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3 ヒロインへの道
131 ルシアナ様と聖女
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目の前にいる美しい方は、ルシアナ・アドランテ公爵令嬢。
ルシアナ様は、ハル様の婚約者候補筆頭だった方。
そして、多分唯一、ハル様のことを好きだった方。
他の方はお付き合いとか、断りきれなかったり、アリアに至っては単に地位目当てだったり、とそんな感じだったけど、この方だけはハル様を見る目が全然違った。
品のいい、紺色のシンプルなドレスは、一見地味に見えるはずなのに、むしろルシアナ様の品の良さと瞳の美しさを引き立てていた。
肩にかかるウエーブのかかった美しい黒髪。
晴れた日の海のように美しいブルーの瞳。
その瞳は知的で口を開く前からこの方が高い教養を持っていることがわかる。
そして、文句のつけようのない家柄。
でも、ハル様をとられたくない。
そう思わせる唯一の方がこの方だった。
「聖女様、何か行き違いがありましたか?」
ルシアナ様が微笑みを絶やさずに話しかける。
「ルシアナ様、聖女様などと‥‥‥どうか名前でお呼びください」
毎回顔をあわせるたびに同じ会話を繰り返している。そしてルシアナ様の返事もいつも同じ。
「まさか、聖女様を我々と同列に扱うことなどできません。どうか、聖女様とお呼びする栄誉をお与えください」
「‥‥‥わかりました」
「みなさん、憶測でものを言ってはなりませんよ。確たる証拠もなしに聖女様に詰め寄るなど言語道断ですわ。事実であるという証拠はあるのですか?アリア」
「ルシアナ様‥‥‥」
ルシアナ様は現在、生徒会副会長でもあるが、女子生徒の代表を務めている。
品格、家柄、成績、美貌、全てを兼ね備えた生徒のみが許されるそのポジションに付いているルシアナ様にアリアが反論できるわけもなかった。
アリアに味方するような雰囲気で野次馬をしていた他の生徒たちは、皆言葉を失っている。
「聖女様、アリアにはよく言って聞かせますので、どうか、この場はお治めくださいませ」
ルシアナ様は周りの生徒たちに言い聞かせるように、微笑んだ。
「いえ、むしろありがとうございます」
私はルシアナ様に頭を下げた。
ルシアナ様は、優美に微笑むと、ご友人やアリアを連れて教室から出て行った。
「ふう‥‥‥怖かった」
思わず本音がこぼれる。
ルシアナ様からはなんの感情も流れ込んで来ない。
アリアの私に対する嫌悪やイライラははっきり見えているから、不快だけど怖くはない。
でも、ルシアナ様は違う。
彼女からは、何も見えない。
昔とうさまがそうだったような「虚無」とは違う。
ぴしゃりと情報が遮断されているような感覚。
うっすらとした好意も、嫌悪も、その人となりを告げるものも何一つ、伝わってこない。
完全に自分を律しているということなのだろうか。
でも、なんだか、怖い。
ルシアナ様はいつも丁寧で親切だ。
私のことは必ず「聖女様」と呼ぶ。
ただ、あの方はそもそも単なる男爵令嬢であれば目も向けないだろう。
私生児なんて言ったら、存在を頭から消し去りたいとすら思うんじゃないかな。
絶対に名前で呼ばないのは、聖女でない私には用がないってことなんじゃないだろうかと思うくらい、彼女の態度は徹底していた。
絶対に隙を見せないルシアナ様がやけに恐ろしく思える。
でも、そうは言っても、高位貴族の中で一番礼儀正しく、丁寧に接してくださるのもルシアナ様だった。
悪意が透けて見えるようなアリアとは違う。
これまでだって、高位貴族のお茶会に招待してくださったり、私を見下す高位貴族のご令嬢との橋渡しに務めてくださった。正直、付き合いたくない相手ではあるけど、社交界で嫌われるわけにはいかないのも事実。
好かれなくてもいいけど、嫌われては何かとうまくいかなくなるものだ。
男爵家の私生児と最初から嫌ってくる令嬢たちから、それほどの嫌悪を受けなくなってきたのは全てルシアナ様のおかげだ。
仲のいい友人にはなれないけど、お互いにうまく距離を保って過ごしていられると思っていたんだ。
その時はね。
甘かった!!!
ルシアナ様は、ハル様の婚約者候補筆頭だった方。
そして、多分唯一、ハル様のことを好きだった方。
他の方はお付き合いとか、断りきれなかったり、アリアに至っては単に地位目当てだったり、とそんな感じだったけど、この方だけはハル様を見る目が全然違った。
品のいい、紺色のシンプルなドレスは、一見地味に見えるはずなのに、むしろルシアナ様の品の良さと瞳の美しさを引き立てていた。
肩にかかるウエーブのかかった美しい黒髪。
晴れた日の海のように美しいブルーの瞳。
その瞳は知的で口を開く前からこの方が高い教養を持っていることがわかる。
そして、文句のつけようのない家柄。
でも、ハル様をとられたくない。
そう思わせる唯一の方がこの方だった。
「聖女様、何か行き違いがありましたか?」
ルシアナ様が微笑みを絶やさずに話しかける。
「ルシアナ様、聖女様などと‥‥‥どうか名前でお呼びください」
毎回顔をあわせるたびに同じ会話を繰り返している。そしてルシアナ様の返事もいつも同じ。
「まさか、聖女様を我々と同列に扱うことなどできません。どうか、聖女様とお呼びする栄誉をお与えください」
「‥‥‥わかりました」
「みなさん、憶測でものを言ってはなりませんよ。確たる証拠もなしに聖女様に詰め寄るなど言語道断ですわ。事実であるという証拠はあるのですか?アリア」
「ルシアナ様‥‥‥」
ルシアナ様は現在、生徒会副会長でもあるが、女子生徒の代表を務めている。
品格、家柄、成績、美貌、全てを兼ね備えた生徒のみが許されるそのポジションに付いているルシアナ様にアリアが反論できるわけもなかった。
アリアに味方するような雰囲気で野次馬をしていた他の生徒たちは、皆言葉を失っている。
「聖女様、アリアにはよく言って聞かせますので、どうか、この場はお治めくださいませ」
ルシアナ様は周りの生徒たちに言い聞かせるように、微笑んだ。
「いえ、むしろありがとうございます」
私はルシアナ様に頭を下げた。
ルシアナ様は、優美に微笑むと、ご友人やアリアを連れて教室から出て行った。
「ふう‥‥‥怖かった」
思わず本音がこぼれる。
ルシアナ様からはなんの感情も流れ込んで来ない。
アリアの私に対する嫌悪やイライラははっきり見えているから、不快だけど怖くはない。
でも、ルシアナ様は違う。
彼女からは、何も見えない。
昔とうさまがそうだったような「虚無」とは違う。
ぴしゃりと情報が遮断されているような感覚。
うっすらとした好意も、嫌悪も、その人となりを告げるものも何一つ、伝わってこない。
完全に自分を律しているということなのだろうか。
でも、なんだか、怖い。
ルシアナ様はいつも丁寧で親切だ。
私のことは必ず「聖女様」と呼ぶ。
ただ、あの方はそもそも単なる男爵令嬢であれば目も向けないだろう。
私生児なんて言ったら、存在を頭から消し去りたいとすら思うんじゃないかな。
絶対に名前で呼ばないのは、聖女でない私には用がないってことなんじゃないだろうかと思うくらい、彼女の態度は徹底していた。
絶対に隙を見せないルシアナ様がやけに恐ろしく思える。
でも、そうは言っても、高位貴族の中で一番礼儀正しく、丁寧に接してくださるのもルシアナ様だった。
悪意が透けて見えるようなアリアとは違う。
これまでだって、高位貴族のお茶会に招待してくださったり、私を見下す高位貴族のご令嬢との橋渡しに務めてくださった。正直、付き合いたくない相手ではあるけど、社交界で嫌われるわけにはいかないのも事実。
好かれなくてもいいけど、嫌われては何かとうまくいかなくなるものだ。
男爵家の私生児と最初から嫌ってくる令嬢たちから、それほどの嫌悪を受けなくなってきたのは全てルシアナ様のおかげだ。
仲のいい友人にはなれないけど、お互いにうまく距離を保って過ごしていられると思っていたんだ。
その時はね。
甘かった!!!
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