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2 学園編
84 王太子ハルヴァート 6
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「‥•殿下‥‥‥殿下!」
気がつかないうちに自室の窓の外を眺めていたらしい。
領地から上がってきた治水工事の許可を求める報告書を読んでいたはずなのに、おかしい。
いつの間に、気が散ってしまっていたのだろうか。
振り返ると、若干イラついたような様子の侍従が呼びかけていた。
侍従のクロードは母方の公爵家の三男であり、将来の側近候補として長く仕えてくれている。
最近、私も感情を知り、クロードが「イラついている」時に分かるようになったのだ。ふふん。
「なんだ」
そう返すと、クロードが呆れたように言った。
「さっきから何度もお呼びしたんですがね?殿下は恋の病で耳が悪くなっちゃったんですかね?」
「痴れ者が。恋の病とは一体なんだ」
「おやおや、気がついてなかったんですか?殿下はステラ様にゾッコンだって評判になってますけど?まあ、初めて会った時からずっと惚れてるのは知ってましたけど、最近は完全に骨抜き状態ですよね、殿下は。」
「はあ?」
「恋を叶えるおまじないをご用意したほうがいいのか、それとも薬師に頼んで惚れ薬でも用意いたしますか?」
「バカなことばかり言ってないで、用件を言え」
「ステラ様へ嫌がらせをしていた者が分かりました」
「それを早く言え」
影の者にもステラへの嫌がらせについて探らせていたが、さすがクロードは仕事が速い。
「ステラ様に水をかける嫌がらせは入学後、2回ほど行われたようです。2度とも、ステラ様がたまたま一人の時、教室を移動する際の渡り廊下で、狙いすまして着替えが必要なほど水をかけたようです。
そのせいで一度は熱を出されたこともあったようです。」
「熱‥‥‥?どこの無礼者だ。許しがたいな」殺すか。私の空気が変わったのをクロードが敏感に察知する。
「はい、ダメですよ。ステラ様に嫌われますからね?」
こいつは、ステラに初めて会った時も同行していたのだ。
衝立の陰で全てを聞いていたこいつは後で散々ダメ出しをしてきた。
その時は何を言っているのかと、気にも止めなかったが、気にしたほうがよかったのだろうか。
「よい。嫌がらせをいていたのは誰なのだ」
「その嫌がらせをしていたのは‥‥‥」
まあ、予想はついていたが、元婚約者候補が陰湿ないじめに加担していた、というのは残念な報告だった。
同情の余地がないわけではないが、ステラに害をなす者を野放しにしておくわけにはいかない。
「ふむ‥‥‥」どうしてやろうか。
一族を破滅させてやることもできるのだが、穏便なほうがいいだろう。
比較的穏便な学園からの追放は社交界からの永久追放を意味する。あの父親がそのような不始末を許すだろうか。
いや、間違いなく許さないだろう。
おそらくアリア以上の苛烈な罰を与えられるに違いない。
そして、その結果をステラが知ったら、悲しむだろう。
ステラを悲しませることはしたくない。
何よりも私がステラに嫌われたくない。
学園からの永久追放ができないとなると、もっと軽い罰か‥‥思いつかない。
仕方ない。
「話を聞くか。本人を呼び出せ」
「かしこまりました」
クロードがニヤリと笑う。
「で、おまじないと惚れ薬のご用意は?」
「‥‥‥よろしく頼む。」
どうやら、弱みを握られたらしい。
気がつかないうちに自室の窓の外を眺めていたらしい。
領地から上がってきた治水工事の許可を求める報告書を読んでいたはずなのに、おかしい。
いつの間に、気が散ってしまっていたのだろうか。
振り返ると、若干イラついたような様子の侍従が呼びかけていた。
侍従のクロードは母方の公爵家の三男であり、将来の側近候補として長く仕えてくれている。
最近、私も感情を知り、クロードが「イラついている」時に分かるようになったのだ。ふふん。
「なんだ」
そう返すと、クロードが呆れたように言った。
「さっきから何度もお呼びしたんですがね?殿下は恋の病で耳が悪くなっちゃったんですかね?」
「痴れ者が。恋の病とは一体なんだ」
「おやおや、気がついてなかったんですか?殿下はステラ様にゾッコンだって評判になってますけど?まあ、初めて会った時からずっと惚れてるのは知ってましたけど、最近は完全に骨抜き状態ですよね、殿下は。」
「はあ?」
「恋を叶えるおまじないをご用意したほうがいいのか、それとも薬師に頼んで惚れ薬でも用意いたしますか?」
「バカなことばかり言ってないで、用件を言え」
「ステラ様へ嫌がらせをしていた者が分かりました」
「それを早く言え」
影の者にもステラへの嫌がらせについて探らせていたが、さすがクロードは仕事が速い。
「ステラ様に水をかける嫌がらせは入学後、2回ほど行われたようです。2度とも、ステラ様がたまたま一人の時、教室を移動する際の渡り廊下で、狙いすまして着替えが必要なほど水をかけたようです。
そのせいで一度は熱を出されたこともあったようです。」
「熱‥‥‥?どこの無礼者だ。許しがたいな」殺すか。私の空気が変わったのをクロードが敏感に察知する。
「はい、ダメですよ。ステラ様に嫌われますからね?」
こいつは、ステラに初めて会った時も同行していたのだ。
衝立の陰で全てを聞いていたこいつは後で散々ダメ出しをしてきた。
その時は何を言っているのかと、気にも止めなかったが、気にしたほうがよかったのだろうか。
「よい。嫌がらせをいていたのは誰なのだ」
「その嫌がらせをしていたのは‥‥‥」
まあ、予想はついていたが、元婚約者候補が陰湿ないじめに加担していた、というのは残念な報告だった。
同情の余地がないわけではないが、ステラに害をなす者を野放しにしておくわけにはいかない。
「ふむ‥‥‥」どうしてやろうか。
一族を破滅させてやることもできるのだが、穏便なほうがいいだろう。
比較的穏便な学園からの追放は社交界からの永久追放を意味する。あの父親がそのような不始末を許すだろうか。
いや、間違いなく許さないだろう。
おそらくアリア以上の苛烈な罰を与えられるに違いない。
そして、その結果をステラが知ったら、悲しむだろう。
ステラを悲しませることはしたくない。
何よりも私がステラに嫌われたくない。
学園からの永久追放ができないとなると、もっと軽い罰か‥‥思いつかない。
仕方ない。
「話を聞くか。本人を呼び出せ」
「かしこまりました」
クロードがニヤリと笑う。
「で、おまじないと惚れ薬のご用意は?」
「‥‥‥よろしく頼む。」
どうやら、弱みを握られたらしい。
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