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3 ヒロインへの道
146 聖女の川渡り
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ジョセフとリーラが今日の出来事を他言しないように、集まった人たちに念を押すと、皆、
「聖女様のためなら協力させていただきます!」
と元気に答えてくれた。
自分がなんなのかはっきりしないし、大ごとにされたくないもんね。
宿のエバンが必ず、今日の出来事は秘密にさせますからと請け合ってくれて、安心して出発することにした。
あと、2日ほど馬を走らせれば、リーラの領地にたどり着くらしい。
新しく5人のいかつい騎士が護衛についてくれることになった。
宿を発ってから2時間ほど馬を走らせると、大きな川に差し掛かった。
この川は、流れが早く、雨が降ると増水しやすく氾濫しやすいので橋もかけられないとか。
川を渡るには、渡し船で対岸に渡るしかないそうだ。
私たち全員を一度に渡せるほど大きな船はないので、かなり時間がかかってしまうそう。
筏みたいな渡し船に人と馬を乗せてゆっくりと運ぶ。馬が乗れるほど大きな船は一艘しかなく、交代で筏に乗り、そしてまた戻ってまた運んで・・・と、川を渡るだけでも1日かかる。
川底には深い場所や流れが複雑なところがあり、無理やり突っ切れば、足を取られて馬もろとも自滅してしまうとか。時々無謀にも馬で渡ろうとして流される人がいるらしい。
私は川を眺めた。
サラサラと水が流れ、時々、白いしぶきを立てている。
あちらでは、どの順番で川を渡すかとみんなが相談している。
渡し船では一度に一頭と二人ずつしか渡せないから、私を守るためにはどの順番で私を移動させるかが大切らしい。
守ってもらうばかりで申し訳ない。
(川か。川にも神様いるのかな)
私は、話し合っている皆を背に、静かに川べりに近づいた。
キラキラと水面が輝きながら、音を立てて水が流れている。
流れに手を付けて、願ってみた。
(もし、川の神様がいらっしゃったら、どうか協力してください。お願いします)
私の指先から金色のひかりが広がっていく。
(どうか、協力してください。川を渡らせてください)
重ねて願うと、指先からさざ波が起こり、光の輪が重なりながら大きく広がっていった。
《私を呼んだのは、聖女か》
姿は見えないが、耳の中に誰かが直接話しかけてきた。
この声は川の声だ。なぜかはわからないが、私は知っている。
(はい、そうです)
《何用だ》
(お願いがあります。この川を馬と共に渡らせてください)
《お安い御用だ。聖女に会うのは久しぶりだからな。今度訪ねてこい》
(ありがとうございます!)
私の指先が触れているところから、だんだんと水が割れ始め、川の底が見え始めた。
幅1メートルぐらいに川の水面が割れ、10センチぐらいの水かさを残して道ができた。
この深さならば、馬が走って渡れる。
私はリーラたちに声をかけた。
「道を開けてくれたよ。渡りましょう!」
さっきまでどの順番で川を渡るかを話し合っていたリーラたちは呆然としながら私と川を交互に見ている。
「早く渡りましょう!いつまでも川は止められませんから。ジョセフ、お願い。」
そう言うと、はーちゃんにまたがり、ジョセフに先導してもらって川を渡り始めた。
後ろからは、突然の奇跡に戸惑う騎士たちの声が聞こえてくる。
「とりあえず、今は私を信じて、川を渡ってください。」もう一度声を掛ける。
「みんな、ステラに従って!」
リーラが一喝すると、魔法をかけられたように呆然と固まっていた騎士たちが慌てて動き出した。
川底では魚が白い腹を見せて跳ねている。
対岸まで一気に駆け抜ける。
振り返ると、一番最後の兵士の乗った馬の後ろ足のすぐ後ろから、川がどんどん元に戻って閉じている。
ひづめが水底を蹴る音と、馬への掛け声を追うように響く川の流れに、ハラハラしながら兵士たちの姿を見つめていたが、なんとか、全員無事に渡りきり、最後の兵士の乗っている馬の前足が陸にかかった瞬間。川は元どおりに姿を変え、ごうごうと音を立てながら勢いよく流れ出した。
(ありがとうございました)
私が川にお礼を言うと、耳奥では楽しそうに豪快に笑う川の声が聞こえた。
《また会おうぞ、聖女よ》
(はい、必ず!)
返事をすると声の主の気配はふっとかき消え、また川が流れる音だけが、あたりに響いていた。
****************************************************
お読みいただきましてありがとうございました。
なかなか毎日更新ができずすみません。
ちょっと風邪気味なので、少し更新が不安定になるかもです。
例のアレではないと思うのですが。
鼻水垂らしてます。しくしく。
「聖女様のためなら協力させていただきます!」
と元気に答えてくれた。
自分がなんなのかはっきりしないし、大ごとにされたくないもんね。
宿のエバンが必ず、今日の出来事は秘密にさせますからと請け合ってくれて、安心して出発することにした。
あと、2日ほど馬を走らせれば、リーラの領地にたどり着くらしい。
新しく5人のいかつい騎士が護衛についてくれることになった。
宿を発ってから2時間ほど馬を走らせると、大きな川に差し掛かった。
この川は、流れが早く、雨が降ると増水しやすく氾濫しやすいので橋もかけられないとか。
川を渡るには、渡し船で対岸に渡るしかないそうだ。
私たち全員を一度に渡せるほど大きな船はないので、かなり時間がかかってしまうそう。
筏みたいな渡し船に人と馬を乗せてゆっくりと運ぶ。馬が乗れるほど大きな船は一艘しかなく、交代で筏に乗り、そしてまた戻ってまた運んで・・・と、川を渡るだけでも1日かかる。
川底には深い場所や流れが複雑なところがあり、無理やり突っ切れば、足を取られて馬もろとも自滅してしまうとか。時々無謀にも馬で渡ろうとして流される人がいるらしい。
私は川を眺めた。
サラサラと水が流れ、時々、白いしぶきを立てている。
あちらでは、どの順番で川を渡すかとみんなが相談している。
渡し船では一度に一頭と二人ずつしか渡せないから、私を守るためにはどの順番で私を移動させるかが大切らしい。
守ってもらうばかりで申し訳ない。
(川か。川にも神様いるのかな)
私は、話し合っている皆を背に、静かに川べりに近づいた。
キラキラと水面が輝きながら、音を立てて水が流れている。
流れに手を付けて、願ってみた。
(もし、川の神様がいらっしゃったら、どうか協力してください。お願いします)
私の指先から金色のひかりが広がっていく。
(どうか、協力してください。川を渡らせてください)
重ねて願うと、指先からさざ波が起こり、光の輪が重なりながら大きく広がっていった。
《私を呼んだのは、聖女か》
姿は見えないが、耳の中に誰かが直接話しかけてきた。
この声は川の声だ。なぜかはわからないが、私は知っている。
(はい、そうです)
《何用だ》
(お願いがあります。この川を馬と共に渡らせてください)
《お安い御用だ。聖女に会うのは久しぶりだからな。今度訪ねてこい》
(ありがとうございます!)
私の指先が触れているところから、だんだんと水が割れ始め、川の底が見え始めた。
幅1メートルぐらいに川の水面が割れ、10センチぐらいの水かさを残して道ができた。
この深さならば、馬が走って渡れる。
私はリーラたちに声をかけた。
「道を開けてくれたよ。渡りましょう!」
さっきまでどの順番で川を渡るかを話し合っていたリーラたちは呆然としながら私と川を交互に見ている。
「早く渡りましょう!いつまでも川は止められませんから。ジョセフ、お願い。」
そう言うと、はーちゃんにまたがり、ジョセフに先導してもらって川を渡り始めた。
後ろからは、突然の奇跡に戸惑う騎士たちの声が聞こえてくる。
「とりあえず、今は私を信じて、川を渡ってください。」もう一度声を掛ける。
「みんな、ステラに従って!」
リーラが一喝すると、魔法をかけられたように呆然と固まっていた騎士たちが慌てて動き出した。
川底では魚が白い腹を見せて跳ねている。
対岸まで一気に駆け抜ける。
振り返ると、一番最後の兵士の乗った馬の後ろ足のすぐ後ろから、川がどんどん元に戻って閉じている。
ひづめが水底を蹴る音と、馬への掛け声を追うように響く川の流れに、ハラハラしながら兵士たちの姿を見つめていたが、なんとか、全員無事に渡りきり、最後の兵士の乗っている馬の前足が陸にかかった瞬間。川は元どおりに姿を変え、ごうごうと音を立てながら勢いよく流れ出した。
(ありがとうございました)
私が川にお礼を言うと、耳奥では楽しそうに豪快に笑う川の声が聞こえた。
《また会おうぞ、聖女よ》
(はい、必ず!)
返事をすると声の主の気配はふっとかき消え、また川が流れる音だけが、あたりに響いていた。
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お読みいただきましてありがとうございました。
なかなか毎日更新ができずすみません。
ちょっと風邪気味なので、少し更新が不安定になるかもです。
例のアレではないと思うのですが。
鼻水垂らしてます。しくしく。
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