てきた。

「この度は、当家のジョセフをお救いいただきまして誠にありがとうございました。深く感謝申し上げます」

そう言って、私に深く頭をさげた。ジョセフによく似た茶色の瞳には、心からの感謝があふれている。

「私からもお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」

目に涙をいっぱいためた奥様が私の手を握った。
喜び、感謝、安堵、いろいろな感情が私に流れ込んでくる。
私、感謝される資格ないのに・・・
心苦しくなり、愛想笑いを浮かべた私を見て、奥様の顔が嬉しそうにほころんだ。

「どうぞ、ジョセフと会ってやってください」

私の手をとったまま、奥様が私をジョセフのベッドの脇にいざなった。

さっき見た時には静かに横たわっていたジョセフは、いま、体の下にクッションを入れられ、少しだけ体を起こしている。
涙を流し続けるお姉さんの姿に困ったように笑うその笑顔は、以前と全く変わらないものだった。

「ジョセフ・・・」
私が声をかけると、ジョセフは目をあげて私を見た。

でも。
その瞳は私が知っていた暖かい茶色の瞳ではなくなってしまっていた。

右目は、以前と変わらない。
失われたはずの左目は、金と銀が入り混じる不思議な色に染まり、こめかみに生える髪も金色に変色していた。

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