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2 学園編
102 好きがわからない?
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「ち、違うんです!!違うんです。違くないけど、違うんです。だから、その、お礼を言おうとしたんです。なのに、自分でも何がなんだか‥‥‥」
必死で言い繕おうとすると、ますます混乱してしまい、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。
「その‥‥‥なんで、婚約者にしたのか、知りたかったんです。本当は‥‥‥ずっと」
ハル様は私をじっと見た。
何を話そうかと、考えているかのように。
永遠とも思えるぐらいの長い時間がすぎた後、ハル様はため息をついた。
「わからないんだ」
「わからない?」
「‥‥‥感情というものがわからない」
「え?」
「だから、君が好きなのかどうか、本当はわからない」
ポタポタと紅茶が床に垂れる音が聞こえてくる。
窓からは緩やかに風が流れ込み、カーテンのレースをゆらゆらと揺らしている。
お互いが息をする音さえ、大きく聞こえるぐらい部屋の中は静まり返っていた。
「私は、幼い頃からずっと感情を持たないように教育されてきた。感情は全て判断を狂わせる有害なものと教えられてきた。これまでの私の人生には、好きも嫌いもなかったんだ。私には、母に抱きしめられた記憶すらない。」
「‥‥‥」
「君に会って初めて、思いやり、というものがこの世に存在することを学んだ。驚いたよ。人には感情があるってことを君に会って初めて知ったんだ。私の中に渦巻いていた不満や不安は感情だったんだってことに気がついた。君は私にこの世界に感情というものがあり、人には心があると教えてくれた人だ。」
「ハル様‥‥‥」
私はハル様の隣に座ると、そっとハル様の黒髪に手を触れた。
「それに、私は君を誰にも渡したくない。ベタ惚れ、というのはそういう感情のことを言うのだろう?私は君を生涯私に縛り付けたい。どこにも行かせたくない。それははっきりとわかっている。」
そう言うと私の手を取り、手のひらにそっと口付けた。
「君は私のものだ」
そう言うと、ハル様のスカイブルーの瞳が私をじっと見つめた。
ギュギュギュッと私の心が締め付けられて、パンクしそうになる。
頭のてっぺんから足先まで震えが走った。
ハル様、それでも、好きかどうかわからないの?
それって、好きって感情なんじゃないの?
それとも私の願望?
私にはハル様の心を開けてみることはできない。不安がよぎる。
「もう!」
私はハル様のほっぺたをつまむと痛くないように両側に引っ張った。
ふん、イケメンだってほっぺたを広げたら面白い顔になるんだから!
「ふぁんだよ」ハル様がちょっと不満そうに言った。
「ふんだ!面白い顔!!」私はそう言うとくすくす笑った。
ハル様は身をよじって私の手から逃げ出すとやり返すように私の頬をつまんできた。
「なんだ、随分柔らかいな」
「プニプニじゃないですからね!」
「いや、これはプニプニ‥‥‥」
「違うもん!」
「ははは、かわいいな」
か、か、かわいいとか、突然言わないでよ!!
私はまた、ぼん!と音が鳴るくらいの勢いで真っ赤になった。
ハル様は笑いながら私を抱きしめた。
「ステラ、可愛い‥‥‥」そう言うと私にそっと口付けた。
2度目のキスはなんだかくすぐったくて、気持ちがフワフワしちゃう。
全身が心臓になったみたいにドキドキして、身体中から力が抜けちゃいそう。
私は崩れ落ちないようにハル様にしがみついた。
「ステラ」
ハル様が私の名前を呼びながら、またキスをする。
もうずーっとドキドキしすぎて、頭がおかしくなっちゃいそう。
もうハル様のことしか考えられない。
ちゅ、ちゅ、と繰り返すハル様の口付けに、私はされるがままになってしまう。
そっと、ハル様の背中に手を沿わすと、ハル様の口づけが深くなった。
ちょっと怖い。
でも、もうハル様のことしか考えられない。
「ハル様‥‥‥」
名前を呼んでギュッとしがみつくと、ハル様もギュッと抱きしめてきた。
私の心がキューッと音を立て、体がグズグズになってくるのを感じる。
背中もずっとゾクゾクしっぱなし。
そう、ゾクゾクゾクゾク‥‥‥冷たあああい!!
「きゃー、冷たい!」
私が叫び声を上げた瞬間。
目の前にいるハル様の頭の上からザバーっと水が降ってきた。
「うわ、何をする!」ハル様が叫ぶ。
後ろを振り返ると、セオドアが、私の背中に氷を突っ込んでいた。
「もっと入れる?」とニッコリ。
「ダメですよ。殿下。正式な婚約前なのに手を出しては」
冷たく言い放つ殿下の侍従さん。確かクロードさんだ。
手には水差し。
空っぽですけど、もしかしてさっきのハル様の頭にかけた水はそれですか?
「まあ、盛りのついた猫を離すときは水が定番じゃない?」
「セオドア!なんてこと言うのよ!猫じゃない!!」
「ふーん、その前は否定しないんだ」
「‥‥‥」
セオのバカああ!!
「殿下、ヴィダル師にも厳しく釘を刺されましたよね?ダメですよ。聖女様に婚姻前に手を出すなど、ありえませんからね?陛下にもキツく命じられてますから。」
クロードさんは、メガネを光らせてハル様に冷たく言い放った。
「ぐうう」
まさにぐうの音も出ない状態って、このこと?
「全く、危ないったらありませんよ。聖女様に対して失礼千万ですよ。キスは婚約が正式に成立してからです!!」
「それは厳しすぎるぞ、クロード」
「はあ?どこが?王太子だからといって我らの聖女様を簡単に手に入れられると思っては困りますね。正式な婚約のためには、国王陛下の同意の他に教会と評議会の合意を取らないとダメなんですよ。わかってるでしょう?残念でした。」
「ステラは私のものだ!」
「違いますから~?聖女様はみんなの聖女様ですから~?それに、手出し禁止は国王陛下のご命令ですからね?」
「ここにも聖女ファンがいたのかよ。クソ親父め!!!」
まあ、ハル様、そんなお言葉を一体どこで‥‥‥
************************************************
お読みいただきまして、ありがとうございました。
やっと、ラブくなってきました!!でも、全年齢版ですから!!
そして、すいません、2話で終わりませんでした。
あと1話で、2章が終わりです。
必死で言い繕おうとすると、ますます混乱してしまい、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。
「その‥‥‥なんで、婚約者にしたのか、知りたかったんです。本当は‥‥‥ずっと」
ハル様は私をじっと見た。
何を話そうかと、考えているかのように。
永遠とも思えるぐらいの長い時間がすぎた後、ハル様はため息をついた。
「わからないんだ」
「わからない?」
「‥‥‥感情というものがわからない」
「え?」
「だから、君が好きなのかどうか、本当はわからない」
ポタポタと紅茶が床に垂れる音が聞こえてくる。
窓からは緩やかに風が流れ込み、カーテンのレースをゆらゆらと揺らしている。
お互いが息をする音さえ、大きく聞こえるぐらい部屋の中は静まり返っていた。
「私は、幼い頃からずっと感情を持たないように教育されてきた。感情は全て判断を狂わせる有害なものと教えられてきた。これまでの私の人生には、好きも嫌いもなかったんだ。私には、母に抱きしめられた記憶すらない。」
「‥‥‥」
「君に会って初めて、思いやり、というものがこの世に存在することを学んだ。驚いたよ。人には感情があるってことを君に会って初めて知ったんだ。私の中に渦巻いていた不満や不安は感情だったんだってことに気がついた。君は私にこの世界に感情というものがあり、人には心があると教えてくれた人だ。」
「ハル様‥‥‥」
私はハル様の隣に座ると、そっとハル様の黒髪に手を触れた。
「それに、私は君を誰にも渡したくない。ベタ惚れ、というのはそういう感情のことを言うのだろう?私は君を生涯私に縛り付けたい。どこにも行かせたくない。それははっきりとわかっている。」
そう言うと私の手を取り、手のひらにそっと口付けた。
「君は私のものだ」
そう言うと、ハル様のスカイブルーの瞳が私をじっと見つめた。
ギュギュギュッと私の心が締め付けられて、パンクしそうになる。
頭のてっぺんから足先まで震えが走った。
ハル様、それでも、好きかどうかわからないの?
それって、好きって感情なんじゃないの?
それとも私の願望?
私にはハル様の心を開けてみることはできない。不安がよぎる。
「もう!」
私はハル様のほっぺたをつまむと痛くないように両側に引っ張った。
ふん、イケメンだってほっぺたを広げたら面白い顔になるんだから!
「ふぁんだよ」ハル様がちょっと不満そうに言った。
「ふんだ!面白い顔!!」私はそう言うとくすくす笑った。
ハル様は身をよじって私の手から逃げ出すとやり返すように私の頬をつまんできた。
「なんだ、随分柔らかいな」
「プニプニじゃないですからね!」
「いや、これはプニプニ‥‥‥」
「違うもん!」
「ははは、かわいいな」
か、か、かわいいとか、突然言わないでよ!!
私はまた、ぼん!と音が鳴るくらいの勢いで真っ赤になった。
ハル様は笑いながら私を抱きしめた。
「ステラ、可愛い‥‥‥」そう言うと私にそっと口付けた。
2度目のキスはなんだかくすぐったくて、気持ちがフワフワしちゃう。
全身が心臓になったみたいにドキドキして、身体中から力が抜けちゃいそう。
私は崩れ落ちないようにハル様にしがみついた。
「ステラ」
ハル様が私の名前を呼びながら、またキスをする。
もうずーっとドキドキしすぎて、頭がおかしくなっちゃいそう。
もうハル様のことしか考えられない。
ちゅ、ちゅ、と繰り返すハル様の口付けに、私はされるがままになってしまう。
そっと、ハル様の背中に手を沿わすと、ハル様の口づけが深くなった。
ちょっと怖い。
でも、もうハル様のことしか考えられない。
「ハル様‥‥‥」
名前を呼んでギュッとしがみつくと、ハル様もギュッと抱きしめてきた。
私の心がキューッと音を立て、体がグズグズになってくるのを感じる。
背中もずっとゾクゾクしっぱなし。
そう、ゾクゾクゾクゾク‥‥‥冷たあああい!!
「きゃー、冷たい!」
私が叫び声を上げた瞬間。
目の前にいるハル様の頭の上からザバーっと水が降ってきた。
「うわ、何をする!」ハル様が叫ぶ。
後ろを振り返ると、セオドアが、私の背中に氷を突っ込んでいた。
「もっと入れる?」とニッコリ。
「ダメですよ。殿下。正式な婚約前なのに手を出しては」
冷たく言い放つ殿下の侍従さん。確かクロードさんだ。
手には水差し。
空っぽですけど、もしかしてさっきのハル様の頭にかけた水はそれですか?
「まあ、盛りのついた猫を離すときは水が定番じゃない?」
「セオドア!なんてこと言うのよ!猫じゃない!!」
「ふーん、その前は否定しないんだ」
「‥‥‥」
セオのバカああ!!
「殿下、ヴィダル師にも厳しく釘を刺されましたよね?ダメですよ。聖女様に婚姻前に手を出すなど、ありえませんからね?陛下にもキツく命じられてますから。」
クロードさんは、メガネを光らせてハル様に冷たく言い放った。
「ぐうう」
まさにぐうの音も出ない状態って、このこと?
「全く、危ないったらありませんよ。聖女様に対して失礼千万ですよ。キスは婚約が正式に成立してからです!!」
「それは厳しすぎるぞ、クロード」
「はあ?どこが?王太子だからといって我らの聖女様を簡単に手に入れられると思っては困りますね。正式な婚約のためには、国王陛下の同意の他に教会と評議会の合意を取らないとダメなんですよ。わかってるでしょう?残念でした。」
「ステラは私のものだ!」
「違いますから~?聖女様はみんなの聖女様ですから~?それに、手出し禁止は国王陛下のご命令ですからね?」
「ここにも聖女ファンがいたのかよ。クソ親父め!!!」
まあ、ハル様、そんなお言葉を一体どこで‥‥‥
************************************************
お読みいただきまして、ありがとうございました。
やっと、ラブくなってきました!!でも、全年齢版ですから!!
そして、すいません、2話で終わりませんでした。
あと1話で、2章が終わりです。
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